4-4 蒼天の剣

 機体が揺れている。

 大気圏再突入の摩擦熱でプラズマが尾を引いている。それもすぐに過ぎた。成層圏に入り、通信を試みる。


「コントロール、こちらアルファワン、現在上空七万フィート」

『アルファワン、予定コースを航行中。次のフェイズに移行して下さい』


「アルファワン、了解」


 俺は計器を弄り、問題が無い事を確認した。


『フォースフィールド解除。機体をアームドモードに移行します』


 高高度の変形はこれが世界初だと思うが、果たして上手くいくかどうか?


 船首が左右に割れて、両腕に装着される。シートが後ろに下がり、船尾ブースターに引き上げられながら背面にかちりと装着された。


『変形テスト終了。各部問題ありません』

「聞いた通りだ。コントロール、これより戦闘テストに移る」


金剛こんごう型飛行戦艦榛名Ⅱはるなツーが作戦ポイントで待機中。浮遊マーカーが射出されています』

「了解。現在マッハ十八。作戦ポイントまで二十秒」


 腰に装着されたライフルを両手に持たせた。

 右の、PXプラズマライフル。P2Oプラズマライフルで得られたデータを元に、命中率と威力を向上させた新型だ。

 左の、E7ハイパワー。E6アサルトライフルの後継との事だが、より威力と耐久性を追求したとカタログにはあった。反動にやや難があるとの事だが、E系ライフルの中では比較的大人しいらしい。使っていたE5との比較が楽しみだ。


『マーカー確認』


 FATAが視界にマーカーの位置を表示する。


『アルファワン、榛名Ⅱ艦長の三島みしまだ。ホシビトの英雄の力を見せてもらおう』

「アルファワン、作戦行動開始」


 グンッ、と加速が掛かった。

 新型のフォーミュラのエンジンはやはり化け物だ。アームドモードになって、よりパワーを感じられる気がする。


 ほとんど瞬間的な移動と停止。慣性を無視したような動きを実現しつつ、マーカーを次々と左右のライフルで撃ち抜いていく。


 思っていたよりも撃ちやすい。撃った時の反動、銃身のバランスが両方とも明らかに良い。弾速、命中率は以前とは雲泥の差だ。やはり、ニンゲンの知恵は素晴らしい。


『フォースフィールドでの機体制御良好です』


 FATAが今言った通り、キリョクを用いた障壁を機体制御に使用している。ホシビトでも困難な耐Gを実現出来るとファイルには記載されていたが、実際はかなりきつい。だが、楽しくて仕方がない。


 今、俺は地球の重力、パワーから、解放されている。限りなく、自由だ。


『マーカーを全て撃墜しました。榛名Ⅱよりミサイル多数』


 予定通りだ。あれを全機撃墜する。


『ホーミングレーザーマルチロック』


 FATAがオートでやってくれる。接近するミサイルに次々と赤くロックオン表示が出る。


『撃ちます』


 空を裂く閃光が、尾を引いて、蒼天に放たれる。眼前で起こる爆発の連続に続いて、通信の向こう側から歓声が上がった。拍手が鳴り響いている。


『素晴らしい! 新型は、伊達ではないな!』


 三島艦長が声を掛けてくれた。興奮している。初めて、実戦に近い事が出来たからだろう。

 自衛隊は未だに専守防衛を主とした目的で存在しているが、国土防衛のために戦闘を行う事は歴然たる事実だ。

 それをうやむやにする事は、得策とは言えない。後に控えているものがあるからだ。


 第三次世界大戦。ニンゲン同士の戦いではなく、ホシビト、またはボーンとの最終戦争の事だ。


 ボーンにも欲がある。カルチャックを見ていて理解出来たが、ニンゲンと競い合う程の知性のあるものは全て戦争の相手になり得る。


 その時俺は何処に立っているのか。そして、その後は――。


『ニンゲンは、この星を滅ぼす』


 自らの言葉を顧みる。実は、それは、ホシビトやボーンも同じではないか、と今は思うのだ。

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