第17話 勇者のセーブ9
当然目を疑った
「いいッ!?」
驚きに歯を食いしばって変な声が出た。
「う、嘘だろ!?なんであんなデカくなってんだ!」
走りながら腕で目を擦り
迫る脅威を何度も確かめるが
本当に目の錯覚なんかじゃ断じてない!
「ギアアッッ!!」
今や食われれば丸呑みになってしまうほどの、
大口の喉奥からは元気な叫び声が聞こえてくる。
待てぇ~、とでも言ってるんだろうが誰が食われてやるものか。
毒エキスたっぷりの唾液だらけの口に咥えられようものなら全身が腐敗する。
想像するだけでもゾッとした。
いつまでも続く道に、
いつまでもずっと追いかけて来そうなデカトカゲを連れて
どこまで自分は走るのか?
苦しくなる呼吸に弱々しい自問が浮かぶが意味など無い。
助けてくれる者もいなければ、
先に見えるのはただ一本道ばかり。
景色も変わらなければまるでランニングマシンだ......
永遠に続くのでは?
もう、体力の限界なんじゃないか?
体力よりも精神力がゴリゴリと削られていく。
駄目だ
気持ちで負けては駄目だ。
こんな逆境でも良く捉えるんだ。
俺はここに修行をしに来たんだ......!
そうだ、これは
これはランニングマシンだ!
これが終われば心地よい疲労感に
達成感を覚えるはずだ!
ここが正念場だ、声を張るんだ!
「うおおお!負けてたまるかアアッッ!」
「グアアッッ!!」
呼応するように叫ぶ天敵と俺はもう時間の感覚も忘れて走り続けた。
「ま、けて...た、たまる...か...」
もう足には大して力が入らなかった。
フラフラと老人のような足つきだ。
「まだ、だ...まだ...はし、らなきゃ...」
走る意味も、
もはや歩きに近いスピードで前に進む意味も完全に忘れて
足が勝手に動くような不思議な感覚に囚われていた。
長距離訓練が思い出される。
あの時も足なんかもうガクガクであったのに
慣性でも働いてるように自然と足だけが前に進もうとした。
そしてその過去の訓練も
今の命を掛けた走りも同じ結果に終わった。
力なく膝から崩れた。
遂に終わった。
何が終わったのか、そうだ訓練だ。
もう意識は訓練時代にいる。
まだ前を走るゼフトスが見えるかのようだ......
「...ハッ!」
我に返り、腕の力で上体を起こして背後を振り返るとデカトカゲはいなかった。
「よ、良かったぁぁ~...」
完全に体の緊張が解け、仰向きになって背中からドサッと倒れた。
硬い地面の感触が背中を打つかと思ったら、
背に感じたものは柔らかなものだった。
手元を探ってみるとガサガサという音と湿った感触がした。
どうやら水分を含んだ落ち葉が散らばる地面に寝そべっているようだ。
全身の疲労感を目を閉じて感じながら
やっと瞼を開くと、
とても届きそうにないほどの大木の枝が見えた。
どうやらとてつもなく大きな木の根元で俺は力尽きたようだ。
体が無意識の内に目の前の道の大きな障害を感じて事切れたようだ。
ゴールだとでも思ったのだろう、無意識が。
今は自分とは違う意識に体が突き動かされている感覚は消え去った。
何とかとりあえず立とうとするが、
全く動けない、というより動きたくなくなっている。
「ああ~...だみだぁ...」
だらしない声しかもう出ない。
これほど走れば喉も枯れそうで乾燥してえづきそうなものだが、
湿気に満ちたこの森では喉は無事だったようだ。
トカゲに負けないくらい口を大きく開けて呼吸をしていたはずだが。
「ふぅ~ん、それじゃあアタシが食べても問題ないよね?」
「うーん、お腹は減って...」
ん?
今まで自分は誰かと話していたか......?
「...!」
ガバッと上体だけ起こして声のする大木側を見た。
するとそこにいたのは......!
「こんにちは、そしてさようなら」
上半身が人間の女の子で、
下半身は蜘蛛の化け物だった。
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