〇6月23日(土)午後2時15分

 結局、十五分遅れで始まったものの、吹き出す新郎の汗は止まらず、感動の涙とごまかそうにも無理があるような顔面でありながら、式自体は少しの巻きだけでつつがなく執り行われていくのであった。


 一キロ余りの道程を見事走り終えた新郎の顔には、この場にそぐわない疲労の二文字が色濃く刻まれている。そもそもたかがBGMのためだけに奔走した意味があったのか、二十年後くらい先に笑い話として語れるか否かの判断に委ねられるため、今の段階では誰にも分からないのであった。


 指輪に関しては、百二十点くらいの出来であった。大振りのダイヤをしっかりと支えるゴールドの爪。細くシンプルでありながら緩やかなカーブを描く輪は、新婦の長い薬指と大き目の手にフィットしつつも、過分な圧を指には掛けておらず、嵌めているというよりは嵌まっているという感じで至極自然である。新婦の柔らかな笑顔に、ようやく久我はここ何日かの奮闘が報われたと実感するのであった。


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