第22話 窓居圭太、5人の女子から血祭りに上げられる
木曜日の放課後、これまで問題解決に尽力してくれたことへのお礼として、食事会を開きたいと申し出た
さおり、みつきの姉妹による料理も出来上がり、いよいよ夕餐が始まろうとしていた。
ふすまを開けて、高槻姉妹とともにぼくたちの前に登場した人物を見て、ぼくはあっけに取られた。
「お久しぶりぃーっ、けーくん!!
元気しとったーっ?!」
うっ、このキテレツな調子のハスキーボイスは!?
そう、わが
両手を上げて、奇声を上げる明里。
そしてもちろん、右隣りにはわが姉、
なんとも豪華な、極上美少女のフォーショットだった。
……てか、そういうことはどうでもいい、知りたいのはなんで彼女たちが一堂に揃ったかだ。
ぼくは、高槻のほうを向いて、ジトーッとこう問いかけた。
「高槻さん、なんでお姉ちゃんたちまでこの会に参加することになったのかな」
高槻はまっすぐぼくを見つめて、こう言った。
「秘密にしてて、ごめんなさいね。
もともとおふたりから、明里さんの上京日に神使勢ぞろいの会をやって欲しいというリクエストがあったの。
で、しのぶさんがこのほうがサプライズ感が出ていいとおっしゃるので……」
姉のほうを見ると、またまたちっとも決まらないウインクを寄越してくる。やれやれ。
「わかった。ぼくを喜ばせたかったんだね。
ありがとう、高槻さん、お姉ちゃん」
「じゃあ、久しぶりの大宴会の始まりやねっ!」
と再び素っ頓狂な声を上げたのは、明里。
と、これに呼応するように、ぼくのサイドからも嬌声が上がった。
「よろしくねっ、明里ちゃん! なんだか、ボクと気が合いそうだね。
ボクは圭太の大人のおもちゃ、きつこだよ」
「こらこら、その表現、誤解を呼ぶだろうが!」
慌てて、きつこを制するぼく。
明里ときつこ、そのフリーダムぶりではタメを張りそうだな。
ヤバ過ぎる。混ぜるな危険!!
さっそく高槻姉妹は、出来上がった料理や器、食材類をキャスターで客間の中に運びこんだ。
予想した通り、メインのメニューは鍋物。それも各種の肉や野菜で盛りだくさんの寄せ鍋だった。
すぐ食べられるように、あらかた煮たてられて、グツグツと美味しげな音を立てている。
高槻が音頭を取って、こう言った。
「コホン、きょうのお食事会の本来の趣旨は、榛原くんと窓居くん、略して
したがいまして急きょ、会の趣旨を『窓居圭太くんをイジる会』と変更させていただきたいと思います。
よろしくご了承ください」
すぐにその場の女子たちから(おもに明里ときつこからだが)、
「異議なし!」
「全然、ノープロブレムだよ!」
という歓声が沸き起こった。
この高槻のアナウンスには、ぼくもえらく驚いた。
いや、会の趣旨どうこうにではない。
いつもは慎み深い性格の高槻が、こんなたくらみをしたことを皆の前で悪びれずに喋ったことにだ。
あれれ高槻さん、なんかキャラがいつもとブレてない?
そんなぼくのツッコミにはまったくお構いなしに、高槻は会を進行する。
「では、まずは乾杯ね。皆さま、グラスをお取りください。
窓居くん、このたびは大変お世話になりました。わたしが長年悩んでいた問題も、おかげで解決いたしました。
本当に、ありがとうございます。
これからも、いろいろな意味でごやっかいをおかけすることになるかと思いますが、くれぐれもよろしくねっ。
では皆さま、ご唱和を。
乾杯っ!!」
全員未成年だからもちろんお酒ではなく、ウーロン茶やジュースなどが注がれたグラスを、その発声に合わせて一斉にかかげ、イッキ飲み!
これで女子たちのテンションがいっぺんに上がった。
ぼくのテンションはだだ下がりだが。
だって、困ったときの頼みの綱、榛原すらいないのに、この強力な女子軍団にたったひとり、徒手空拳で立ち向かわなきゃいけないなんて、どんな無理ゲーだよ!!
「まあまあ、けーくん。久しぶりにうちと会えたんやから、そんな
さっそく、ぼくの右隣りに明里がやってきて、テンション低めなぼくのなだめ役に入る。
すると、負けじときつこも左隣りに座って、こう言う。
「そーだよ、圭太。こんな可愛い子ばかり五人も一緒なんだから、浮かない顔はなしだよ」
五人って、お前もしっかりちゃっかり入ってるんかい!
そういうグダグダなやり取りをフリーダム系女子たちと交わしていると、進行担当の高槻がいきなり手を上げて発言した。
「それでは、乾杯も済んだので、お待ちかねの質問ターイム!!」
ぼくは、まったく待ちかねてませんが何か?
