自戒する硝子人編

第74話 後会

 

 四人目の生贄を捕まえた。


 アルフヘイムからタガトフルムに帰還した時、私はその事実を噛み締めていた。


 今日は日曜日。とうとう六月になってしまった日のことで、私は雨粒を落とす雲を見上げる。だがその雲に焦点を合わせることは無く、私はアルフヘイムの光景を思い出すのだ。


 つい数時間前にラドラさんと話をして、彼女がお姉さんの影武者をしていたと知った。


 女王の器が自分には無いとラドラさんは泣き、命の鉱石を奪ってお姉さんに認められたいのだとも教えてくれた。


 背伸びをして、努力して、お姉さんの影であり続けたラドラさん。


 命の鉱石は死にたい者を呼んでいるのだと彼女に伝えると、仮の女王様は全てを理解したとでも言うような顔をして、涙を零し続けた。


 ――本当は、分かっていたんです。ワタクシは今の自分から解放されたいのだと。毎日毎日苦しくて、民の不満を一身に受けて、それでもオヴィンニクを変えたくて……


 泣きながらラドラさんは「消えてしまいたい」と零していた。


 その姿が見ていられなくて、抱き締めた彼女は震えていたのだ。


 冷たい窓に頭を寄せ、私は雨粒を見つめ続ける。


 迎えに来てくれた帳君は、ラドラさんのお姉さんを捕まえたと教えてくれた。


 陰に隠れて指示を出し、奪うことが嫌なオヴィンニクさんを恥だと言った真の女王――バントさん。


 私はラドラさんの涙を思い出し、眠るバントさんを見下ろした。その時の自分には確かにいきどおりがあったと思うのだ。


 他の種族から食べ物を、装飾具を、思い出を奪っていたバントさん。民からも自分が欲しいものは奪い続け、あまつさえ妹を影武者にして。


 ――私も、彼女で良いと思います


 伝えて決まった生贄。


 皆さんと頷き合い、細流さんがバントさんを運んでくれた。


 その時、私の視界に入ったラドラさん。


 ガルムさんに連れられて洞窟を出た彼女は、私達がバントさんを連れて行こうとする姿を見てまた泣いた。


 泣いて泣いて、泣き続けて。その泣き声が私の耳の奥で反響する。


 罪悪感が背中に乗りながらも、私達はガルムの洞窟を去るとを決めていた。


 ――つれて、ぃかない……ッ


 ラドラさんの堪えた本心を聞いた気がして、私は足を止めかけた。


 彼女は悲しんでいる。今までずっと、消えたいと思うまで苦しんできた彼女が。これ以上悲観するなんて、


 ――凩ちゃん


 迷った私を止めてくれたのは、帳君。私は口を結びながら彼を見上げ、帳君は首を横に振った。


 最後まで言わなかったラドラさんの気持ちを汲むべきだと、彼の目は伝えてくれた。


 私もそれは分かっていた。


 しかしラドラさんはずっと、お姉さんに――


 私は何も言わず、ラドラさんを見ることもせず、細流さん達へ続いた。


 分かっている。これが私達の正しさだと。シュスの住人さんが望んだことで、私達も了承したことだと。


「消えてしまいたい……か」


 呟いて、窓の冷たさに息を吐く。


 ラドラさんは進めるだろうか。オヴィンニクのシュスはどうなるのだろうか。最上位の方がいなくなると言うのに、私はその先を無責任に見ないふりをするのだ。


 全ては自分が生きる為。


 少しでも苦しくならないように、悪を求めて歩き続けた結果が今だ。


