第12話 勇者のセーブ6
「ああ、すいません。エヴァンク隊長、軽い怪我なのに休んじゃって」
「いやいや、どんな怪我でも後に響いてくるかもしれん。
俺より若いからといって油断せぬことだな!」
そう、元気にドスドスと救護室に入ってきたのはエヴァンクさん。
この街ベグンの防衛第2支部の一番えらい人と言っても過言じゃない。
そんな人が俺と面識があるのは、
俺が12度も受けた採用試験の試験官に5回も担当してもらったからである。
最初は長身のゼフトスよりも大きな身長と鎧の上からでも分かる筋肉隆々の体、
そしてシワが多く刻まれた強面の顔を見て
どんな恐ろしい試験官かとちびりそうになった。
実際は面倒見が良く、普段明るい性格をしていることで親しまれている。
それでありながら緊急の要請が入れば、的確に指示を出す姿は鬼軍師のようで
気安く接する者は誰もいない。
「全く、自分の鍛錬のために熊を生かすとは...
割とお前は豪胆な性格だったんだな!」
そうバシバシと俺の背中を力強く叩く姿はガキ大将だ。
熱い兄貴分のように心の中では思えている。
「それにしてもお前のステータスは振るわんなぁ!」
結構痛いところを突いてくる。
「はい...色々工夫して能力の向上に努めているつもりですが...
熊にも勝てないんじゃ...」
自身無さげに言うとまた背中を力いっぱい叩かれた。
「何を言うかお前は!
妖の森の熊なんぞ魔界の魔獣と良い勝負なほどの強さだぞ!」
そういっていつかの聖界の危険生物調査で得られた資料の
ステータス数値を液晶で見てみると、
中堅ラインの上位までに食い込む獣であったことが分かる。
「ほ、ほんとだ。それに妖の森に生息する生物は軒並みレベルも高い...」
それを聞くと二カッと白い歯を見せて隊長が笑った。
「ああ、そうだ。
それにその中で熊は森の「ヌシ」クラスだと受け取って構わんほどだ。
生息数の少なさと奴にとってあの森で同等の実力者がいないことが
何よりもの証拠だ。」
そう言われると段々と自信が沸いてきた。
自分はそんな奴とそこそこ戦えたんだ......!
しかし、それは......
「ゼフトスは凄いです...こいつを難なく倒してみせた」
そうポツリと言うと掛けられていた毛布をギュッと握った、
悔しさではないが
また明確な差を見せ付けられたことになるんだ。
それを真面目な顔で見ていた隊長が俺の肩のを今度は優しく掴んだ。
「なあ...もっと強くなりたいか?」
「え?」
急な質問にキョトンとしてしまったが、答えは至極簡単だ。
「...はい、俺...!
強くなりたいです!!」
ここ一番の大きな声を出した。
神に誓うほどの覚悟を表したかった。
「...分かった」
そう言うと隊長はスッと立って背を向けた。
「隊長...?」
「俺との契約をここでしろ、スターク・ヴァークス」
いつにない落ち着いていて威厳のある声が救護室に響いた。
「お前に妖の森での長期訓練を命じる」
「え...でもここでの訓練は」
「それはいい、
今のお前程度がいなくても緊急事態で大きな戦闘が起きたとして
大局には変わりないからな」
突き飛ばすような発言に一瞬、怒りよりも悲しみが広がった。
でもその青色の気持ちはすぐに激情の赤色の感情に塗りつぶされた
「た、確かに今の自分は情けないですが!
この街一番の兵士になろうとする意志は誰にも負けません!」
「ならば!」
俺の大声が負け犬の遠吠えのように打ち消された。
「強くなって帰って来るまで、
少なくともこの街一番の実力と謳われる俺を越えるまでは、
お前の帰還を許さん。
お前がまず本当にこの街最強程度の力を身につけて
帰還すればお前をこの街総出で出迎え、
お前を防衛軍の中でも精鋭のOMMT部隊への配属を用意する。
泣き言を言って帰って来たらば即刻お前を解雇する。」
それは
とても、とても重い宣告だった。
そう受け取って後ずさりしそうでもあったはずだ。
それでも、ここで引き下がるほど俺は弱虫ではなかったようだ
「受けて立ちます!!このスターク・ヴァークス!
その信念を胸に今日まで訓練を積んできました!
そして最大の目標であるエヴァンク隊長を越えよ、との命令であれば喜んで!
ここに命を掛けて引き受けます!!」
今までの虚無の自分を少し打ち破ったような気がした。
隊長は振り返らず、何も言わず、
この部屋の出口を指差した。
「...お達者で」
そういうと俺は持てるもの全て持って全速力で救護室を出て行った。
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