硬い
テナントに並ぶ棚や鉄製の扉を巻き込みながらブリザードドライは俺についてくる。俺はジグザグに走るので直線より必然って疲労が溜まる。しかしブリザードドライが満足するまで装甲を厚くできるようにテナントを縫うように走らなくてはならない。
「はぁ…はぁ…こっちだ」
とうとう窓から反対の壁際までテナントの間を抜けて追い詰められた俺はツルハシを構える。構えているだけでも相当体がきつい。対するブリザードドライは初めて見た時よりも随分装甲が厚くなっている。
「満足まで後一歩………ってとこか?」
ブリザードドライは狭いショッピングモール内では突進ができない。なので爪や牙で攻撃をしてくる。壁際で避けることができないので俺はガードに集中するしかない。
攻撃は纏った装甲分重くツルハシが、腕が歪むような衝撃だ。
「おいもういいのか!装甲にできそうなものはまだ」
10発の爪による鋭い攻撃を壁を支えにしてツルハシでガードした時ふと気づく。
「化粧品………衣類………コイツは硬いものしか装甲にしないのか…!」
鎧にするなら硬いもの、考えてみれば当然だ。テナントの化粧品などには目もくれなかった。鉄の棚や扉など硬いものばかりだ。要するにブリザードドライは盾を欲している。そう考えた俺はある決心をした。
「わかったよ………!ショッピングモールの中のもので十分じゃないんだな」
迫りくる爪、牙全てを一身に受け続けた。膝にかかる負担、腕にかかる負担を考えれば氷鉱夫10人分のキャパを超えているかにも感じられる。だが諦めなかった。
痺れを切らしたのかブリザードドライは屋内にもかかわらず突進の体制に入る。
「突進………いいよ。受けるさ!」
俺は壁を背にツルハシを構える。そしてブリザードドライが近づいたと思うと訳が分からないほどのスピードで突き飛ばされ壁に打ち付けられる。視界が霞む。しかしツルハシは、俺の腕は、心は折れていなかった。
ここまで全力でガードに徹する俺をブリザードドライも不思議に思っているのか少し俺から距離を取った。
「へへ………俺硬いだろ……避けるのあんまり上手くないんだ。作業もそこそこ、氷鉱夫として優秀ではないんだ。ガードなら負けないぜ」
胸当てにもヒビが入り、特製ギミックの靴も今の防御線で擦り切れている。体も今すぐ崩れ落ちてもおかしくはない。しかしそれを無視して俺はブリザードドライにゆっくり近づいた。
「なぁ…ショッピングモールの中のものじゃ足りないんだろ………このまえ取り出した倉庫の中の鉄板も纏ってるし……多分ここにはこれ以上装甲になるものはないよ。だから」
俺は息を吸った。肺が苦しい。飛ばしすぎた。
「俺をまとえよ。俺がブリザードドライの盾になる。そこらの鉄板より、瓦礫より、頑丈だと思う。仲間になろうぜ」
ツルハシを構える手を引き俺はツルハシを持たない手を差し出した。その時ちょうど2階に登ってきたミルがブリザードドライの後ろに見えた。
「マイン!何を……」
ミルにとっちゃとんでもない光景だっただろう。ブリザードドライは俺にゆっくりと近づいた。近づくごとに装甲が剥がれてゆく。鉄板が、瓦礫が、硬い衣類が剥がれ俺の目の前にくる頃には氷が表面に張ったスライムような膝下ほどのの守護者となっていた。
「君が本体か、俺はマイン。アイスポイントを目指してる」
ブリザードドライはジャンプして俺の手に巻きついた。
追いついてきたジローさんは足を引きずり、ココは息をきらしていた。そして俺とブリザードドライを見て驚愕した。
「仲間になりました。俺はブリザードドライの盾役だ!」
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