第八十五譚 沸き起こる歓声
『只今、舞台の整備を行っております。決勝戦の開始までもうしばらくお待ちください。繰り返します、只今――』
控室に本部からのアナウンスが流れる。
「まだ時間がかかるみたいだね……」
シャッティが自分の道具の修理を行いながら、アナウンスに対しての話を振ってきた。
「その分身体の調整やら作戦会議とかできるから良いんじゃないか?」
「そうかもしれないけど……。わたしは早く戦いたいよーっ!」
「まあそう暴れるなって」
そう言ってソファーで暴れ始めるシャッティを背に、俺は自分の長剣を研いでいた。
俺が三度目の人生を歩み始めたその日に貰った長剣。
なかなかの掘り出し物だったけど、遂に刃こぼれが目立ってきた。
だからこそ長剣を研いでいる訳なんだけど、俺はそういった専門じゃないために上手く研ぐことが出来ない。
昔からこういうことは鍛冶職人のもとに行って研いでもらっていたから、自分で研ぐなんて事はあまりしなかった。
とは言っても、伝説と伝えられていた武器を手に入れてからは刃こぼれとかしなくなったため、一切鍛冶職人のもとには行かなくなった。
今となってはもう関係のない話なんだけどな。
「アルっち、次はどんな作戦で行くの?」
いつの間にか俺の背後に立っていたシャッティに声をかけられる。
「そうだな……とりあえず、エネレスって奴とは俺に戦わせてくれ」
「じゃあわたしはムルモアっていう人間を相手にすればいいんだね?」
「ああ、始めは個々で戦って、危険な状態になりそうだったら二人で戦うぞ」
そう言葉にすると、シャッティは魔矢を持ちながら笑顔で頷いた。
『決勝戦の準備が整いました。選手は速やかに入場口へお並びください。繰り返します、決勝戦の――』
控室に流れたアナウンスを聞いた俺はゆっくりと立ち上がり、扉に向かって歩く。
「さてと、最後の試合は最初から本気で行きますか!」
「ふっふっふ……わたしの強さを見せてあげる!」
俺たちは扉を開け、入場口へと向かった。
□■□■□
「アルヴェリオ選手にシャール選手ですね? お二人は北の入場口へ向かって下さい」
入場口前の受付にて入場場所を教えてもらった俺たちは、すぐさま北の入場口を目指した。
こんな風になぜ事前に場所を指定しないのかというと、先回りして入場口に何かを仕掛けられないようにするためだと教えてもらった。
俺がリヴェリアだった頃はそんな事が起きたという話は聞いた事がなかったが、今の時代はそういった行為をする奴がもの凄く多いとか。
確かに、先回りして罠を仕掛ければ相手を戦闘不能にさせることもできるだろう。
だけど、それはこの武闘大会においてあまりに非道な行為だ。
この大会は、互いの力を高め合い、正々堂々と戦うことが目的らしいからな。
「北の入場口に行けば決勝戦……」
「どうした? 今更になって緊張してきたのか?」
「緊張するよ! だってもう決勝戦だよ、勝ったら優勝って試合なのに緊張しない方がおかしくない!?」
「そ、そうか?」
俺はこの時、過去の事を思い出していた。
勇者としての責任感、生きるか死ぬかの戦いを初めて味わったあの日、自分よりも遥かに大きい巨大生物との戦闘、魔王との戦い。
これらを味わった俺はもうそういう事じゃ緊張できないぐらい鍛えられている。
実際、魔王との戦いに比べたら武闘大会の決勝戦なんて可愛いものだ。
だって世界の命運かかってないからね!
「とりあえず肩の力は抜いとけよ? いざっていう時に本領発揮できないんじゃどうしようもないからな」
「わ、わかってるよーっ!」
「はいそこ殴らない」
そのまま談笑を続けていた俺たちは、いつの間にか北の入場口に辿り着いていた。
「では、ここで待機をお願いします。入場はこちら側からですので、実況者が話し始めましたら入場する準備をしておいてください」
係員に言われた通り、入場口前の薄暗い廊下で待機する。
入場口の向こうからは観客のざわざわとした声が聞こえてくる。
俺たちは静かにその時を待った。
『はい! お待たせいたしました、いよいよ武闘大会本選決勝の試合が開始されます!!』
実況者の言葉が聞こえてきた。
その言葉の後に、大勢の観客の歓声が響いた。
「では、そろそろ入場ですので準備をお願いします」
「よし、シャッティ行くぞ」
俺がそう問いかけると、シャッティは一度深呼吸をしてから立ち上がった。
「うん! もうばっちりだよ!」
俺はそれに笑顔で応えた。
『会場の皆さん盛り上がってますね!! 私ももの凄く盛り上がっています、というよりもう待ちきれません!! では登場していただきましょう!!』
「ではご健闘を」
『三年連続の伝説を成し遂げた“味方殺しのトラッパ―”に今大会が初参加のダークホース!! さらにさらに! その選手は先日冒険者になったばかりという異例の人物!!』
俺たちは並んで入場口を歩いていく。
出口に近づくにつれ徐々に明るく、観客の歓声が大きく聞こえてきた。
外の光が俺たちを照らした瞬間、大歓声が沸き起こる。
『そのペアこそ! 『アルヴェリオ&シャール』ペアだーッ!!』
歓声を浴びながら、俺たちは堂々と舞台に上がって行った。
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