第7話 episode:7
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何分間この空気に耐えただろうか。
乗ってから数分間、誰一人として口を開くものはいなかった。
ただ一人、真ん中に座っているさちかは歩き疲れたのか、梨々花にもたれかかりウトウトとし始めた。
「さちかちゃん…疲れちゃった?」
梨々花は心配そうにのぞき込む。
「ただのはしゃぎすぎだろ…。」
「…。」
「…。」
(いつもどんな話をしてたかしら…なんなのよ、この沈黙!)
2人の耐えられない空気を破ったのは、桐であった。
「お二人はどこで知り合ったのですか?」
「えっと…こないだ駅のホームで調子が悪くなった時に助けてくれたのが、佐々木君なの。」
「あの時の!先日はありがとうございました。梨々花様のピンチを救ってくださったのですね。」
「そんな大げさに言わなくても!!」
梨々花は顔を赤くしていたが、幸太郎は表情を変えずにいた。
「いえ、夏目さんが無事でよかったです。」
「なっ!!」
恥ずかしい言葉に梨々花はさらに顔が赤くなるのであった。
「ちょっと桐!この車暑くない?」
「冷房ばっかりに当たると、また体壊すぞ?」
「ッ!大きなお世話よ。」
車内温度は26℃とても適温で幸太郎家を目指していた。
「佐々木のお母さん、状態は良くなったの?」
いきなりの質問に幸太郎は少し驚いたが、
あぁ。こないだよりだいぶ元気だよ。
と力なく答えた。
「桐!!私、甘いものが食べたくなったわ。いつものお店によってちょうだい!」
いますぐよ。と梨々花は付け足すと窓の外を眺めた。
「かしこまりました。梨々花様。」
それからしばらくして、オシャレな建物へと到着した。
「梨々花様。わたくしが行ってきましょう。」
「いや。今日は私一人でいくわ。買い物がしたい気分なの。」
そういうと梨々花は財布のみを持ち店内へと歩いて行った。
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こんなおしゃれなお店がこの辺にあったんだな…。
幸太郎は車の中から梨々花が店に入っていく様子をみていた。
「佐々木様。梨々花様をこれからもよろしくお願いします。」
桐は視線を幸太郎へ向けるとニッコリと微笑んだ。
「いやっ。そんな仲じゃないですよ。」
「すっかり仲の良い友人かと思っていました。」
「なんというか、月とすっぽんですよ。友達なんて恐ろしい。」
夏目さんは有名人ですし。
そう付け足すと桐から目をそらした。
「梨々花様は、壁を作りやすいので、家の者も皆心配しているのです。優しいお方なのですが…。」
「全然かかわりはないけど、なんとなく優しいところとかぶっ飛んでるところは伝わってきます。」
「ふっ」
桐と幸太郎はクスクスと笑いあい、車内はあったかい空気に包まれていた。
“ガチャ”
「あっ、梨々花様おかえりなさいませ。」
そのとき片手に大きな袋を持った梨々花が帰ってきた。
「なんだか2人で楽しそうな話をしてるじゃない。ドアくらい開けてくれる?」
そういうと梨々花は桐にため息をつく。
「申し訳ございません。少し話し込んでいました。」
「話し込むって何をよ?」
「…。」
「…。」
「ちょっとなんで2人とも黙るのよ?!」
「そっそういえば何を買ったのですか?」
「そうだった!」
思い出したように大きな箱を幸太郎へと渡した。
「はい、これ。」
「えっ?」
いきなり渡された大きな箱に幸太郎は驚く。
「重いんだから、これ持ってくれる?」
幸太郎に渡された大きな箱はずっしり重荷を感じた。
「ここのケーキおいしいから。プレゼントよ。」
「こんなものもらえるわけないだろ…。」
「体調が悪いときはいつも甘いのも食べると治るのよ!」
そうして梨々花は窓のほうへと向く。
「けど」
「いいから!さちかちゃんの好きそうなのも選んだから!つべこべ言わずに受け取りなさい。」
そういって強制的に箱を幸太郎へと渡したのであった。
「ありがと。」
そういわれ梨々花の顔は耳まで真っ赤になったのであった。
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しばらくして到着した佐々木家付近で爆睡をしていたさちかを起こして
佐々木兄妹は家へと入っていった。
