かつてないほど女の子と会話がはずんで調子こいてると
改めて俺たちは、トランクスだかトランジスタだかの街を目指し歩きはじめる。道中、地元の話で盛りあがる。
保谷ってマジなにもないよな、とか、聞いた話だと池袋-所沢間でもっともマクドナルドから遠い駅らしいですよ、とか、そうそう、駅周辺にマックすらないんだよな、とか、勇者様は小学校どこでした、とか、第四、とか、あっ、私もです、おんなじ、とか、マジで、ほんとに家、近所なんじゃね、とか。
日はほどよく地上を暖め、風が広く熱を分けてまわり、ゆれる草は光合成にいそしみ、普通サイズのトンビは食物連鎖の頂点を努めるべく大空を舞い獲物を探す。世界は平和の一言で表せた。
しかし、俺たちが雑談しながらとろとろ歩いている間にも、どこかの街や村に魔王の手がおよんでいるんだろう。実感がまったく湧かないのは始末が悪い。
「勇者様、どうかされましたか? ちょっとだけ怖い顔してます」
知らず知らず、眉間にしわを寄せていたらしい。俺はおどけて「いやー、デネブのパンツって何色なのかなーって」と笑顔をみせた。デネブもにっこりほほえむ。「この杖、意外と攻撃力高いんですよ? 試してみます? ご自身の体で」
振り上げたそれを確認すると【まじかる☆ステッキ/攻撃力:十二】となっていた。ふざけた名前とデザインなのに俺の剣より強い。
とりあえず一生懸命、反省しているふりをした。
「なんだか不思議な気分ですね。こんな、現代社会とは無縁の牧歌的な世界で、東京のローカルな話をするなんて。ちぐはぐな感じがします」
「同感。まさかこっちで駅の名前とか口にするとは思わなかったよ」
「勇者様は小さいころ、遠足でとしまえんに行きました? 私は幼――」
「デネブ、その勇者様ってのそろそろやめね?」
デネブはきょとんとし、目をくりくり動かした。
「俺ら日本から、同じ東京から来た者同士ってわかったじゃん。勇者とかデネブとかのこっちの呼び名だとなんかよそよそしいっていうか。ほんとの名前で呼びあおうぜ。俺はそ――」
本名を名乗ろうとした俺をデネブは手のひらで制した。ふるふると首を振る。
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