第3話 はじめまして
SNS「mottogram」に登録している恭介のアカウントには、メダカたちの写真がたくさん載っている。
メダカの写真を通しメッセージの交換を始めたアカウント「guppy-ansumble」に、メダカの写真を見てほしい、という一心で、いろいろな角度からメダカの写真を撮り、アップしていた。
恭介とguppyがメッセージ交換を始めて、はや1週間。
今日も仕事帰り、早速mottogramにアクセスすると、guppyからのメッセージが送られてきた。
「kyodreamさんちのパンダちゃん、みんな餌を食べちゃったんだね。私が飼ってるメダカのメリーは、餌を見せるとすぐ水面に上がって来ちゃうんです。で、あっという間に全部食べてしまうの。だから、同じ水槽にいるメダカのジョリーが食べる餌が無くって、見ていてかわいそうになっちゃうの。」
メッセージとともに、2匹のメダカの写真が添付されていた。
恭介はguppyのメッセージに微笑ましさをかんじつつも、すぐさま返事を送った。
「すごくかわいいね。メリーちゃん。ウチにいるヒメダカと同じような色や形だし。でも、すごく食いしん坊なんだね。ジョリーちゃん、なんとか餌にありつけるといいけど、大丈夫?」
メッセージを送ると、10分くらいしてguppyからのメッセージが来た。
「大丈夫よ。メリーは一通り食べると底に行って寝ちゃうの。そのスキに、ジョリーの真上辺りに餌を撒くと、うれしそうにジョリーが食べてるの。それがまた、すごく可愛いんだ♪」
恭介は、guppyの送ってくるメッセージに、微笑ましさと温かみを感じた。
水槽では、餌を食べ終えたメダカたちが追いかけっこしている。
ヒレ吉がパンダにちょっかいを出し、パンダがほかのメダカを追い回すという展開がお決まりのパターン。パンダも大きな体に似合わず勢いをつけてほかのメダカたちを追い回す。ただ、たえ子だけは、何があろうと、底で相変わらずじっとしている。彼女は、相当気持ちが据わっているのかもいるのかもしれない。
恭介は、そんなシーンを写真に収め、再びguppyに送った。
週末、仕事が休みの恭介は、起きるやいなや、スマートフォンを立ち上げ、メッセージをチェックした。
メッセージを送って寝た後も、guppyからの返事が来ているかどうか、そればかりが気になってあまり眠れなかった。
SNSにアクセスすると、スマートフォンの画面上部にあるメッセージアイコンが点滅しているのを発見し、ほっと胸をなでおろした。
早速メッセージを開くと、そこには恭介も目を疑ってしまうようなことが書いてあった。
「可愛い写真、ありがとう。メダカたちの追いかけっこ、見ていてすごく面白そうだね。私のところのメダカはおだやかだから、あまりケンカも追いかけっこもしないかな?ところでkyodreamさんってどちらに住んでるんですか?私は千葉に住んでます。
もし近くだったら、kyodreamさんちのメダカ、見てみたいかも・・・。」
え?み、見てみたい・・かも??
これって・・・まさか、会って、みたい・・かもって、ことかも??
