104  氷の女王Ⅶ

 ――――この戦況になると、やはり氷の女王が有利か……。



 ――――あの時、仕留め損ねたのが痛いな……。



 男性教師は、二人の戦いを見て、難しい顔をする。



 ――――だが、狙撃戦に持ち込むのは面白い。



 ――――一発の弾丸で勝負が決まる。狙撃手の呼吸、緊張感、動揺、様々な精神が戦いを左右する。



 ――――ここで決まるか。あるいは……。



 男性教師は、手を顎に当て、考え始めた。






「なぁ、ハウロック」



「なんだ?」



「大体、狙撃手の命中率内で距離がどれくらいまでなら可能なんだ?」



 男子生徒はハウロックに訊く。



「そうだな……。一般的には推定60~80メートルと言われている。だが、狙撃銃と狙撃手によっては最高で三百メートル先の標的を撃ち抜くと言われている」



「そうか」



「そして、このフィールド内は直径八百メートル時計塔は高さ三百メートル。狙撃ポイントとしては絶好な場所だ。だが、そこに現れるのはあいつだ」



 ハウロックは、上空に表示されたモニターに映るデミトロフを睨みつけた。






 デミトロフは、時計塔にたどり着くと周囲を確認しながら、左手には拳銃、右手には木刀を持っていた。



 周囲に異常は確認されていない。エミリーの姿もない。



 扉を少し開け、中を確認する。



 薄暗い時計塔の内部は、内回りに作られた階段だけが造られていた。



 上を見上げると、最上階の床が小さく見える。



 ――――やはり、ここにはいないようだな。



 ――――どうやら、俺の方がここに誘導されたとしか言いようが無いな……。



 ――――つまり、俺が上からエミリーが下からの狙撃か……。



 ――――なめられたもんだな。



 デミトロフは、階段を上り始めた。反時計回りに作られた階段は、もし、一つでも崩れたら一気にこの建物自体が倒壊するだろう。



 例え、頑丈な造りであっても絶対安全だとは言えない。



「弾の補充は十分だが……一発勝負になるだろうな」

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