 それなのに、ラドラさんの泣き声は消えてくれない。


 膝にいるひぃちゃんの背を撫でて、肩に上ってきたりず君とらず君に頬を寄せる。その温かさに、鼻の奥が痛んだ気がした。


「氷雨、あと二人だ。それで終わる」


「もう少しだけ歩きましょう、氷雨さん。私が貴方の翼となりますから」


「俺はこれからも、盾でありほこになるぜ」


「ありがとう、りず君、ひぃちゃん……らず君ももう少しだけ、一緒に頑張ってくれますか?」


 りず君とひぃちゃんに微笑んで、私はらず君に確認する。硝子の彼は何度も頷いてくれて、しかしその体にはヒビがあるのだ。


 彼のヒビがこれ以上広がらないように。どうか痛くならないように。私は願って止まなくて。


 三人を抱き締めた私は、続く雨音を聞いていた。


 * * *


 お母さんとお父さんは日曜日だろうが仕事に行って、私はバスを使って買い物に。一番近いスーパーに着くと人はまばらで、薄暗い世界はいつもと景色を変えていた。


 雨が傘に当たって弾かれる。りず君達にはお留守番してもらった。ゆっくり休んでねと伝えて。


 スーパーの軒下で傘の雨粒を払っていると、ふと隣に立つ人影に気がついた。何の気なしに横目で確認すれば、見知った人と視線が交わるのだ。


「……凩?」


 居たのは時沼さん。


 確認されるように呼ばれたので挨拶をすれば、彼は目を瞬かせていた。


「……髪、どうしたんだ?」


「……ちょっと、ショートにしてみよっかなぁっていう……気分でして」


 毛先を触りながら微笑めば、時沼さんはいぶかしんだ顔をする。


 そんな勘繰かんぐるような顔をされなくてもいいのに。どうして彼は眉間に皺を寄せたのだろう。


 彼は額に手を当て、ゆっくり息を吐いていた。


 何か私の答え方は間違っていたのだろうか。彼を不快にさせていたのだろうか。どうしよう、髪を短くした真意なんて言えないし、だから当たり障りのないことを答えたのに。


 不安になって、私は自然と「すみません……」と零してしまう。


 今日も私の悪い癖は健全だな。何に謝ったんだよお前は。


 自信が無くなった視線は下へ向かう。


「いや、謝んな」


 慌てたような時沼さんは、私の頭を叩くように撫でてくれた。


 あ、駄目だ、目頭が熱くなる。


 私は目を閉じて笑い、弱くなった自分を嫌悪した。


 最近駄目だ。体が重ければ注意も散漫。昨日の検定しかきちんと出来た気がしていない。


 いつも心がどこかに行ってしまったようで。どうしても今に集中出来なくて。あぁ、変な感じ。


 倦怠感が足に絡まるようで、私は傘の持ち手を握り締めた。


「短いのも、似合ってる」


 お世辞をいただき、私は目を開ける。


 時沼さんは私の髪に指を差し込み、毛先に触れながら手を引いていくのだ。


 どんな気持ちであれ、自信がなかった短髪を褒めていただけるのは嬉しいこと。だから私は小野宮さん達にも伝えたお礼を口にする。


「ありがとうございます。短いの、似合ってるか自信がなかったので……嬉しいです」


 笑いながら会釈すれば、時沼さんは私を凝視してきた。


 傘のスナップを留めながら首を傾げてしまう。時沼さんは金の前髪を一瞬触ってから言葉をくれた。


「……なんか、嫌なことがあったら言ってくれ」


「……嫌なこと」


