4-11 昇天

 剣が合わさる。打ち合う。鳴き合う。唸る。弾ける。


「ははっ!」


 笑っている。俺は、笑っている。


「あははははっ!」


 灰羽かいばレイも無邪気に笑う。もはや出来レースだという打ち合わせはどうでも良くなっているようだった。それは俺も同じなのだが。


 むしろこれで良いのだ。お互いにそれはノリで分かっていると思う、な!


 強烈な一撃をくれて、前蹴りを放つ。赤いライトギアは膝で受けて、俺の脚と絡めてきた。二人とも抱き合うような格好で、きりもみ状態になる。


 バイザー越しに見つめ合う。目くばせするのが見えた。分かった。もう少し楽しもう。


 大地に激突する前に二人とも離れて、地面すれすれをブースターの推力で滑るように飛んでいる。赤いライトギアが追撃しに迫ってくる。

 二人で並走飛行しながら斬り合う。ビルの壁に沿って、上昇していく。通り過ぎた跡の窓ガラスが割れていく。


「はっ!」


 赤いライトギアが放った一撃をかわす。空に浮き上がって、二撃目をとんぼ返りしながらかわす。

 ビルが袈裟に斬れて、ずるりと滑るように落下していく。崩落するビルから舞い上がった大量の粉塵が瞬く間に周囲を包み込んでいった。


『フィルター正常。ブースターに問題ありません』


 FATAファータが状況を説明している。


『スキャン機能低下中。敵機確認出来ません』


 そうらしい。ウィンドウ表示も砂嵐状態。でも――

 目を閉じて、気を集中させる。


 歌を――生命の歌を、聞け。


 はじめに無明の闇があった。そして、脈打つ音が聞こえてきた。心臓の鼓動。命が波紋のように周囲に広がっていく音が確かに聞こえる。

 ジュリアン、ベルス、ヒラリーは、空中で静止したまま待機している。他の日米のホシビトもその場から下手に動かない。衝突のリスクを最小限に抑えつつ、視界不良の不安感の中でも微動だにしない。


 一つ――動いている音がある。急接近。右から!


 粉塵がふわりと切れて、光の刃が迫っていた。突き!


 閃光剣の腹で受けた。そのままするりと切っ先を外に流す。

 通り過ぎる彼女の背を負う。尻にぴったりと張り付いたまま、崩落するビルの瓦礫の間を縫うように飛行していく。

 やがて、霧が晴れるように粉塵の闇が切れて、空に出た。


 赤いライトギアが、猛烈な加速でビルの間を無茶な軌道で飛んでいく。


「ライトギアを進化させる。準備しろ」

『各部変形に対応します。何時でも』


 俺は、目を閉じて、イメージした。赤いライトギアを超えるパワーとスピード、その姿を。


 一瞬白い閃光を放って、その中から進化した白亜のライトギアが新生する。


 一瞬で赤いライトギアに追いついた。ワープのような、点から点の軌道だ。


 急制動。赤いライトギアがほぼ慣性を無視したように止まる。俺も止まった。互いに一瞬見つめ合い、剣を打ち合った。


 渾身の一撃。


 衝撃の余波で、周囲のビルがえぐれる。俺たち二人を中心に球形に周囲を圧し潰した。


『何というパワーだ……』


 ベルスの通信が聞こえる。


『あれこそパワーだ! もっと俺に見せろっ!』


 ジュリアンが歓喜している。


『二人から波動が……くっ、ううっ!』


 ヒラリーが悲鳴を上げている。


 俺と赤いライトギアがぶつかり合うエネルギーの余波が次第に強くなっていく。風が起こって、周囲に吹き荒れていく。放電現象が起こり、周囲に当たって、爪痕を付けていく。そして、強力な熱エネルギーが周囲を破壊しながら融かしていく。


 赤いライトギアがこちらを向く。俺も意識を合わせた。


『いよいよ大詰め』

『ここから二人で消える』


 念話で示し合わせる。


「FATA、強制排除して、ブラムのところに行け」

『でも、マスター』


「やるんだ!」

『……』


 新型フォーミュラが俺から強制排除される。言いつけを守り、急速に離脱していく。


 俺は――力を解放して、赤いライトギアと天に昇った。


 行く先は、世界の果て――誰にも知られる事も無い。

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