動き出す
ツドラルさんの正論に打ちひしがれ、その場に座り込んだ。これからツドラルさんはツララ等に仕事に行くらしい。これ以上何かアドバイスをもらうわけにもいかない。
「マイン………カゲト?を助けたいのはわかりますが…やはり」
「わかってる….氷鉱夫に大切な…人のために動く…だけどそれができない!」
視界が潤んだ。この国をヒョウの国から守りきった。成長した。それでもまだできないことがある。フェンスの向こうで悲しみ、ピンチのカゲトのためにやれることが見つからない。
ミルも色々思索を巡らしてくれているようだ。以前なら一蹴されていただろう。互いに協力し、インスパイアしあい、友達になれた。だからこそ考えてくれているのだ。
「ミル………俺思いついたことがあるんだけど…」
「なんです?」
「ミルにオーバーワークを直してほしくて俺は動いた。でもその前にミルは俺にみんなを引っ張ること、自分で考えることを教えてくれた………」
「思い出話ですか?なぜ今…」
ミルは眉を潜めた。ミルからしたら自分一生懸命考えているのにマインは何を言っているのか、というかんじだろう。しかし俺には一つ、氷鉱夫として大事なことに気づいたのだ。
「協力だよ!戦いだけじゃない!氷鉱夫に大切なことは多分…人のために動き…協力することだ」
「人のために…カゲトのために動きたいのはわかりますが…私が協力しても2人じゃ…」
ミルも息を飲んだ。気づいたのだ。ヒョウの国のカゲト、ガール氷鉱夫団を助ける方法を。
俺たちは一言二言交わしたあとすぐに走った。ツドラルさんが何が国境の手続きをしている横を抜けて。
ジャス地区第3採掘氷場。俺の職場に着く頃には気温の割に汗だくだった。汗が凍りつきそうだが、気にせず俺はプレハブのドアを開ける。ジャス地区第3は整頓に無頓着でそれは控え室の整備にも影響が出ている。
歪んだ壁と軋むドアの向こうには職場の仲間が全員揃っていた。
「どうしたマインそんなに息を切らして」
「み、みんなに聞いてほしいことがあるんです!」
咳き込みながら切り出すが思ったよりも声が出にくい。少し咳き込んだあとジーン先輩が渡してくれた水を飲み、椅子に腰を下ろす。
「落ち着いたかいマイン?」
「はい、ありがとうございます、ジーン先輩」
ジーン先輩は眉を八の字にして俺を心配してくれている。本当に後輩思いの人だ。そしてリーダーのカストルフさん、副リーダーのマリーナ姐さん、兄弟のガランとグラン。そんなに職場の仲間達を前に俺は椅子から立ち上がり前に立つ。
「なによマイン、歌でも歌うの?」
「姐さん…いやみんな…聞いてください」
俺は自分の考えを洗いざらい話した。ジャス地区第3のメンバーにヒョウの国に来てもらうのだ。彼らがいればガール氷鉱夫団の作業効率はうなぎ上りだろう。しかしそれはこの職場のストップを意味する。
「マインはそのヒョウの国のカゲト?のガール氷鉱夫団を手伝ってやりたいと?」
「はい…でも俺とミルだけじゃ…皆さんにお願いしたいんです!」
俺は頭を下げた。膝を折っていたら床に頭突きせんばかりの勢いだ。
しばらくの静寂。優しいがストイック、職場の特徴だ。この静寂が怖かった。
「………ダメですか?」
「………なわけないだろうマイン」
俺はカストルフさんの言葉に思わず顔を上げた。全員笑顔でこちらをみていた。マリーナ姐さんは控え室の棚からごっそりプリントとペンを取り出した。プリントは休暇届けである。
「1週間もあればいいかしら?私たちの実力ならそのくらい氷を割るぐらい簡単よ」
マリーナ姐さんは少し楽しそうにカレンダーに7本の線を1週間分引いた。
カストルフさんは腰からツルハシを抜き突き出した。他のみんなもそれに合わせてツルハシを突き出す。氷鉱夫はツルハシを当てることで健闘を称え、相手を鼓舞する。
「ジャス地区第3!1週間!ヒョウの国ガール氷鉱夫団へのヘルプを敢行する!」
「おー!!」
カストルフさんの声に他の氷鉱夫は声を合わせ、拳を突き上げた。目の前の彼らの行動に俺は胸にこみ上げるものを感じた。
「本当にありがとうございます!!」
するとカストルフさんがぴっと俺の前に手を突き出した。思わずのけぞるとカストルフさんがはにこりとする。
「後輩が氷鉱夫として成り上がるのを応援しないわけにはいかないだろ?」
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