第28話
「【隠者】が死んだか……」
所変わって、ここはナルたちの知らないどこか。
そこで玉座に腰かけた老齢の男が小さくつぶやいた。
それに合わせて周囲にいた者達からざわめきが生まれる。
「静まれ、おおかた悪い癖が出て遊びすぎたのだろう……なぁそうだろう」
「いやはやまったくもっておっしゃる通りでございますれば」
そこにいたのは先ほどナルが殺した、フライだった。
玉座の前に膝を付き、恭しく首を垂れるその姿は一切の特徴を持たない彼そのもの。
ナルとの戦闘で負った顔面陥没という大けがはもちろんの事、グリムに負わされた傷さえも残していない。
そしてカードの能力が失われた今なお、彼は希薄だった。
フライを前にした玉座の男でさえも、彼から意識を逸らせばその顔を忘れるだろう。
こうして眼前で話をしているからこそフライを認識できている。
「して、どうであった」
「【愚者】は【死神】を引き連れ、【戦車】と会合しました。おそらくは私を出汁に契約も済ませている所かと」
「で、あるか……」
「また確認できたのは【力】のカードのみでしたが、あと何枚手中に収めている事やら……まったくもって楽しみでございます」
「うむ、貴様に託した【隠者】のカードを含めれば最低でも4枚、【死神】と【戦車】で5枚か」
「やはり【悪魔】は使いませんでしたな」
「当然であろう、意識を失う程の暴走など誰が好き好んで使うものか……いや、それはあの元傭兵に失礼だったか」
「何をおっしゃる、陛下があのような下賤の物を気になさる必要はありません」
「ふむ、しかしあれならば存外制御もできるであろう。どのみち戦闘員ではないお主に使う必要は無かったであろうが、ならば我らは相も変わらずあれの動きに注視していればよい。そういう事だな」
「その通りでございます。それで、次は何をなさるおつもりで? 」
「ふむ……そうだな、しばらくは泳がせるとしよう。あれが勝手に集めてくれるのであれば我らの手間も省
けるというものだ」
そう言って、にやりと笑った男は玉座の上で喉を鳴らして、そして徐々に耐え切れなくなったのか声をあげて笑い始めた。
周囲にいた者たちは、その光景を眺めながら未来を思い描く。
彼らの主が世界を手中に収めるその日を。
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