異世界の街は伊勢かい?
【悲報】異世界にあってはならないものをいろいろ目にしてしまう【伊勢かい!】
引きこもり特有の夜型ライフ、その開幕大あくびのまま、俺は台所の入口で固まる。
妙だ。テーブルになんの用意もない。お袋はネトゲ廃人で引きこもりで夜型のどうしようもない親だが、一応、主婦として家事だけはまともにこなす。この時間には必ず飯が用意されている。ダメ人間ぞろいの俺たち一家の、数少ないまともな家庭的一面だ。
が、今日に限って、狭く薄汚い台所には食いものの匂いも火の気もなかった。なにより静かすぎる。
*
価格のみならず、いろいろとおかしいものを街の一角で見かけた。
石造りの建物の間に妙なものがあった。
明らかに世界観とあってない、見たことのある和風の建築物。三角形の屋根と、上にツノみたいに突き出してるお宮みたいなあれ。その前に立っている石でできた、どう見ても鳥居としか思えない形状の門。え、なに、神社?
鳥居のわきの路上で、屋台をひらいてるおっさんがいてなんか売っていた。
服装だけはこっちの世界の住人のそれだが、かえってミスマッチ感が。
興味本位でのぞくと、らっしゃい、おいしいよ、と声をかけられた。
ネジみたいに巻いた形の、あんこにしか見えない和菓子っぽい――「これ、赤○ですよね?」
おっさんは「はあん?」と、なに寝ぼけてんだこいつ的な顔で小首をかしげた。
「こりゃ『レッピー』だよ、知らねえのか? さしずめ、田舎から出たてほやほやだな」
違わい、東京から来たんだよ。このおっさんもかよ、人を田舎者あつかいして。
「田舎出たてほやほやなら、できたてほやほやのレッピー食ってジンジャーにお参りしてきな」ご利益あるぜ、とおっさんは鳥居の先を指す。ジンジャーじゃねえよ、もう神社って言っちゃってんじゃん。赤○売ってるし、これ、修学旅行で行った伊勢神宮だろ。しかも一個二千イェンってなんだよ、たけーよ。誰が買うんだ。
おっさんはしたり顔で「牛に引かれてゼンコー寺院って言うだろ」と流し目。どっからツッコんでいいかわかんねーこと言うのやめろ。これ寺じゃねえし善光寺ってたぶん伊勢の辺りじゃないだろうしっていうかゼンコー寺院って名前そのまんまだな、『牛に引かれて』の言葉も含めてやっぱ日本じゃねえか。意味不明なのになんかうまいこと言ったふうなのが腹立つ。あと、お参りするのとお値段異常の○福を食うの関係ないだろ、さらっと売りつけようとしてるけど。
金がないんで、と赤○は断り、神社のほうはせっかくだから参拝してみることに。ちなみに鳥居状の門は『モントリー』という名前だとおっさんが言っていた。なんだそのサン○リーみたいなネーミング。あと神社もといこのジンジャーの名前は『アイス』とのこと。そこは意外と和風じゃないんだ、てかなんで氷、と思ってると「アルファベットのつづりは『ISE』だ」と説明を加えた。だからやっぱり伊勢なんじゃねえか。アルファベットって言いまわしも異世界感ねえな。なんかもっとファンタジーっぽい造語にしとけよ。アーファベートとかベータとかてきとーに。そういうとこだぞ、このエセ異世界よ。略してエセ界だ、エセ界。
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