第三十八話 開戦、先制打、この野郎!
第二グラウンドは周囲を校舎に囲まれている。土のグラウンドを木がまばらに植えられ、囲まれている。校舎二階から上で見る分には問題ない。広さは十分。観客も沢山居る。その観衆の中にシャオイーや皆が居るのだろう。
「流石に緊張しますね」
舌がよく乾く。手が震え、鼓動も速くなる。
「そう気張るなと言うのも無理か。それじゃあ、一つ。頑張るな。今更頑張る必要はない。実力をぶつけろ」
ラオロウ先生の言葉を背に会場に乗り出した。
***
第二グラウンドにはグラ―ディオ先生が一人立っていた。
「お、先に来たのはリンフォンか。ヴェルデ先生の強行を止められなくてすまない」
真直ぐに瞳を向けて謝られた。周りの目もあるのか頭こそ下げなかったが、今となってはどうでもいい。だから、手で制した。
「今は試合に集中したいので」
直ぐに反対側からバラクネがやって来た。装飾が控えめな鎧に、アロンクレールを腰に佩いている。そして、その背後にはヴェルデ先生が自信ありげに俺を見下すような視線を向けている。
「逃げなかったな。まぁ、精々恥をかかないように頑張るんだな」
相変わらずの憎まれ口だった。それに被せる様にヴェルデ先生が何か言っているが耳には入れない。
「B組に負けるお前が言うのか? 滑稽だな」
切り返しに対してヴェルデ先生が何かを喚くが、バラクネは冷ややかな微笑を浮かべている。
「バラクネ対リンフォンのエキシビジョンマッチを行います。双方構え」
俺とバラクネの距離は約五メートル。一足飛びで互いが間合いに入るだろう。俺は左手を前に膝を落として構え、バラクネはアロンクレールを引き抜いて剣先を下げる。
「始めッ!」
開始が告げられる。
当初の予定通り進めるために一気に距離を詰める。バラクネの体からはまだ電気は発生していない。と、なれば高速移動も無い。
ゼロ距離への接近に成功した。剣先が下がっている分、胴が空いて無いがそれでも強引に技を入れにかかる。
「裡門頂肘!」
バラクネの体の内側に右足を差し込む。そこから肘を捻じ込んでいく。
「クソッ!」
剣でのガードが遅れている。腹から胸元が空いていた。そして、バラクネの悔しがる声。決まった。
そう思った。が、その一撃はバラクネの特性によって防がれた。
バチッ。
青と黄色の火花が散った。右腕も弾かれた。
「あ、危ねぇ!」
バラクネの体から発生した雷が肘を防いだのだ。出力こそ低いが、バラクネは無傷で、俺のカンフー服の肘部分が焼け焦げ、煙が上がっている。ダメージこそ与えられなかったが、欲しかった表情が得られた。
「なんだ。そんな顔、出来るんじゃないか。安心したぞ」
インパクトは与えた。が、こちらも油断できない。今の雷による防御でこちらも手を出しにくくなった。今のは急な攻撃に対しての防御であって、こちらを完全に敵として認識したならば二度目は無いだろう。けれど、今はそれで十分。
「「「「ワーッ!」」」」
校舎側から歓声が沸いた。これを見ている誰もが俺が負ける事をそれも為すすべなく負ける事を予想していただろう。それが一時でも夢を見せた事は大きい。
再度距離を取った。次の攻防以降踏み込ませる事をバラクネは許さないだろう。
糸の束を数本取り出し、手の中に収める。勿論、螺旋魔法用ではない。バラクネのとある攻撃に対して、特殊な加工をしてある。
「雷霆の一撃を」
剣を振り上げた。そして、この後に来る行動がこの戦いの鍵を握る、はず。バラクネの体が雷に包まれて全身から電気が無数の糸の様に伸び始める。
バチッ、バチバチ。
その内の一本が俺の背後に伸びている。
「!!」
手にした糸を一本投げた。雷が糸に吸われるように走る。
「何?」
バチッ! ガツン!
左やや後方でバラクネの剣が叩き付けられた。やや首を傾げたバラクネだが、直ぐに剣を構え直す。しかし、予想通りと言うべきか想定外なのか。これで一つ分かった事があった。それはバラクネの雷は魔力よりも自然の雷に近い事が分かった。それに自身で細かい操作が利かないのも大きな収穫だった。
「なるほど。懐かしいな。けど、それは最後にとっておくべきだったな」
バラクネが不敵に笑むと剣の間合いに詰め寄ってくる。雷を介した移動法を止めて正面からぶつかってくるつもりなのだろう。
荒っぽい動きだが、確実に獲物を狩るべく立ち回る。野生児の様な動きだった。横薙ぎから動きを止めることなく足払いに移行する。型ではなく、本能で動いている。
「おわっ! っと」
バク転で距離を取ると側面に回り込まれる。こういう手合いには慣れてはいないが、体は何とか反応できている。剣を踏み込みながらの払い斬り。
「それぐらいならッ」
こちらも右足を踏み出して、右手をバラクネの左肘に押し当てる。そこから空いた手の手のひらを押し出す。しかし、雷による防御が脳裡を掠めた。
トン。
軽く当てるだけ。また、距離を空けて向かい合う。
一筋の汗が流れる。頭の中にあったプランはほぼ無くなっている。無くなったといよりもそれを行う余裕は無い。
「同じクラスメイトとは違った緊張感だな。やはり、認識を改めなければ」
剣を一度鞘に収める。素手で戦うつもりは無いだろうが、不気味だ。
「纏雷」
掛け声と同時に全身が黄色く光る。更に髪も逆立っている。初めて見る形態だった。近付こうにも近くには行きたくない。
「さて、始めるか」
剣から弾ける電気がいやに眩しい。更に空模様も雷雲が立ち込める。ゴロゴロと嫌な音も耳に届き始める。会場の外もざわつき始める。試合が大きく動き始めようとしていた。
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