第4話 実は魔法石なの?
『宝石さんじゃない。俺にはアクセル・アルトマイアーという、ちゃんとした名前があるんだ』
俺は少女の腹の上でそう訴えた。
すると彼女は俺のことを両手で持ち上げ、色んな角度に傾けながらじっくりと見回す。
ちょっとくすぐったいが我慢して、されるがままに待っていると、ようやく彼女は納得したような笑みを浮かべる。
「やっぱり、宝石さんじゃないですか」
『お前は人の話を聞いてんのかっ!』
「?」
『……』
それだけのやり取りで、俺のこれからの未来に不安が過ぎる。
でもまあ、悪い人間では無さそうだ。
ちょっとぼんやりとした感じでポンコツ気味だが、裏表の無い素直な性格。
ほんの少しの会話しかしてないが、それが分かる。
そういう所に勘が働くのは年の功というか、経験の多さというか、そんなのが役に立っている。
こいつなら話しても大丈夫そうだ。
『俺はこう見えても、世紀の大魔法使いにして大賢者と敬われる存在なんだぞ? 大賢者アクセルと聞いたら国王が門前まで迎えにくるほどのな』
「……」
そこで彼女は目を丸くしたまま、しばらく呆然としていた。
だが不意に――
「……ぷっ」
口元が綻び、それを隠すように慌てて顔を背けた。
『っ!? おいっ、今笑ったな?』
「いっ!? いえ、そ、そんなことはないですよ! ……ぷふっ」
『やっぱ、笑ってんじゃねえか!』
「いや、だって……こんな手に収まるような宝石さんに、『ボク、大賢者なりよー』とか言われても……想像しただけで……ぷっくくく……」
『本音が出やがったな。しかも、俺の口調を勝手に改変してるし! っていうか、吹き出すほど面白い話題だとは思えないんだが?』
「いえ、笑いのツボはそこじゃないんですよ」
『ん?』
「まさか……よりにもよって大賢者の霊に取り憑かれてしまうなんて思ってもみなかったので、あまりの怖さに笑うしかないのですよ……あははは……」
彼女は笑いながらも、その瞳に涙を浮かべていた。
『まだそこを引きずってたのかよっ!!』
あれか? 俺の口調を変なふうに言ったのも自分の中で〝可愛いお化け〟に変換して思い込むことで恐怖を軽減させようとしたってことか。
なんというか……想像も付かないようなことをしてくるな…………とかなんとか思っているうちに、彼女は俺を再び地面に置こうとしていた。
『ちょぉぉぉっと待ったぁぁぁぁっ!!』
「ひっ!?」
彼女は突然の叫びにビクッと体を震わせる。
「な、なんですか? 急に……」
『いいか、置くなよ? ぜぇーったいに置くなよ?』
「ど……どうしてですか?」
『今の俺は、お前に触れていないと会話ができない状態にあるからだ。だから……』
コトッ
『@×△%℃!? $#*☆√!!』
コトッ
『ごぉらああああぁぁっ!! 置くなっつったろがぁぁぁっ!!』
「ホントですね……」
『試すなよっ!』
にしても、またどこかへ行かれてしまっては困る。
気が変わらないうちに、ここらでちゃんと説明しといた方が良さそうだ。
『いいか? よく聞け。俺はお前が思っているような霊やお化けなんていう存在じゃあない。訳あってこんな姿になってはいるが正真正銘の人間だ。と……言っても説得力が無いし、信じられないだろう』
「信じます」
『受け入れるの早っ!』
「信じさせてっ……!」
彼女は涙目で訴えた。
『お前……ただ単に、お化けだと思いたくないだけで信じることにしただろ……』
「だって……ううっ」
『まあ、それでもいいんだけどさ。俺がなんだかモヤモヤするんだよ。だからといって正直な話、俺が人間だって証明できるものが手元に無いのも事実。だがな――これだけはハッキリと言える』
「?」
そこで少女は空気を察知して真顔になる。
『さっき俺は大賢者だと名乗ったが、その名に相応しい魔力が今も尚、この身に宿っている。それだけは嘘偽り無い事実だ。俺が俺だと証明できるものは、今この魔力くらいしかない。魔力はその力の大小はあれど、この世に生きる全ての生き物に平等に与えられている。だが一方で、霊やアンデッド系のような死者には扱えない代物だってことは知ってるよな?』
「うん……」
『ってことは、その魔力の一端をここで披露することで、俺が人間である証明には足らないかもしれないが、お化けじゃないって証明にはなるだろって話』
「はあ」
『はあ……って、納得行ってないように聞こえるが?』
「えっ…………いえ、そんな事ないです。その通りだと思います」
『……』
その態度……なんだか腑に落ちないな……。
『まあ、お前が納得行く、行かない関係無しに、俺はここで魔法を使ってみたいと思ってる。俺自身の為にもな。それにあたって一つ頼みたい事があるんだ』
「なんですか?」
『意図せずこんな姿になってしまったせいで、俺は自分の魔力を魔法として発現させることができなくなってしまっているようなんだ』
「やっぱり、お化け!?」
『違ーうっ!』
もし俺が本当にお化けだったとしても、ここまで普通に会話してるんだから、そろそろ慣れてもいいもんだけどな……。
『今の俺は魔力の塊、言わば魔法石のような存在になっているんだと思う。大体、魔法石ってのは魔法使いが自分の魔力を増幅させたりする為の触媒として使うのが一般的で、魔法石が自ら魔法を発現させた――なんて話は聞かない。そもそも魔法石に意志があること自体が有り得ない訳なんだけど、それは今は置いといて……。俺を普通の魔法石と同じように扱えば魔法が使えるんじゃないかってことさ』
「なるほど、なるほど」
『なんか他人事のようだが……ここでさっきの頼みたい事に繋がる訳だ』
「ん?」
『ん? って、お前に俺を魔法石として使って見せて欲しいと言ってるんだ』
「へー………………って、私!?」
『こんな場所で、他に誰がいるっていうんだ?』
「大変申し訳無いのですが、他をあたってもらえますか?」
『なんでだよっ!』
「なんでと言われましても……」
『なにも強力な魔法を放てと言ってる訳じゃない。普通に俺の中にある魔力をちょっとだけ操作してくれるだけでいいんだ』
「うーん……どうでしょう……。無理じゃないですかね……」
『……』
彼女は俺の提案に何故だか非協力的だった。
この方法に期待を抱いていただけに歯痒い。
もし、俺が他者に魔法石として使われることが可能であるなら、その魔力を使って今よりもずっと行動範囲が広がるからだ。
だから、それが実際に出来るのかどうか試したくて仕方が無いのだ。
『何か協力できない理由でもあるのか?』
率直に尋ねると、彼女は俺を両手の上に乗せたまま、あっけらかんとした態度で答えた。
「だって私、魔法が使えないですから」
『はい?』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます