第21話 episode:21



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「いったい何がどうなってるの?!」




周囲が朝の噂で持ち切りの中、昼休みに特別室3では4人による緊急会議が行われていた。




特に声を大きくして混乱する様子を見せたのは、


梨々花×幸太郎を誰よりも応援していた麗であった。




「梨々花は知っていたのか?」




真琴は心配そうに梨々花に問う。




「お母様が勝手に決めたのよ・・。」




「梨々花のお母さん・・亮子さんは昔から変わらないわね。」




やることがいつも大胆。




そう付け足した華恋も表情は変わらないが心配そうだ。






「こんな大きな話になるなんて・・。」




「梨々花ちゃん、まさか本当にあの男と婚約するの?!」




「するわけないでしょ。」




今までお母様の言うことはできる限り守ってきたけど・・




「あんな得体の知れない男と仲良く過ごすつもりは全くないわ。」




これが今回、梨々花の出した答えである。




「それを聞いて安心した~!!」




「学校中も噂で持ち切りだぞ、どうする?」




4人は頭を抱えていた。




「もっと大きな噂を流せば?」




「そんなに都合よく噂なんて転がっているわけがないじゃない・・。」




“はぁ・・。”




4人の想い空気だけが教室内に響いたのだった。




なんの解決もできないまま時間が過ぎていき、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。






「麗。教室に戻るわよ。」




「じゃあ、2人ともまたね!!」




真琴と華恋に別れを告げて特別室3を後にする。




残された教室では、引き続きプチ会議が始められていた。




「華恋、今回の事どう思う?」




「亮子さんらしいわね。」




「あぁ、愛情表現は少し変わっているが・・きっと佐々木幸太郎君の存在を知ったのだろうな・・。」




「どっち・・かしらね・・。」




「?」




「佐々木幸太郎と近づけたいのか、それとも遠ざけたいのか。」




「亮子さんの行動と思考は謎に包まれているからな・・。」




平和ならいいのだが。真琴はそういうと時計に目を向けた。




「私もそろそろ教室に戻るぞ。」




「昔は良く2人でサボっていたのに。」




「生徒会長という立場があるとね。なかなか自由がきかないものさ!」




そういうと真琴も特別室3を後にした。




「・・。」




残された華恋は一人、机に顔をふせるのであった。






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「結局どうなんだろうね。」「本当に婚約したのかな?」「お似合いだよね~。」


「あんなイケメンじゃあ勝ち目無いよな~。」「ふられるのを覚悟で告白しようかな。」




授業中にも関わらず、教室内はヒソヒソ声があらゆる場所から聞こえてきた。




“イラッ”


梨々花の事を陰でヒソヒソ言うなんて・・いい度胸してるわ。


あの男も本気で許せないわね。




梨々花の表情は更に険しいものになっていった。




授業の内容はほとんど耳へは入っておらず、


“どうやってあの男との婚約を破棄するか”


“母親の意見に逆らうか”


“そして最近心に引っかかっている感情”



この3つの問題のみが頭の中を支配していた。






(家にも帰りたくない、なによりあの男とお母様に会いたくない。)




「梨々花ちゃん・・この世の果て!みたいな顔になっているよ・・。」




休み時間になり、駆け寄ってくる麗もさすがに心配していた。




「現にこの世の果てレベルよ。」




「確かに・・。」




「学校にも居たくないけど、家にも帰りたくない。」




最悪だわ・・。




梨々花の気持ちとは関係なく、時間はいつも通り過ぎて放課後を迎えていた。






「麗、今日は先に帰るわね。」




「待って!!一緒に帰ろうよ!!」




1人で帰すのは危険な気がする!と麗は察し梨々花を引き留めた。






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梨々花と麗は下駄箱から靴を取り、裏口を抜けて裏門を目指す。