 時沼さんの言葉を復唱し、私は雨音を聞く。スーパーの自動ドアの開閉音もして、肌寒さを気にしないように努めるのだ。


 時沼さんは頷くと、私の頬に手の甲を少しだけ触れさせた。


「俺は、凩の味方だから」


 目を微かに丸くしてしまう。


 時沼さんは少し目を伏せると、直ぐに笑ってくれた。


「だから、頼ってくれて良いからな」


 優しい人。


 思う私は笑ってしまう。時沼さんの頬には微かに朱がさしていた。


 どうしたんだろうか。確かに今日は肌寒いけれど、もしかして風邪か、風邪なのか。急にそれはないか。分からん。


 時沼さんは髪を掻くと、ため息を吐きながらうつむいた。


「恥ずいこと言っちまった……」


 耳まで赤くし、手で顔を覆ってしまう時沼さん。そんな彼が失礼ながら可愛くて、私は笑い続けるのだ。


「可愛い人ですね、時沼さんは」


「……俺を可愛いなんて言うのは、凩ぐらいしかいねぇよ」


 言い返され、時沼さんも笑ってくれる。


 優しい彼との会話はとても落ち着いて、それでも雨は強くなった。


 この雨が、私の不安も、らず君の傷も、全て綺麗に流してくれたらいいのに。


 酷い我儘を自分の中に仕舞い、時沼さんと私は別れた。彼は食材が入った袋を提げ、ビニール傘をさして帰っていく。


 その背中を見送って、私は傘を傘立てに突っ込んだ。


 雫がアスファルトの色を変える。それを視界に入れながら、私は自動ドアを抜けていくのだ。


 * * *


 結局、雨は夜まで続いていた。小さな雨粒が浸透するように世界を濡らす。お母さんとお父さんは今日も遅くて、一人でオムライスを食べたっけ。


 アルフヘイムの空から吐き出された私は、バントさんを祭壇まで運ぶと言う予定を思い出す。


 空から落ちる中、不意にひぃちゃんの翼が広がっていないことに気がついた。


 お姉さんが歯を食いしばった音を聞く。


 心臓が競り上がる恐怖を感じた瞬間だ。


「ひぃッ、何してんだお前!!」


「ッ!!」


 りず君の大きな声がして、ひぃちゃんは瞬時に翼を広げてくれる。あと十数mで地面という所で、私の頬を冷や汗が伝った。


「……すみません、氷雨さん」


 ひぃちゃんのか細い謝罪を聞きながら、私は着地させてもらう。腕に誘導したお姉さんはどこか疲れているようで、私は彼女に笑うのだ。


「大丈夫だよひぃちゃん。いつもありがとう」


 伝えれば、お姉さんは泣きだしそうな顔ですり寄ってくれた。


 いつも貴方は頑張りすぎているから、心配です。


 ひぃちゃんの鱗を撫でる私は、その鱗が少しだけ柔らかくなった気がしていた。


「……ひぃちゃん?」


 緋色のドラゴンさんを呼ぶ。彼女は顔を上げると、ゆっくりと笑ってくれた。


 だから私も笑い返すけれど、胸に生まれた不安は大きくなるだけだ。


 一体ひぃちゃんはどうしたのか。らず君の体のヒビだってそうだし、りず君の体が少しだけ大きくなった理由も分からない。


 私のパートナー達に一体何が起こってるんだ。


 怖いのに、それでもアミーさんに聞いてしまうと、私は戦士でいられなくなりそうで、目標を達成出来なくなりそうで、嫌なのだ。


「こんばんは、こんにちは、氷雨」


 翠ちゃんの声がする。私は反射的に顔を上げて、目の前に立つ友人を見つめてしまうのだ。


 今何を言われた。こんばんは、こんにちは?


