第30話 襲ってくる家
私はちょっと照れ臭いけどお父さんと手をつないで家の中に入る。
後ろでは女の人がお母さんにしがみついている、これなら大丈夫だろう。
ひんやりどころではない数珠を持っていてもゾクゾク寒気がする。
「これは相当なものだわこれじゃあ誰だって逃げ出すね」
勝手口の奥は板が張ってなくてコンクリートのまま奥へ続いている。
左右に並ぶ一つ一つの部屋をお父さんが懐中電灯で照らして子供を探す。
子供のお母さんは声も出ないようだ。
お父さんが、
「善繡は霊の存在が分かるのかい」
「うん、寝ているときに色々有って仏さまに助けてもらった」
「ほうそれは良かった、やっぱり仏だなあ、ここでは仏の力も及ばないか」
「そんなことないよ、お数珠が助けてくれている、仏様の杖みたいなものじゃない」
「そうだったな、おっ子供だ」
子供のお母さんが、
「ひろゆき!」
と呼んで前に出てきた、中へ入ろうとするがお母さんが引き留めている。
「お父さん」
「ああ」
お父さんは私に懐中電灯を渡してぼろぼろの畳の上を靴のまま上がる。
手を離すわけにはいかないので背中に手を当てたまま私も付いていく。
お父さんは眠っている子供をそのまま抱いて、
「よしとにかく外へ出よう」
お父さんに続いて外に出ようとしたら背中を何かに引かれた。
嫌な予感。
「ぎゃていぎゃていはらぎゃていはらそうぎゃていぼじそわか」
お経を唱えて振り返る。
どこにも見えなかった4センチほどの古い角材が押し入れのような所から飛び出していて突き抜けた釘が私のトレーナーに引っ掛かっていた。
トレーナーを手で振って釘から離す。
その間にお父さんは先に進んでいて私の手から離れていた。
「ぎゃていぎゃていはらぎゃていはらそうぎゃていぼじそわか」
お経を唱えながらお父さんに追いつこうとしたとき天井が「ミシミシ」と嫌な音を立てお父さんの頭上の板が左右に裂けた。
思いっきり床を蹴ってお父さんの背中にぶつかり前に押し出す、前に倒れそうになったので肩を引いて私が下敷きになって後ろ向きに倒した。
大人と子供二人分の重みが
首をひねって顔だけを横にずらすと狸顔をかすめて真横に石が落ちた、「ドカッ」っと。
まともに当たっていたら顔がつぶれていたかも、顔と同じくらいの石だった。
怖がっている場合じゃない。
「お父さん立って」
お母さんと子供の母親が急いで起こす。
「早く外へ」
なんだか家が揺れているような、「ミシミシミシ」
「バン!」
出口の扉が勢いよく閉まった、閉じ込めるつもりだ。
立ちすくむお母さんたちの横を抜けてお父さんの手を引いて扉の前に立ち扉を蹴る。
「ガン」一回「ガン」二回「ガン」三回目で扉は外へ吹き飛んだ。
お父さんの手を引いて外へ出る。
家が傾いている、「グー、メキッ、バキ」と音がして倒れ始める。
お母さんの手にひかれて子供の母親も飛び出してきた。
「もっと家から離れて!」
「グーーーー、メシメシバキバキッ」
狙ったように私たちの方へ家が倒れてくる。
お父さんは子供を私に押し付けて倒れているおまわりさんを背中から引っ張り庭の外まで運んだ。
「グワシャー]
家が倒れた。私たちの目の前まで瓦や柱が落ちてきた。
霊気が去ったのかおまわりさんが起き上がった。
「な、何ですか何が有ったんです!」
子供も私の腕の中で気が付いた。
私と目が合う。
なんとも困った顔だったが「ニーー」と笑って私の狐顔の方の頬をつまんで引っ張られた。
半分のお面をはがそうとしたのかも。
「痛い痛い」
子供のお母さんが慌ててやってきて後ろから子供を抱きしめた。
あまりのことに放心していたのかも。
「ひろゆぎー」涙声になっていた、ぎゅっと抱きしめ声を出して泣き始めた。
子供は訳が分からずきょとんとして、それでも私の顔に手を伸ばしてくる。
手を取って頬にあて、
「お面じゃないの、狐と」
顔を左に向け、
「狸」
ぽかんとしてから「にいいー」と笑う。
お母さんの事は気にならないらしい。
おまわりさんも放心状態で、
「子供は助かったんですね」
それ以外言葉が出なかった。
崩れた家の残骸から私を引き留めた細い角材だけがまっすぐ上を向いて立っていた、釘の先が鈍く光ったような気がした。
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