第26話 サイフォン

 思ったよりも難なく入れた、高坂君も一緒。

「入れた!」


 思わず高坂君の右腕を両腕で抱えた、彼の腕が平らな私の胸に当たる。

 高坂君硬直状態。


「こ、ここが狐横丁?」

 顔が真っ赤だ。


 二人でボケっとしていたら風が吹いた感じがしてくっ付いていた私達を二人まとめて大きな腕で抱きしめられた。


「キメラ、見付けてくれてありがとう」

 信太さん、何も言わなくても分かってらっしゃる。


「じゃあこれ渡しておきます、でも信太さん、、、」

(これからどうなるんだろう、怖くて先は言えなかった)


「あっ高坂君入れちゃったんだけど」

「今だけフリーパス、私の心臓が戻って来たのよ、そんな場合じゃないって」

「えっそう言う事、、、そ、そりゃそうですね」

「あっあの五來さんの友達の高坂こうさかです」

「ありがとう信太です、キメラの支えになってあげてね」

 信太さん、ご神体が戻ってきたせいか言葉がとても力強い。


「は、はい」(キメラ? 顔は確かに)

「ともかくお店に来て」



 お店に入って私は言わずにいられなかった。

「信太さんこれからどうなるんですか」



 私の気持ちが分かったのだろう、「直ぐには何も変わらない、元の場所に社が再建されたら狐横丁が復活するかな、それは人の気持ち次第、私達にはどうする事も出来ないから」


 わたし「あの信仰によって神は存続できるって聞いた事あるけど、そういう事ですか」

「そうね、大勢の人が狐横丁を思い出してくれたら復活出来るかもしれない」


 高坂君「あのボクもお祈りします、お祈りするだけで良いのですか」

「そうね、君にはもっと力を貸して貰わないとキメラを支えてあげて、キメラと言うのはこの子のここだけの名前、危ないモノから守るた本名は使わないの。それで狐のお社が再建されない事には何も始まらない、町の人が働きかけてくれないと再建は難しいと思うのあなたもキメラの力になってね、カウンターに座って」


 信太さんは私を引っ張ってカウンターの内側に入れた。


「もちろんえっとキメラさんの手伝いをします、親にも賛成するように言っておきます」

「ありがとう、キメラ初めてのお客さんよ、あなたが淹れなさい」

「う、うんやって見る」


 初めてと言っても奥津彦おくつひこの神には何とかブレンドして豆を挽いて出したことが有る、何とかなるだろう。


「高坂君ここにはコーヒーだけしかないんだ、豆を挽いて入れるコーヒー専門店、飲んでみる?」

「うんせっかくだから、でもあんまり苦いと無理かも」

「分かりました、それじゃあミルクたっぷりのカフェオレにしますか?」

 ちょっと店員っぽくしゃべってみた。


「あっやっぱり少し苦いの、子供向きじゃないので」

「分かりました、、それじゃあノーマルブレンドで」


 そうは言ったけど普通の量じゃ苦すぎる豆の量を少し控えて、ブラジル、モカ、ブルマンを3,2,1の割合でブレンド、ブルーマウンテンを加える事でお湯を注いだ時の香りがぐっと良くなるんだ、ブラジルは癖が無く万人向き、モカは甘みと味に深みが加わる、なんて信太さんの教育の賜物たまもの


 常に用意しているサイフォンに挽いた豆を入れ下のフラスコに少なめのお湯を注ぐ、ミルクを三分の二入れるから。

 アルコールランプに着火用のライターで火をつける、やっと野生の小動物(わたしこの頃は白狐だそうです)も火を使える様になりました。


 当然ミルクも温めておかなければいけない、ぎこちない動きでこなしていく。


「五來さん凄い、動作がサマになってる」

めてよ、まだ全然余裕ないんだから、段取り考えるだけでパンクしそうなの」

「慣れてる様に見えるけど」

「キメラって不安が顔に出ないって言うか、そもそも楽しんでるんじゃないの」

「そうですね、心配するより自分が何とかでもやれているのが嬉しい、結果は付いて来ないかもしれないけど」


 フラスコに泡が付き始めたからロートを差し込む。


「コーヒーを淹れる動作も大切なの、あたふたしてたらお客さんがのんびり出来ないでしょ」

「そうですね、楽しい雰囲気が伝わってきます」

「今日は特別、ご神体が見つかったし高坂君が来てくれた、ずっと来れる様になったら良いのにな」


 サイフォンのお湯が上のロートに上がったので軽く混ぜアルコールランプの台を外し火力を弱める、30数えてもう一度まぜまぜ、アルコールランプに蓋をして火を消す。


 するとスーと元の下のフラスコに今度はコーヒー色の液体が戻って行く。


「わーなんか面白い、理科の実験みたいだし」

 アルコールランプが苦手だったことは、、、もう忘れた事にしよう。


「面白いよね、何度やっても飽きない」

「タイミングが大事よ、忙しくても火を消すタイミングを逃さない、苦いだけのコーヒーになってしまうのよ」

「はい」


 カップに移し温めたミルクを注いで出来上がり、カップをソーサー(お皿)に載せて、

「お待たせしました」

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