君が巻くまで告白するのをやめない

 昨日の手作りケーキ作戦は失敗してしまった。しかもあろう事か、御崎に不器用だと思われてしまった。

 なんとかして、自分が不器用ではない事を証明しなくてはならない。


 その為にも、今回の告白も手作りの贈り物をすることにしよう。料理以外の手作りの品でオーソドックスなものと言えば、編み物だろう。編み物と言っても様々だが、俺はマフラーを作ることにした。

 理由は2つ。1つはこれだけ大きなものを1日で作り上げたら、俺が不器用だというイメージを払拭できるだろうという打算。そしてもう1つは、


「御崎! 好きだ! 俺とマフラーを恋人巻きしてくれ!」 


 彼女と恋人巻きがしたかったからだ。


「恋人巻き? 何ですかそれ?」

「1つのマフラーを2人で巻くんだ」

「お断りします」

「せめてこのマフラーだけは受け取ってくれ!」

「そもそも先輩」

「どうした?」

「今って、春じゃないですか」 


 彼女に言われて初めて気がついた。


「どうしてそんな『盲点だった』みたいな顔できるんですか!」

「じゃあ冬になったら使ってくれ」


 彼女は真剣な顔をして、一瞬押し黙った。


「言いたいこと、分かるだろ」

「……はい」


 どうやら、今回は受け取ってもらえそうだ。少しほっとする。  


「あ、すみません。やっぱり今はいらないので持って帰ってください」


 その日、季節外れのマフラーをして泣く男が、近所で話題になった。

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