第14話 パワーレベリング
「ブフォッ!」
しまった。噴き出した音をマイクが拾ってしまった。
⋯⋯詠唱失敗。口元まで寄せたマイクは声を張らなくても良い代わりに、鼻息やため息すら拾ってしまうのだ。
表示されていた詠唱文は『ちちんぷいぷい・マジカルぷいぷい・ぷいぷいエンドで・マジカルファイア』だった。
意味不明の擬音語が多く混じるが、精神的苦痛さえ気にしなければ、比較的詠唱しやすい魔法少女パターンと呼ばれるカテゴリの詠唱文だった。
担当の彼の魔法使い育成方法によると、詠唱パターンは大きく三つに分けられる。
初級魔法で多く出現する比較的低難度の魔法少女パターン、中級魔法で多く出現し、難解な漢字も頻出する厨二ポエムパターン、上級魔法で多く出現するプログラミング英語の様なシステムパターンの三つだ。
初級魔法に魔法少女パターンが多いのは予習で分かっていたはずなのだが、いざ画面に表示されると中々対応が難しい。
これがちょっと魔法使ってみよう程度の覚悟のニワカ魔法使いが、心折れて魔法使い育成を諦める理由だ。恐らくだが皆、初級魔法くらいは持っているのだろう。心が折れただけで。
顔は見えないがマスターがニヤニヤしている気がする。前衛は2メートル程の大鷲の攻撃を抑える事に忙しそうだ。急がねば。
しかし落ち着け、これは仕事だ。理不尽が何だ。いつもの事だろう!
「ボール・スタンバイ!」
「煉獄から
詠唱成功。豪炎の始祖って何だよとか、名前まで詠唱文に入るんかいといったツッコミはさて置き、ARの画面上では仰々しい詠唱文の割にしょぼい魔法エフェクトが発生し、敵にしょぼいダメージを与えた。
「魔法オッケーでーす」
「よし、倒しちゃおう!」
敵の側面に走り出すルイさん。マスターは逆方向へと回り込む。
タンクと比べて、アタッカーのスキルモーションは派手だ。
踊る様にスキル入力して、流れる様に攻撃していくアタッカー2人。女の子が飛んだり跳ねたりしてるのを見ると、何となくこのゲームがそれなりに人気があるのが分かる気がした。
与えているダメージはマスターに軍配が上がるのだが、フードがはだけたルイさんに魅入ってしまう。
あんなに揺れてたら痛くならないのだろうか。
程なくして、倒れる大鷲。エーテルは50くらい獲得した。
「ルイ、MPポーションは持ってきてるんだっけ?」
「さいとーさんと合わせて10個持ってるはず。まだ使ってないよね?」
「使ってません」
「じゃ後10匹くらいはいけるかな。詠唱二回で魔法を発動させるなんて優秀だねぇ」
マスターにバシバシと肩を叩かれる。
「そうよぉ。偉いわぁ」
「優秀」
褒めて伸ばす方針の様だ。ありがたい。
ガイさんは撫でなくていいです。
エーテルは50消費して最大MPを5増やした。
現状のMPは失敗分も含めて14消費し16/35。後2回は唱えられるが、詠唱失敗すればするほど
「頑張ろっ!」
マスク越しのルイさんの笑顔に、もう少し頑張れる気がした。
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