106  氷の女王Ⅸ

 エミリーは少し心が折れ、溜息を漏らしながら訓練所に入る。



 デミトロフは、遊び感覚で興味を持っているのだろうと、エミリーはそう思っていた。



 訓練所内には距離がそれぞれ違う狙撃ポイントがあり、近くには狙撃銃が壁にしっかりと保管されている。



 セキュリティも万全であり、監視カメラが至る所に設置してある。



「す、すげぇ!」



 デミトロフは目を輝かせながら訓練所内を見渡していた。



「ジョン様、あまりウロチョロしないでください。危ないですから……」



「ねぇ」



「どうしましたか?」



「その『様』という呼び方をやめてくれない?」



「どうしてです?」



「だって同じ年なのに……そんな呼び方をされると、可笑しいじゃん」



「ですが、私の家系は……」



 と、エミリーは困り、デミトロフの目を見る。



「そんなの僕のお父さんとエミリーのお父さんたちの話でしょ。僕達は僕達なんだし、堅苦し野は嫌いなんだよね」



 そう言い張るデミトロフ。



「でも、今更この口調が直すことは……」



 エミリーは、申し訳なさそうに言う。



 分かっているのだ。



 主従関係でも絶対に主に対して、失礼のない事をしてはならない。



「それは分かっているから! だから、名前だけって言っているじゃん!」



 と、エミリーに近づき、肩を掴む。



「え?」



 頬が赤らむ。



「だから、僕と同等でいてくれよ!」



 デミトロフに言われて、エミリーは後ろに退こうとする。



 だが、足をつまずいてバランスを崩す。



「きゃっ!」



「うわぁっ!」



 デミトロフもバランスを崩し、前に倒れる。



 エミリーは下に倒れ、それを覆いかぶさるようにデミトロフが倒れる。



 しかし、倒れた瞬間良からぬことが起きた。

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