第3話 虹色の宇宙、金平糖の惑星、旧支配者

 一年後――――。

 現世宇宙における地球時間で、新約歴2020年をむかえていた。

 

 ――――どこが新世界だ、ここは地獄そのものだ――――。

 ワンダーランドなんて、どこにもありゃしねぇ!


 いつになく、虹色の宇宙は荒れていた。


「聞こえるか!? こちらマクナマラ。旗艦、応答せよ! 敵に囲まれていて戦況は劣勢だ!」


 マクナマラ小隊長はコックピットで一人、ひたすら状況を訴え続けていた。

 目の前のことで精いっぱいで、正確な戦況を伝える余裕すらない。

 ここでは、自分が知る宇宙の常識が違う。


 連続する光の散逸。

 爆発に伴い、七色の宇宙は激しく振動し、波となり広がる。

 虹色が混じり合いいびつに醜行。

 空間に広がる爆破音は、人類が知識的に知っている音ではなく、甲高いノイズのようで、生命が絶命する絶叫に聞こえる。

 それは”死”自体の叫び声に思えるほどだ。


 マクナマラ小隊長が搭乗する《対時空人型兵器・バルカヌス》

 全長30メートル、ワイン色の甲冑をまとったようなシルエット。

 表面はところどころスケルトン使用になっており、内部の装置や電子基板が外側からも見て取れる。

 顔は獅子のような獰猛な顔つきのデザイン。

 鍛冶を司る神の名を介す同兵器は、死神すらも嫌うような最前線にいた。


「こちらマクナマラ! USSゴルディアース! 応答せよ!?」


 女性の声を合成した、人工知能の無機質な声がコックピットに響く。


『こちらUSSゴルディアース。マクナマラ小隊長、聞こえます。通信が混線しており音声を拾いにくい状態です』


「わかった! 端的言う。艦長へ”ブロークン・アロー”」


『ブロークン・アロー? その要請は大隊長の権限が必要となります。大隊長が指揮能力を失った場合、中隊長による権限が必要となります』


「大隊長は死んだ! 中隊長も殺られた。ここには俺の小隊と、大隊の残存部隊だけだ! 指揮する者はいない!」


 ブロークンれた・アロー――――それはアメリカの空軍における用語で、味方の部隊が劣勢、戦闘の続行が困難を要する際に、支援として行う空爆要請のコールサイン。

 この空爆は、味方を巻き込む可能性をはらむ、諸刃の剣。


『承諾。艦長に要請します』


 人工知能が返すと、通信は途切れた。

 瞬きをすれば絶命しかねない戦況に、1秒ですら長く感じてしまう。


「何もたもたしてんだよ……待て? 来るな! うわぁ!?」


 遠方から迫り来る物体は、点としか見えなかったにもかかわらず、あっという間に目の前を覆う。

 飛来した異形の生物は、マクナマラの機体に張り付く。

 

「ぶよぶよして、気持ちワリぃんだよ!」


 バルカヌスの機体よりも、一回り大きい巨体。

 それは7色に変色する巨大なスライム。

 表面は煮えたシチューのように、気泡がぶくぶくと膨らんでは縮んで、再び膨らむ。


 人類がつけた呼称コードは"ヨグソトース"

 何かの神話から名付けられた名称だが……。

 表面がケロイド状をなし、人類から生理的に嫌われる怪物。

 ヨグソトースは表面から、7、8本の触手を伸ばし、バルカヌスを締め付ける。


「俺はタコは嫌いなんだぁ!? 離れろ!」

 

 マクナマラは、半狂乱になりトリガーをめいいっぱい引く。

 トリガーに連動してバルカヌスは、スライド式のレーザー銃を撃ち続けるが、敵は離れない。

 そうこうしているうちに、レーザー銃のエネルギーが尽きたこと伝えるアラームがコックピットに響く。


「ちくしょう! 次元が違うと、神の加護も受けられないのかぁ?」

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