第27話 突然の別れ
「勇者殿!」
この地下空間にそんな声が響き渡った。
それはラウラだった。
やや離れた場所にいた彼女は、僅かに険しい表情でダリウスを見つめていた。
「ん? どうかしましたか?」
すると彼女は言い難そうにしながらも口を開く。
「口を出すべきではないと思っていたが……。それは些か、やり過ぎではないか?」
そう述べた彼女の顔には、彼に対する疑念が浮かんでいた。
これに対しダリウスは、我に返ったように堅い表情を解く。
「おっと……これは……。そうですね……少しやり過ぎだったかもしれません。では、普通に渡してもらうことにしましょうか」
言ったと同時に、エルナを圧迫していた魔力が弛む。
しかし、それで拘束から脱したという訳ではない。
最低限、身動きが取れない状態で壁に張り付けにされたままだ。
ダリウスはゆっくりとエルナの前までやってくると、彼女の首から俺を外そうと手を伸ばす。
「それでは失礼して……」
彼の手が首紐に触れようとした時だ。
ダリウスが驚いた顔を見せる。
それは抵抗するようにエルナが彼の手首を掴み返していたからだ。
「なっ……その状態で動けるとは……」
彼が驚くのも無理は無い。
魔力を弛めたからといって完全に拘束を解いた訳ではないのだから。
そして俺もこの時――別の意味で驚いていた。
エルナが彼に触れたことによって、その魔力が伝わってくる。
これはまさか……。
「何のつもりですか?」
ダリウスは冷たく言い放つ。
抵抗されたからといって彼に焦りは無い。
この状況では彼の方が圧倒的に優位であるからだ。
すると、エルナが掠れた声を絞り出す。
「わ……さ……ない」
「え?」
「わたさ……ない……ぜったい……に」
顔を上げた彼女は、普段の温厚そうな面立ちからは考えられない強い眼光を彼に向けていた。
「この期に及んでまだそんなことを……」
ダリウスは呆れたように呟く。
そして、彼女の手を振り解くと――。
「貴方は賢者の石の力によって心を操られているだけだと言ったじゃないですか」
刹那、魔力が動く気配。
「やめろ」
俺は落ち着いてはいるが強みのある口調で言い放った。
直後、彼の周囲で渦巻いていた魔力が静止する。
「おや? 僕と話をしてくれるのですか?」
「……」
ダリウスは視線を下げ、俺に向き直る。
「アクセル――と言いましたか? 貴方も意志を持ち、会話を成せるなら僕の話が通じるはずです。何故このような才の無い少女を選んだのですか?」
「……」
「魔力の極みたる貴方に意志があるというのなら、その目的はやはり魔法の真理に繋がるのが素直な流れだと思うのですが?」
「まあ、そうだな」
「ならば尚更です。魔法使いとしては未熟で、このような無様な醜態を晒すような少女に賢者の石たる貴方は相応しくない。余程、僕の方が貴方を上手く扱える」
「……」
「アクセル、貴方はここにあるべきではない。共に魔王を打ち倒し、その暁にはこのフェルスティア随一の魔導国家セラディスで、貴方の望む魔法の真理を究めるとよいでしょう。今、僕の言った言葉が理解出来たのなら、貴方の意志で我々に力を貸して欲しい」
「……」
沈黙が過ぎった。
時間にすれば、大した間では無かったのかもしれない。
だが、俺からすれば、それは酷く長く感じる間だった。
心に決め、ゆっくりと口を開く。
「分かった」
「えっ……」
エルナは俺が何を言い出したのか理解出来ずにいた。
触れている胸元から、彼女の空虚な動揺が伝わってくる。
しかし、俺は構わず続ける。
「ダリウス、お前に俺を託そう」
「……」
そうハッキリと口にした。
すると、ダリウスの手首を掴んでいた彼女の手が、力無く解けてゆく。
「おおっ、分かって頂けましたか。ありがとうございます。では早速……」
ダリウスは喜び勇んだように、エルナの首から俺を外す。
その間、彼女は一切の抵抗を見せず、ただ呆然と一点を見つめていた。
直後、魔法による拘束が解かれ、彼女はその場に膝から頽れる。
そして、ボロボロな体で虚を見つめながら呟いた。
「ど……どうして……」
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