しづこころなく 8
ボヤきながらも、カゴに天ぷらが入ってるのも構わずに全力疾走を続ける。
勢いよくペダルをこいでいた俺は、前からこちらへと歩いて来る黒い影に目を細めた。
――あれは……。
公園にはまだ少し距離がある。しかし案の定俺に気付いたその影は、小走りにこちらへと走り寄って来 た。
一瞬、何かとんでもない事が弘人の身に起こったのかと思った。悠長に天ぷらが揚がるのを待っている場合じゃなかったかと。
しかし。近寄って来た弘人の笑顔を見た途端、「それはない」と断言出来た。どう見ても、何か重大な悩み事や心配事を抱え込んでる奴の顔には見えない。
――って言うか、アホ面。
「……なんなんだ?」
自転車から降りながら訊くと、弘人は「いいから、いいから」と笑顔で俺の隣へと並んだ。チラリとカゴのビニール袋に目を遣ったが、それには触れず、のんびりとした歩調で足を進めて行く。
「急ぎじゃ、なかったのかよ?」
俺の台詞を聞いてヘヘッと笑った弘人は、曇った夜空を見上げた。
「うん。まだ大丈夫」
最後には俺を見て、また微笑む。どうやら、笑いが止まらないようだ。
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