089  若き魔導士の追憶Ⅱ

 デミトロフが苦笑いすると、エミリーは冗談を言いつつ、微笑んだ。



「その代わり、大佐は部下たちにお土産でも買ってあげてくださいね」



「…………」



 デミトロフは黙りだす。



「いいですね?」



「はい……」



 エミリーの念を押されて、デミトロフは心が折れて承諾した。



「それじゃあ、私はお先に失礼します。いつ頃に駅のホームにいればよろしいのですか?」



「今から三十分後だ。行先は分かっているだろ?」



「はい、分かっていますよ」



 と、言い残して、エミリーは部屋を後にした。



 ――――さて、私も着替えるとするか。ああ、一応、奴に伝言を残しておかなければ……。



 デミトロフはペンを手に取り、メモ用紙に言葉を書き残すと、それを机の上に置いたまま、部屋を後にした。




     ×     ×     ×




 三十分後――――



 セントラル駅構内、三番乗り場――――



 デミトロフとエミリーは、北の地に向かう列車に乗っていた。



「ノースシティとセントラルの間にある小さな街、シュプリンゲ。大体、ここからだと二、三時間といった所か……。エミリー、昼ご飯は買ってあるだろうな?」



「言われなくても買ってありますよ、大佐」



「大佐というのは止めろ。今はただのジョンでいい」



「分かりました。それじゃあ、この買った昼食はすべて私の物でいいんですよね?」



 エミリーが微笑みながら、駅の売店で買った弁当をこればかしに見せつけてくる。



「あ、いや……。分かった、好きにしろ!」



「ありがとうございます。大佐」



「エミリー、あれから何年くらいたった?」



 デミトロフはエミリーから弁当を受け取ると、蓋を開ける。



 エミリーは冷たいお茶を物置に置き、自分も昼食を取り始める。



「そうですね。十二年くらい前になりますね」



「十二年前か……」



 デミトロフはそう聞くと、悲しそうな目をすると、電車は目的地に向かって動き始めた。

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