正門にはいつもの倍の人数が待機していた。




「絶対あれ、梨々花ちゃんの出待ちだね。」




「あんなに門に群がって何が楽しいのかしら。」




「?!」




先を進んでいる麗が何かを発見したらしく、急に立ち止まる。




「ちょっと!急に・・」




麗が急に梨々花の口と目を手でふさぐ。








「?!」




口と目を手でふさがれた梨々花は反抗するのだった。




反抗して見えた視線の先に梨々花は固まった。




裏口の先、裏門の手前。


麗の手と手の間。


密着をする男女の姿。


目に映ったのは、礼が幸太郎に抱き着いている姿であった。




「梨々花・・ちゃん・・?」




「なにあれ・・。」




梨々花と麗の視線に気が付いた幸太郎が我に返ったのか、急いで礼を引きはがした。




「?!」


梨々花と幸太郎の視線が一瞬重なる。


梨々花にとってはその一瞬が随分長く感じた。




“ズキンッ”




心のよく分からない部分がひどく傷んだ。




「私はね。幸太郎がずっと好き。男として好きなの。」




「あはははは!!」




梨々花の笑い声に3人の視線が集まる。




「夏目梨々花・・。」




「梨々花ちゃん?!」




「あははは!2人とも一般市民同士お似合いじゃない~!!あははは!」




何かを隠すように梨々花はひたすら笑った。




梨々花は目が熱くなっていた。




「はぁ~笑い過ぎて涙が出ちゃうわ~!!本当に面白い~!」




じゃあ!のぞき見して悪かったわね!!




そういうと梨々花は裏門へと走っていった。




「ちょっと!梨々花ちゃん?!まってよ!!」




麗もその後を急いで追いかける。




「待って梨々花!」




幸太郎の声にも振り向かなかった。


振り向けなかったのだ。




「幸太郎、私を女として見て。」


礼は幸太郎の腕をガッシリとつかんだ。




「俺は・・。」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




はぁはぁはぁ




学校からしばらく走った場所で梨々花は息を切らした。




目の下には生暖かい感触が流れていた。








「梨々花ちゃん・・やっと追いついた・・。」




「ズッ麗・・梨々花・・」






小さな声で続けた。






「幸太郎君が好き。」




口に出した瞬間、梨々花の目からは涙があふれた。




「梨々花ちゃん。」




麗は優しく梨々花に抱き着いた。




(まったく~気付くの遅いよ~。)




「なななな泣いてなんか・・いないっいないから・・!」




「分かってる。私はなにも見ていないから。」




梨々花の泣き顔を麗は初めて見たのであった。




「梨々花・・変な事言っちゃった・・どうしよ・・。」


涙と鼻水でグチャグチャになった顔を麗に向ける。




「こういう時は・・素直に幸太郎君に伝えに行こう!」




麗は持っていたハンカチで梨々花の涙と鼻水を優しくふき取る。




「梨々花、幸太郎君のところに行ってくる!」






「あら~。そうはいかないわよ~。可愛い私の娘よ。」




待っていました!と言わんばかりのタイミングで亮子が近くの車から降りてくる。




「お母様・・」




「かわいい娘を泣かせる男のところになんて行かせないわよ?」




亮子は今日も楽しそうに微笑んでいた。




「別に泣いていたわけじゃないわよ。」




「まぁいいわ、帰るわよ。あなたの婚約者が家で待っている。」




「それは!」




「話は後よ。まずは家に帰ってから。その後聞くわ。」




そういうと亮子は車へと戻っていった。






「亮子さん・・もしかしてずっと見張っていたのかな・・。」




「麗、今日はそばに居てくれてありがとう。梨々花、今日は帰るわ。」




「でもっ」




せっかく幸太郎君への気持ちに気付いたのに・・




「もう気持ちに嘘はつかないわ。けど、まずは問題を解決してくる。」




そういった梨々花の目はもういつもの梨々花であった。




「分かった。なんかあったら連絡してね。」




返事の代わりに笑顔を返して梨々花は、車へと乗りこんだのであった。




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