心も知らず 5
「俺は。中学ん時塾に通ってたんだけどさ、一時バスで行ってたの。俺ん家って、山の方じゃん? バス待ってる時間って、丁度夕陽が沈む時間でさ。それがスッゲーきれいだったワケ。きれいだなー、この夕陽残したいなーってずっと思ってて……。ある日親父のカメラ借りてバス停行ったんだけど、なんでかその日に限って そんなきれいに見えなくて、結局撮らずじまいで終わったんだ。その後はチャリで行くようになったし」
「へぇ。じゃあ、その夕陽を絵で描きたいとか、そーゆー理由?」
「まあ、そんなトコ」
「へぇ意外。なら、中学ん時から美術部入ろうと思ってた訳だ」
「いいや。その夕陽の事なんか、すぐ忘れたもん」
「はぁ?」
この上なく怪訝そうな声が、後ろからかけられる。
「いや、ほら。いつだったか、1年の最初の頃、俺が忘れ物取りに学校戻った時に、偶然祐志と校門の所で会った事あったじゃん。全然仲良くない頃」
「あったっけ?」
「あったよ。俺等が初めてしゃべった時。そん時、あの夕陽の事思い出して」
言いながら祐志を振り返った俺は、「ああ~ッ!」と大声をあげてズンズンと祐志に歩み寄った。
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