 ……あぁ、そうだ、挨拶だ。挨拶をされたんだ。


「こんばんは、こんにちは、翠ちゃん」


 翠ちゃんの後ろに細流さんと帳君も立っており、私は二人にも挨拶する。細流さんは返事をくれたけれど、帳君には見つめられるだけだった。


 何故でしょう。挨拶は嫌いですか。いやでも今までしてくれていたし、もしかして嫌々しており、今日はとうとうしたくなくなったとか。


 頭に溢れた心配で喉が痛くなる。帳君は何か言いかけて、それより先に祈君が着地する音を聞いた。


「こんばんは、こんにちは」


 挨拶が聞こえて、振り返る。そこには黒い帽子を被った祈君がいて、彼の翼はルタさんへ姿を変えていた。


「こんばんは、こんにちは、祈君、ルタさん」


 祈君にも凝視されてしまう。私の顔には気づけば笑みが浮かび、ルタさんに首を傾げられてしまった。


「……元気ではありませんね、氷雨さん」


「ぇ、ぉ、そんなことは」


 ない、と言おうとした背中が叩かれる。


 一瞬で叩かれた箇所に痺れが走り、私は「ぅあ」と情けない悲鳴を上げるのだ。


 叩いたのは翠ちゃん。彼女は無表情のまま、振り返った私の頬を抓ってきた。


 いだだだだ、何ですか翠ちゃんッ


「あるでしょ。氷雨、ひぃは今日どうしたの」


「……ぇっひょ」


 頬を引っ張られながら声を出して、変な音になる。


 ひぃちゃんは私の腕から飛び上がると、肩に乗って翼を広げてくれた。翠ちゃんの手は私の頬を解放してくれる。


「私が少し疲れてしまっていただけなんです。大丈夫です、紫翠さん」


「それだけかしら?」


 翠ちゃんに確認される。


 私は自分の頬を摩って、りず君が聞いてくれた。


「それ以外に何があるんだよ、紫翠」


「……分からないわ」


 彼女は答えて「ただ、」と続けている。私は口を結び、茶色い瞳を見つめ返すのだ。


「お願い氷雨、無理だけはしないで」


 頭を軽く撫でられる。私は目を瞬かせ、笑って頷いた。


 無理をしないで、か。


 翠ちゃんは、再び同化した祈君の足を掴んで空へと舞い上がり、細流さんはバントさんを担いで長距離走開始。


 私は帳君に手を差し出して、けれども彼は手を掴んでくれなかった。


 その仕草が不安になって、私は遠くなったガルムの洞窟を見てしまう。


 また、彼は――


「違うよ」


 考えに釘をさされ、私は意識を帳君に戻す。


 彼は私の膝裏に腕を入れ、背中の真ん中辺りにも手を添えていた。


 え、ちょ、それは。


 抗議する前に体が持ち上げられ、帳君に横抱きにされる形になる。


 私は声にならない悲鳴をなんとか飲み込み、帳君はひぃちゃんを自分の背中に来させていた。ひぃちゃんは目を白黒させながらも、彼の背中を掴んでいる。


「と、とばり、帳君?」


「何」


「これ、あの、なんで、え、ぁ、お?」


「体格的にこれが正解でしょ」


 彼は真顔で地面を蹴り、ひぃちゃんが羽ばたいている。私は反射的に帳君の服を掴み、遠くなる地面を見るのだ。


 あぁ……彼の機嫌を損ねないようにしよう。落とされたら死ぬ。


 決めて口を結び、私のお腹の上に来たりず君とらず君は眠る体勢に入っていく。帳君はその二人を気にすることなく、ひぃちゃんは翼で風を掴んでいた。


「あら、氷雨」


「げ、ヤンキー何してんだよ」


「凩ちゃんに運んでもらうより俺が運ぶ方が正しいだろ、普通」


「普通とは……」


 気づいたような顔をする翠ちゃんと、苦虫を噛み潰したような顔をする祈君。帳君は涼し気な無表情で答え、私は普通というものを問いたかった。なんだよ普通って。


 か細い声で問うたけれど、帳君は答えてくれない。これで数時間飛行かよ……心臓が痛い。


 私は抗議を始める前に諦めて、運びにくくないように大人しくするとを決めた。


 ここから鉱石の谷までは少しある。もしかしたら、着いて祀るだけで終わってしまうかもなんて。


 帳君も私も、何も話さずに飛び続けた。時折小休憩を挟み、一番疲れていなさそうなのは細流さんと言うね。彼はやっぱり凄い人だと再確認。


 翠ちゃんの腕も疲れていそうだったので、りず君に頼んでローマ字のIの形をした棒に変わってもらった。


 その上部分を祈君が掴んで、翠ちゃんは下の部分に足をかけるという構図。二人に凄く感謝されて、りず君は恥ずかしそうだったな。可愛い。


 そんなことをしながら進み続け、空の色は少しずつ変わっていく。らず君もひぃちゃんの背に乗って補助をしてくれて、頑張り屋なパートナー達が私は誇らしくなった。いつも誇らしいのだけれども。


