ストーカー家に来る

みかん

第1話

上野颯は、今年春に松村食品に入社したばかりの新入社員だ。

3か月の研修期間を終え、7月から営業部に配属された。


松村食品が扱うのは、主にレトルト食品で、営業先はスーパーマーケットやコンビニなどが中心だ。


上野が上司とともに営業から戻ると、机に封筒が置かれていた。

「なんだろう」

中身は、文書のコピーだ。


株式会社 松村食品 上野颯様

先日は、親切に対応していただきありがとうございました。

電話口からも、誠実さが伝わってきました。

これからも松村食品様の商品を買いたいと思います。

渡辺幸子


「これは何ですか?」

上野は、前の席にいた主任に尋ねる。

「お客様窓口宛てに届いたんだって。管理部の奴が持ってきたんだよ」


上野は、過去の電話対応を思い出した。確かに、営業先の店やバイヤーとは電話でやりとりをすることはあるが、一般の人からの問い合わせを受けた記憶がなかった。渡辺幸子という名前にも見覚えはない。


(あまり覚えてないけど、お褒めの言葉だし、素直に喜ぼう)


上野は、そう思うことにして、その手紙について深く考えることはなかった。

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