第160話 対立(2)

「この前の真尋と椎名ゆりの企画。 サンライズの伊橋社長がなあ、」


志藤は斯波に話す。


「ああ・・なかなか話をきいてくれないとか、」


「そうそう。 それがな・・なんと企画、通りそうやねん。」


「え?」


「昨日、おれが一人で行ったらもう・・けんもほろろでなあ。 相手にもしてくれへんかったのに、今日、栗栖を連れて行ったら・・」


3人はエレベーターに乗り込む。


「も、いきなり伊橋社長、栗栖の胸ばっか見て。 頭まで真っ赤になってんねん。 おっかしいったら。 栗栖が2回くらいお願いしたらな、とりあえずOKしてくれて。 ほんまおかしかったよなあ、」


志藤は萌香に言った。



萌香は苦笑いを返した。



「・・そのために・・」



斯波はつぶやく。



「え?」



エレベーターが開いて、下りながら志藤は斯波を見た。



「・・そんなことのために・・彼女にこんなきわどい服を買ってやって・・?」


「そんなきわどくないやろ。 ちゃんと美人秘書風にまとめたつもりやけど?」


志藤は軽くそう言った。




そのとき


斯波の中でブチっと何かが切れた。




立ち止まった彼に、



「なに?」


志藤が振り返った瞬間、




「ほんっと・・何考えてるんですかっ!!」



斯波はいきなり志藤を殴りつけてしまった。



昼休みでエレベーターに乗ろうとしていた他の社員もいて、みんなびっくりして立ち止まった。


「し、・・斯波さん!」


萌香は驚いた。



志藤は勢いでよろめき、壁に手をついて、


「・・いって・・」


顔を押さえた。



「本部長! だいじょうぶですか?」


萌香は駆け寄った。



「血・・」


と口元をおさえた。



斯波はそれでも尚、志藤の胸倉を掴むように彼を壁に追いつめて、



「・・彼女を何だと思ってるんですか!」



と言った。


志藤は動揺しながらも


「・・アホ・・みんな、見てる・・」


ボソっと小さな声で言った。



「え・・」



気がつくと周りに人だかりができている。



「・・とりあえず、やめろ・・」


志藤は口元を押さえながら言った。


そして、わざと笑って


「・・マジになるなよ・・めっちゃ痛かったやんか、」


とふざけたようなふりをして、斯波の背中を叩いて、そのまま誰もいない会議室へ行った。


萌香は慌てて二人を追いかけた。



「・・いてて・・」


萌香は志藤の手当てをしてやった。


斯波は


ずうっとうな垂れていた。


「・・なんてこと、するの・・」


萌香は彼を責めるように言った。


「志藤さんはふざけてる! 萌香のことを何だと思ってるんですか!」


怒りが収まらない斯波は大声を出した。


「何って、」


志藤は口元を押さえながら言った。



すると萌香は彼をキッと睨んで、


「私は本部長のお役に立てるなら。 こんなことどうってことないわ。 別に何されたわけじゃないし! 本部長だってそんなことわかってはるし。 あなたがとやかく言うことでもないし、ましてや本部長を殴るなんて!」


大きな声で返した。



いつも物静かな彼女が、こんなに大きな声を出すのも初めて聞いた。


「志藤さんは、仕事なんかゲームと一緒だと思ってる! どんな手を使っても、うまくいきさえすればいいと思ってる! そのために萌を利用して!」


「利用なんかされてへん! 清四郎さんこそおかしいわよ! いちいちそんなことを気にして口出して! 本部長にこんなことをして!」


「もういいから。 栗栖・・」


志藤は言った。


「よくありません!」



斯波は拳を震わせ、


「・・なんで、何とも思わないんだ! 体張るようなマネして! ずっと・・ずっとそうやって生きてきたからか!?」


興奮した斯波は思わず萌香に言ってしまった。



萌香はハッとして彼を見上げて、ぎゅっと唇をかみ締め、思いっきり彼の横っ面をひっぱたいた。


「・・って・・」


「栗栖!」


志藤は驚く。


「・・そうよ・・なんとも思わないわ。 このくらい。 もっともっとすごいことしてきたから! 私は!!」


萌香は大きな瞳から涙をポロポロとこぼした。


「・・あなたから・・そんなこと、言われるとは・・思わなかった、」


萌香は堪えきれずにその場を出て行ってしまった。

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