影の仕事はカフェの店長見習い？人生経験六年未満女子

第28話 閉ざされた狐横丁

　何時もの角を曲がり駆け込む。

　が、「えっ」

　狐横丁じゃなく家と家の隙間。

（入れない！　どうして？）

　少しの間動けなかった。

（神様達が集まっているのかも、そうだこれからの事を話し合っているのかもしれない）

　そう思う様にしてその日はトボトボと不安を押さえて帰った。

　翌日の放課後急いで狐横丁に向かう。

（入れますように）

　何時もの入り口で手を合わせ「入れますように」神様に祈る。

　でも足を進めると民家と民家の隙間。

（入れない、何故）

　何日か通ったけど全く入れない。

（お店を継いでって言ったのにどうして、何故入れてくれないの）

　仕方なく家の方に歩く、喫茶「パリ」を見てハッとした。

（キツネ君、もしかしてキツネ君がこっち側に居たから通路が繋がっていた、キツネ君を帰しちゃったからもう繋がらないの、それともお社が再建されるまでつながらないかも）

　夢で奥津姫を呼んでみよう、そうだ信太（しのだ）さんに貰ったコーヒー豆、あれを口に入れて試してみよう。

　家に帰りお母さんに前に渡したコーヒー豆の在りかを聞いてみる。

「お母さん前に渡したコーヒー豆置いてある？」

「小袋に入れて冷蔵庫の扉の一番上に置いてますよ」

（良かった）

　小さな密閉ナイロン袋に渡したまま置いてあった。

　夜寝る前に砕かれていた欠片を三つ口に入れる。

（苦い）

　けれど私はブラックコーヒーで眠くなる、小さな欠片から染み出る苦い液体で思考がさまよう。

（奥津姫（おきつひめ）会いたい）

　夢を見ていた。

　初めて訪れた狐横丁そこには幼い頃の私が私を捨てた両親と食事をしていた。

（この景色前にも見たような気がする）

　両親と言ってものっぺらぼう顔は無い、私の記憶がないから。

　幻みたいに天井から眺めていた私がストンと地表に降り立ち今現在の私の目線の位置で椅子に座った三人を見下ろす。

　そして幼い子供の手を取って、

「逃げなさい、逃げなければあなたはこの人たちに殺される」

　顔は分からないけど驚く両親を無視して子供の手を引きお店を飛び出す、そのまま走って信太さんのお店を目指した。

　だがお店が無い！お店が有る筈の場所は更地になっていた。

「信太さーん、興津ひめーお願い出てきてー」

　夢の中で叫んだ、現実でも叫んでいるかもしれない。

「やっと繋がった、色々試したんだけど狐がこっちに来ちゃったから繋がりが切れちゃったの、信太は鈍いから狐の像を渡されたのに気が付かなかったのよ」

「あああのキツネさんやっぱり渡しちゃいけなかったんだ、御神体と一緒の方が良いだろうって一緒に渡してしまったの、これからどうなるのか心配でそのことを言うのを忘れてた」

「信太も舞い上がってたからからね、『葛の葉』のコーヒー豆が残っていて良かった、キツネ置いておくから明日何時もの場所に戻しておいて」

　目が覚めた時には覚えていなかった、何故か枕元に小さな狐像が二体立ったのと座ったのが向かい合っていた。

（あっそうだ奥津姫来てくれたんだ）

　学校へ行く前に喫茶『パリ』へ寄ったけどまだ開いてなかった、学校帰りに高坂君も誘って行きたかったけど隣の教室に入る勇気が出ない、開いてるドアから視線を投げつけると直ぐに気付いてくれた、指で下駄箱の方を指さし先に下駄箱へ行き外で待つ。

　高坂君が出てきて、

「どこかに行くの？」と聞いて来る。

「パリ、キツネ君を戻すの」

　一瞬「えっ」って顔をしたが、

「分かった先に行ってて」

　高坂君は学校で二人になるのをいつも嫌がる、噂になるのが苦手らしいけど、ちょっと不満、まあ分からなくもないけど、獣の様な顔をした私だし。

　結局先にパリに入りおばちゃんに説明していると少し遅れて入って来た。

「おばちゃんこの狐さん此処に戻してって預かって来た、ここに置いておかないと縁が切れちゃうんだって」

　行けなくなったことを言うとこの狐さん達がどうやって戻って来たか説明が出来ないのでそれは言わない。

「そりゃあ大変、一緒の方が良いと思ったけど違ったんだねえ、良く戻ってきてくれた、ありがとう、善繡もありがとうねお礼に好きなもの食べて頂戴、ボーイフレンド君もなんでも、カレーはどうだいカツカレー美味しいよ」

「あっ私それ、この頃カレーも好きになったの」

「じゃあ僕も良いですか、僕は何もしていませんけど」

　高坂君だんだん声が小さくなる。

「良いのよあなたのおかげで善繡（ぜんしゅう）ったらとても元気になったんよ、それまではカゲロウみたいな子だったさ、じゃあカツカレー二つだね」

　おばちゃんは奥に入って行った。

「カゲロウ、とても重いカゲロウだったよ、動くのも大変だったんだ」

「そうなの、最近転校してきたのかと思ってた、全然見た事なかったし」

「そう思っててくれていいよ、私だって昔の自分何処かに置いてきちゃった、神様に出会って生まれ変わったの」

「あっああ、、、良かったね、、、」

「あのね今のおばちゃんがこのキツネ君を見付けて保護してくれたから今でも狐横丁と繋がれているの、おばちゃんも狐横丁を復活させたいと願っているし、昔のお社の事も知っているから復活のカギを握っているのはここのおばちゃん、私はおばちゃんの代理だからね」

「狐横丁ってこの前見付けた神様だよね、この辺にお社が有ったんだ」

（そうだ高坂君忘れているんだった、中々厄介だわ）

「う、うん、私はお手伝い、だけどね一番走り回らなければならないとね、お店も有るし」

（ってこれじゃ手伝ってもらえないじゃない）