恭介は、思わずガッツポーズしてしまった。
そして、スマートフォンから、guppyのメッセージへの返事を送った。
「感想ありがとう。僕は東京の練馬区の隣、西東京市に住んでます。千葉だったら途中乗り換えがあるけど、そんなに遠くはないかな・・?と、僕的には思いますが(汗)。差し支えがなければ、ぜひいらしてください。近くまで迎えに行きますよ。」
しばらくすると、再びメッセージアイコンが点滅した。
「早速のお返事ありがとう。ぜひいらしてください、とのことで、嬉しいです。
私は千葉市なんで、ちょっと遠いかもしれませんが、kyodreamさんのメダカちゃんに会いたいので、がんばって電車を乗り継いで行ってみようと思います。kyodreamさんは週末休みなんですか?」
千葉市・・少し距離はあるかもしれないけど、この町にすぐ行けない場所でもない。恭介は再度mottogramでメッセージを送信した。
「僕は週末土日とも休みです。guppyさんもそうなのかな?僕は西東京市の西武柳沢という所にいます。そちらからだと、総武線か中央線で新宿まで行って、山手線乗り換えで高田馬場まで行って、さらに西武新宿線乗り換えで行くと良いです。会えるのを楽しみにしてます。」
恭介の気分は高揚してきた。大学生になって一人暮らしを始めて以来、女性が自分の部屋に遊びに来たことなんて殆ど無い。あったとしても、酔いつぶれたサークルの後輩を泊めたくらい。え?その時は何も無かったのかって?その後輩、その晩ずっと大きな鼾をかいて爆睡し、翌朝恭介が目覚めた時には「昨晩はお世話になりました。バイトがあるから帰りますね。」とだけ書き置きして、さっさと帰ってしまったのだから。
そしてguppyと会う約束の日、恭介はいつものようにメダカ達の水槽の水換えをして、餌を与えてから、きちんと身なりを整えて、家を出発した。
恭介の家は、最寄りの西武柳沢駅まで徒歩12分。少し遠いけど、スーパーやコンビニも近く、野菜畑や栗の木、柿の木、雑木林など昔ながらの武蔵野の面影の残る、落ち着いた環境の中にある。
駅の改札口で、時計を眺めながらguppyの到着を待つ恭介。
すでに待ち合わせの時間を少し過ぎている。恭介の高揚した気持ちは徐々にイライラに変わってきつつあった。そして更に時間がすぎると、徐々に不安と落胆に変わりつつあった。
「どうせmottogramだけのやりとりだし。本名も顔も知らないし。相手は僕を冷やかしたかったんだろう・・。」
そう思って、帰ろうとした時、下り電車が到着し、何十人かの乗客が改札に入ってきた。その中で、髪の長い、清楚な雰囲気の女性が、恭介に近づいてきた。
「kyodreamさん・・ですか?」
「はい・・そうですけど。」
「私・・guppyです。mottogramでkyodreamさんのメダカ見てみたいってお話した、guppyです。」
「え?guppy・・さん?」
guppyは、胸のあたりまで伸ばした茶色の長い髪、色白でぱっちり開いた大きな瞳、
そしてファーの付いたピンクのロングコートを着込んだ、全体的に可愛らしいふんわりした雰囲気の女性だった。
ブーツを穿いているからかもしれないが、割と長身で、恭介とあまり身長が変わらないように感じた。
「今日は遠くから来てくれてありがとう。疲れてるところすみませんが、僕の家までここからちょっと歩きますけど、良いですか?」
「良いですよ。私、ちょっと歩くのは苦にならないです。すごく歩くのは苦手ですけど。」と、guppyはにっこり笑いながら答えた。
「あははは・・」
本気で答えたのか、わざと言ったのかは分からないけど・・恭介は、guppyとともに、駅の階段を下り、商店街を抜けて自宅へと向かった。
その途中、恭介がメダカを買ったアクアショップ「コーラル」もあった。
「あ、僕、ここでメダカ達をみつけたんですよ。」
「わあ~~そうなんだ・・あれ?今日はお休みなんですね。」
怪しげな外装の入り口のドアには、『本日休業』の札が掛かっていた。
「いろんな種類の魚が居たけど、僕の気持ちを惹いたのは、今飼ってるヒメダカたちだったんですよ。」
「そうなんだあ・・・店、開いていれば、見てみたかったかも。」
「今度来た時、開いてたら案内しますよ。中は結構薄暗くて最初は怖いと思ったけど、狭い店内に、メダカだけじゃなく、いろんな種類の熱帯魚がいるんですよ。」
「うん・・あれ?このお店、私、ひょっとしたら・・家の近くで見たことある・・かな?」
「え?見たこと・・あるって?」恭介はguppyの言葉に一瞬、耳を疑った。
「ううん・・気のせいかも。なんとなく似てるって感じ。私の勘違いかな。」
二人で色々なことを話しながら、恭介とguppyは、駅から恭介の家まで歩いた。
「あ、そうそう、僕・・kyodreamの本名、言っても良いですか?僕は、恭介っていうんです。ハンドルネームのkyoは、ズバリ本名そのままです。」
「あはは、本名から取ってたんですね。私のguppy-amsumbleは、本名とは全然関係ないけど・・。本名は「魚住さより」っていうんです。全然guppyじゃないですけど、自分の名前が魚っぽいから、ハンドルネームも魚っぽいものにしたんですよ。単純でしょ?」guppy・・いや、さよりは、くすっと笑いながら話した。
そんな話をしているうちに、2人は恭介の部屋にたどり着いた。
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