第57話 形のあるもの形のないもの
月曜の昼過ぎに出社すると、深刻な顔をした事業部長に会議室に連行された。
「客先から今月末で契約打ち切りの通達があった。何かあったのかね?」
「国の予算がついたので、
相変わらず
「外注を止めて内製化するという事か⋯⋯」
いや、作ったりはしないと思うが。
「
どういう契約内容かは知らないが、月末までで打ち切れるという事は
「それで斎藤くんはどうする? 開発に戻るなら席はあるが?」
遠回しな退職勧奨だ。まぁ都合が良いが。
「戻る気は無いので退職します。有給休暇を消化してもいいですか?」
無駄に積まれた有給休暇日数が30日くらいあるのだ。
「そうか。残念だ。いい飲み友達になれそうだったんだが」
勘弁して下さい。部下がついてこなくて社内で孤立してるのは仕事のやり方に問題がある事を自覚しましょう。
「後、有休は来月の締め日までにして欲しい」
「はぁ⋯⋯では有休申請と辞表を出しておきます」
残っていた有給休暇の半分くらいしか消化できないが、もうどうでもいい。ネットで探した辞表テンプレートに名前と日付を入れ、名前も知らない総務担当者に提出する。
呆気ない最期だった。SEをやめた時点で、この会社では企業人として終わっていたのかも知れない。慰留したところで他の仕事がないのだから当然の結果だろう。
ある意味、清々しさを感じながら会社を出る。
引き継ぎも無ければ、同僚もいない。
残ったのは業務として始めたゲームアカウントだけだった。
退社は済んだがやる事は沢山ある。まずは法人化だ。
株式会社設立だと公証役場で定款の認証などで時間も費用もかかるが、合同会社であればネットで拾った未認証な定款と法務局への登記申請費用の六万円だけで設立できる。先方にも合同会社でも取引可能か確認済みだ。
商号は分かりやすさ重視で「冒険者ギルド合同会社」だ。
プレイヤーズギルドとかAnother Dimension Guild略してADGなどもっとマシな他の名前も候補に有ったが、分かりやすさの方が大事らしい。
やや不満ではあるが、他のプレイヤーに覚えてもらいやすい名前が良く、
冒険者ギルドの代表って何だか少し偉そうでちょっと嫌だ。
札幌駅北口地下歩道を通って向かった法務局での登記申請は、待ち時間の割にあっさりと受理され、来週には登記簿ができるそうだ。
未だ現実感は薄いが、社長になったらしい。
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