第49話 彼を、思う(3)

忙しくて


みんな外出・・



南は忙しい中も


自分だけデスクワークで


もともと張り切り屋の彼女は


こういう机にべったりな仕事は好きではない。



それもあり


イラついて、


「はあ~~~、」


デスクに臥せった。



「おい、」


そんな彼女に戻ってきた斯波は突っ込む。


「・・なに・・」


南はジロっと彼を睨む。


「おまえ~・・この前も書類にファンデーションがくっついてたぞ! やめろっつーの、それはっ!」


「うるさいね。 しょうがないじゃない。 暑いし。 夏なのにおもろいこといっこもない、」


「しょうがないだろ~。 いっそがしいんだから、」


「ね~、どっか遊びに行こうよう・・」


南は甘えるように斯波の手を取る。



「人の話を聞いてねえ。 今、忙しいっつっただろ。」


「志藤ちゃんも忙しいとか言ってぜんぜん遊んでくれないし、」


「だからっておれにふるなって。」



南はなんだかカチンときてしまって、彼のわき腹をつついた。



「・・なんだよっ、」


「あ~、感じてる~、」


とからかうと、


「バカっ!」


ちょっと顔を赤らめてファイルで彼女の頭を叩いた。


「ちょっと、も~~!」


子供のように二人はじゃれあっていた。



萌香は資料室から戻ってきて、その光景を何となく目撃してしまった。


「30すぎて子供みたいなことしてんじゃねえよ、」


斯波は笑いながら南の耳をぎゅっと引っ張った。


「いったーい! もう、ピアス、取れるし~、 そんなんしたら、チューして口紅べったりつけるよっ!」


と、冗談めかして彼の頬にキスをしようとしたので、


「だからっ!!」



力づくでそれを阻止する。


それでも


すごく楽しそうで。



あんな顔


するんだ。



萌香はぼんやりと


立ちすくんでしまった。




「あ、萌ちゃん。 おかえり~。」


南が彼女に気づいて言った。


「ね、これから3人でランチいかない? もうお昼だし~、」


と誘ってみたが、


「・・いえ、私は。」


萌香はうつむいてそのまま席に着いてしまった。


「どうぞ・・お二人で。」


ポツリとそう言った。


「ん~、じゃあ・・社食でいっか・・」


南は気が抜けたように言う。


「・・どこでも、」


斯波はため息をついた。



「あれ? どこ行くの、」


ちょうど出ようとすると志藤も戻ってきた。


「ああ、お昼。 慎ましく社食でいっかって。 ね?」


南は斯波に言う。


「おれは今ジュニアと懐石ランチ行っちゃった。」


ふふっと笑う。


「ふん・・一般職は社食なんだよっ、」


南は志藤の背中を叩いた。




志藤が部屋を見ると、萌香がひとりデスクワークをしていたので、


「栗栖も行けば? 昼、まだやろ?」


と声をかける。


「・・いいえ。 どうぞ行ってくださいって今言ったところですから、」


小さな声でそう言った。


志藤と南は顔を合わせて、ふうっと息をつく。



「あ~、ほんまにも~、世間は夏休みやって言うのに、」


志藤は席に着いて萌香に言うともなしにそう言って恨めしそうに日差しをさえぎるようにブラインドを閉めた。


萌香はそれにも答えずに黙々と仕事をする。



志藤は何となく『イジワル』をしたくなってきた。



「斯波のヤツ、入ってきたばっかのころ・・南のこと好きみたいでさ、」


ボソっと言った。


「え・・」


萌香は思わず反応してしまった。


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