「桐、帰りましょう。」
「はい、梨々花様。」
梨々花と桐は何も変わらないいつもの空気へともどっていた。
「まさか水族館へ行っていたご友人に会えるとは。」
「一つ訂正をしておくわ。友人ではなく、顔見知りよ。」
「…。梨々花様は、顔見知りの方と水族館へいかれるのですか?」
「それは、助けてもらったただのお返しよ。借りを返したの。」
「梨々花様は、顔見知りにスイーツをプレゼントするのですか?」
「桐、しつこいわよ。」
梨々花の睨みによって友人か、顔見知りかの討論会は幕を閉じた。
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「ねぇねぇお兄ちゃん!!その箱なぁに?」
普段は寝起きはいつも機嫌の悪いさちかであったが、今日は寝起きから1分で機嫌はすっかり良い。
幸太郎の持っている白い箱のおかげであった。
「これは、なんだろうな、結構重いけど。」
「さっちゃんが持つ~!!」
そういって箱を持とうとするが必死に阻止をする。
「帰ったら開けるから。まずは玄関のドアを開けてくれ。」
「わぁい!!」
“ガチャ”
「ただいま。」
「お母さーん!ただいま!!」
遠くからガサガサと音が聞こえかすかに返事が聞こえた。
「2人とも、おかえりなさい。」
かすかに聞こえた声の主は佐々木家の母であった。
「お母さん、体調大丈夫?」
「だいぶ良くなったよ。2人が家の事をやってくれてるからね。」
「今日も頑張って手伝いするね!!」
さちかはいい子だね~、そういって頭を撫でる。
「あらっ。幸太郎、その箱はどうしたの?」
「あぁ、ちょっとした知り合いにもらった。」
「そうなの!これね、梨々花おねぇちゃんがくれたんだって!」
「…リリカオネェチャン?」
あぁ!と母は何かを察したように
「幸太郎の彼女か!」
と嬉しそうに答えた。
「おいおい。彼女じゃねぇよ。」
「一緒に水族館に行ったのに?」
「あれは、さちかの付き添いで。3人でだし…」
「幸太郎が女の子を特別扱いするなんて珍しい!ついにあんたにも彼女が…」
勝手に話を進める母親にため息をつき
「じゃあこの中身は俺だけが見ちゃおっと。」
白い箱ごと部屋へ行こうとした。
「やだ~中身見せて~~~!!!」
「先に手を洗って来たらいいぞ。」
「今洗う~!お兄ちゃんも早く!」
“カパッ”
箱の中にはプリン・ショートケーキ・モンブラン・チョコレートケーキ・チーズケーキといったまるで宝石のようなケーキたちが8個も入っていた。
(あいつ…いったいどう計算したらこの個数になるんだよ。)
この個数をショーケース前で悩む梨々花を想像すると
幸太郎はフッと一人で笑えたのであった。
「幸太郎、あんたなに一人でニヤニヤしてるのよ。気持ち悪いわよ。」
「はいはい。悪かったな。早く何食べたいか選べよ。」
「さっちゃんイチゴ~~!」
さちかはその後ショートケーキとプリンをほおばったのであった。
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“ガチャ”
そのころ夏目家では、プリンセスが部屋へと到着したころであった。
(今日もなんだか疲れたわ…。)
自室に入るなりベッドへと倒れこんだ。
♪~♪~♪
スマホの画面がひかり、画面には春野麗と表示された。
麗からのメールを仕方なく見ると
“今日貸した漫画絶対に見てね!”
とだけ送られてきていた。
(すっかり忘れていたわ…。)
表紙には“闇の国の過保護君”と書かれており麗おすすめの恋愛漫画らしい。
1ページめくって梨々花は固まった。
(漫画…ってどうやって読めばいいのよ!!!!)
絵と文があふれており、始めて漫画を読む梨々花にとっては
キュンキュンどころではなかったのであった。
「読み方をwebで検索して…。」
右上、左上次に…右下にいって…
ブツブツと唱えながら進んでいくがまるで内容は入ってこない。
そして1ページを読み終わるにのに何分も必要とし
もう無理だ…。
梨々花は1時間近く戦い、10ページ目で力が尽きたのであった。
これは梨々花には解読不可能だわ。
漫画を読むことに関しては、麗には頭があがらないと思ったのであった。
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