 そこでふと、地面に入った亀裂を視界に入れる。見ると地面は湿原になっており、私は気づくのだ。鉱石の谷に辿り着いたのだと。


 あぁ、早く祀らなくてはいけないな。そうでなくては、私は耳の奥で反響している泣き声から逃げられない。


「一瞬でここまで来れたらいいのに……」


「そう言う能力の持ち主か道具を探してきなさい」


「……いや、それはそれでダルいからいい」


 祈君は谷底に下降しながら呟き、翠ちゃんが呆れたように指摘する。彼女達は一番に地面に辿り着き、細流さんは谷の壁を滑り降りてきた。


「体力無尽蔵かよ」


「凄いですよね」


 帳君が息をつき、私は暗く冷たい谷底へ下ろしてもらう。


 ひぃちゃんとらず君は私の肩にきて、そのやり切った顔に私は一種の感動を覚えていた。りず君も戻ってきて、私は大切な三人を抱き締める。


「ひぃちゃん、りず君、らず君、ありがとう。凄く助かった」


「いいえ、氷雨さん」


「いいってことよ」


 三人は笑ってくれて、私は頬を寄せる。そうしていれば帳君に肩を叩かれ、私は彼を見上げるのだ。


 顎で示されたのは祭壇の方。その指示に従って祭壇に入れば、十字架の鎖がバントさんを縛り上げているところだった。


 これで四人。


 ウトゥックの七番目の王様。


 元ルアス軍戦士、夜来無月さん。


 ドヴェルグの名工さん。


 オヴィンニクの女王様。


 祀ったのは私達が悪だと決めた方々で、彼らを殺して私は生きる。


 言い聞かせた私は少しだけ目を伏せて、瞼をゆっくり上げた。


「これで四人か……」


「あと二人ね」


「あぁ」


 祈君と、翠ちゃん、細流さんの声を聞き、私も静かに頷いておく。帳君は自分の両手を見て、まだ戻らない力に辟易へきえきしているようだ。


 私はりず君達を抱き締めて呼吸を整える。


 結目帳さん。


 細流梵さん


 楠紫翠ちゃん。


 闇雲祈君。


 この人達となら――私は大丈夫。


 再度覚悟を決めようとした時、祭壇が大きく揺れた。


 地震、いや違う。祭壇ッ


 私達は一瞬体勢を崩したが、直ぐに顔を見合わせて祭壇の外へ飛び出す。


 そこには――土で出来た巨人がいた。


 それが祭壇に大きな拳を叩きつけていると確認した瞬間、私はハルバードとなったりず君を握る。


「まさか、ッ」


 祈君がいち早く地面を蹴り、私はひぃちゃんに翼を広げてもらった。


 土人形の首を狙ってハルバードを叩き落とせば、入った亀裂に祈君の羽根が炸裂する。


 深くヒビが広がるのを確認した瞬間、跳躍した細流さんの拳と翠ちゃんが投擲とうてきした手裏剣がヒビに直撃した。


 土人形の首から全身にヒビが広がり、大きな異形は崩れ落ちる。


 まさかそんな、ここに――嘘だろ。


 頭の中で警鐘が鳴る。私の目は、谷の入口から飛び降りてくる一羽の大きなわしを見つけていた。


 地面に足を着く怪鳥。


 同時にその背中から飛び降りてくる影が五つあり、その人達の白を基調とした服に私の不安は確定された。


「――やっと、見つけた」


 薄い茶髪が揺れ、白いパーカーを着た彼で私は視線を止める。


 小さくなった鷲さん――イーグさんは、パートナーの腕へ戻っていた。


「――あの時の借り、返させてもらうぜ」


 そう言った彼は、昼にならないシュスで捕まっていた男の子。


 私の頬を冷や汗が流れ、私は彼らを凝視してしまった。


 ――早蕨さわらびひかるさん


 ――鷹矢たかやあかつきさん


 その後ろには、見たことない屈強な男の人と可憐な女の子もいる。


 五人目の人は私も一度会ったことがある人。白の中に混じった唯一の黒――紫門しもん大琥たいがさんが立っていた。


 あぁ、ついに見つけられたんだ。


 私達の未来を壊す方々に。


 私は奥歯を噛んで、ハルバードを構えて見せた。


 夕日はまだ――沈まない。

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