第48話 準備

 慌てて加恋を見やる。

 消失は始まっていないから、消えるということはないだろうけれど、見る限りその傷は浅くない。

 僕は出発前に夏樹から受け取っていた包帯を取り出し、加恋を抱き寄せた。

 力があたったのは腹部。

 無断で女子のそこに触れるというのは自殺行為に近いが、気絶している相手にはそうもいっていられない。

 躊躇なく服をめくり、包帯を巻いていく。

 その間は隙だらけだ。

 どこから攻撃が飛んでくるかわからないし、それを防げるとも限らない。

 しかし、だからこそ慌てるわけにはいかない。

 どちらも一度に完璧にこなそうとすると、必ず両方中途半端に失敗する。

 それだけは絶対に避けなければならない。

 できるかぎり周りを警戒しながら、丁寧に包帯を巻き終える。

 本当は加恋を安全な場所に移動させたいけれど、今この状況では不可能だ。

 僕は立ち上がり、改めて敵を確認する。

 全部で4人。

 その全員が頑丈な身体をしている。

 ああ、目が後ろにもあったらいいのに。

 背後で力をためている気配を感じる。

 おそらくそれは僕に向けるものではなく、横たわる加恋にとどめを刺そうとしているものだろう。

 できる限り力ではやりあいたくなかったが仕方ない。

 僕は素早く、小さいが鋭い形の力を発生させ、振り向きざまに攻撃しようといているやつの手にぶつけた。

 突然のことで状況を把握できないないであろうそいつは、手にぽっかりと空いた穴を呆然の眺めていた。

 もちろんその手から力が放たれることはなかった。

 同時に、これから先、その手から力が放たれる可能性もなくなった。

 とても喜ばしいことだけれど、僕的には少しやりすぎたと思う。

 今の一撃で、奴らは完全に僕を警戒した。

 大きな力を放つための準備に入ったやつもいる。

 少し傷つける適度でよかったのだ。

 そうすればさほど警戒されずに、うまくいけば逃げれたかもしれないから。

 でもまあ、こうなってしまった以上仕方ないのだろう。

 こいつらを倒すのは無理だ。

 だからどうにか振り切って逃げる必要がある。

 が、蹴散らすのには多少無理がある。

 僕は立ち上がり姿勢を正すと、これから先の行動を考え始めた。

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