「聞くところによりますと窓居くんは、中学時代のつらい失恋体験の反省から、この一年間は女子への告白をすべて控えていたそうです。
そして、女子との交際が出来ないストレスのあまりでしょうか、中学以来の同級生、榛原くんとの禁断の愛の道へとひた走っていったのです。
そうよね、窓居くん?」
「え、あ、あぁ〜、まー、そういう感じというか……」
ぼくがあいまいな答えでお茶を濁そうとしていると、高槻がぼくを指差しながらビシッとこう言った。
「実は、BLそれ自体がいけないことだとは、わたしとしては思っていません。
なぜなら、BLは由緒ある日本文化のひとつだからです。
古来より、英雄
具体的な例を上げましょう。
天下
また、時代が下がって現代では、作家三島由紀夫さまがみずから「仮面の告白」で描いたような男色趣味を持ち続けながら、結婚してお子さんももうけておられます。
皆さまがよく聞く「軟派」「硬派」という言葉も、軟派はもちろん女たらしを意味しますが、硬派はケンカにあけくれたり花の応援団や男塾に入るような連中ではなく、本来は男性同士で恋愛する人たちを意味するのです。
男女別学がほとんどだった旧制の中学高校では、それが当たり前のように行われていた、そういうことなのです」
BL論を語る高槻は、なんかスゲー雄弁キャラになっている。
ぼくはボー然として、それを聞いていた。
「ですが、若いころにそういう同性との恋愛を経験した男性も、おとなになると普通に異性愛も可能となり、普通に結婚もする。実はそういうものなのです。
もともと男性は、みなバイセクシャルの因子を持っているのですが、環境に触発されてその因子があらわになる人がいる一方、一生その存在に気づかずに終わる人もいるのです。
となれば、異性愛と同性愛の間を行ったり来たりする人も、当然いて然るべきでしょう。
ですから窓居くん、あなたは現在はBLの世界にいるにしても、同時進行で女性と恋愛してもいいんじゃないでしょうか。
いや、絶対そうするべきです!!」
あやゃ、全力で断言しちゃったよ。
「これからは、BLとか百合とかの枠にさえはまらない、さらにはブラコン、シスコン、ロリコン、ショタ、そういったものすべてを含みうる、ハイブリッドな恋愛のかたちが当たり前になると思います。
窓居くんにはぜひ、そのパイオニアになって欲しいのです。
さて、これからが本題です」
えっ、これまでずっと前フリだったの?!
高槻は、ほぼドヤ顔といってもいい自信に満ちた表情で、こう続けた。
「窓居くん本人からは一度も聞いたことがなかったと思いますが、あなたはここにいる五人の女性の中で、いったいどの子が一番好みなんですか?」
うわ、ど真ん中のストレート、時速150キロの豪速球が来ちゃったよ!
「えっ、それ、答えなきゃいけないの……?」
思わず、回答を渋るぼく。
「はい、答えないといけません。
そう思いますよね、皆さん?」
高槻が聴衆に問うと、即、「もちろん!!!!」という熱い反応が返ってきた。
「だそうです。これはこの場の女性の総意なのです」
高槻は力強く、言い切った。
「いやあ、でもねえ、こちらにもいろいろ事情があってねえ、ほら榛原のこととか……」
「だから、榛原くんのことは別問題だと言ってますよ。さっきの話、ちゃんと聞いてました?」
怖っ。マジな表情が結構怖いよ、高槻さん。
「それに、今は榛原くんがいないから、気にせずに言えるでしょ。大丈夫、秘密は守るから」
今度は、懐柔しに来ました。もう、逃げようのないところまで追い込まれております、ぼく。
なんとか、この場を切り抜ける手はないものか?
「あー、それでも、そういう判断って、軽率に出しちゃいけないって思うんだよね。
だって、お姉ちゃんと明里を除けば、あとの三人は知り合ってせいぜい一週間くらいだろ。
きつこに至っては、出会ってたったの半日だよ。
これじゃ、まともな判断は無理だって」
きつこがさっそく、これに応酬する。
「そんなことないよ、圭太。ひと目あったその日から、恋の花咲くこともあるって昔の人が言ってたじゃん。
きょうからボクと圭太がラブラブになっても、だれも文句を言わないよ」
これには「ヒューヒュー」という冷やかしの声がかかった。たぶん、明里だな。
その明里も、ひとこと申し添える。
「まったくその通りやで、きつこちゃん。うちも今はこうしてしのぶちゃんとラブラブやけど、長い人生、いろんな恋をして、最後はけーくんにたどり着くっちゅうんも、ありやと思うわ」
これにはさすがに、明里の隣りにピターッとくっついていたお姉ちゃんが即時反応した。
「そんなぁ、あかりちゃん。わたしのこと、一生好きでいるって約束してくれたじゃない。もー、浮気者。プンプン」
明里も先ほどの発言はいかにも刺激的だったと反省したのか、姉に「まあまあ、言葉のアヤやからゆるしてぇな」と下手に出て謝っていた。あら、微笑ましいバカップル。
「さて、本題に戻しましょう。
窓居くん、あまり重く考えなくていいのよ。
ここでだれかひとりの名前を言ってしまったら最後、一生その子から束縛されるなんてことないから」
当たり前じゃ! そんな理不尽な目にあってたまるか。
それにしても、この強引な流れにそのまま押し切られてしまうのはごめんだ。何かしら手はあるはずだ。
考えろ。考えるんだ、圭太!
ぼくはそうやって、この背水の陣を切り抜ける策を絞り出そうと、自分を追い込んだのだった。(続く)
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