第29話 イナバ国の平穏とイズモ国の不穏
ルウの処刑騒動から二ヶ月が経過していた。
夏になり、暑い日が続いている。
ルウに
大陸からはじまったルウの孤独な旅は、このイナバ国で流れを止め
ルウは、治水の神としても名高い
「オオナムチくん、ごめんね。ヤガミちゃんとの婚姻は、もう二年待ってほしいの」
ルウは血族であり年齢も近いヤガミ姫と意気投合し、オオナムチとヤガミ姫の婚約に賛成していた。
現人神になったことで、視野が広がり、心が広くなっていた。
そして、イナバ国王朝の繁栄と国益を考えると、ヤガミ姫とオオナムチの婚姻はベストの選択になる。自分の初恋はあきらめるしかないと考えはじめていた。
イナバ国王は、ルウに逆らえず、こうしてオオナムチとヤガミ姫の婚約は決まった。
ただし、治水事業が完了し、ヤガミ姫の求婚の義に頼らなくてもやっていけるようになるまで、そのことは伏せておくことになった。
ルウの隣に立つヤガミ姫は、照れて顔を隠すようにうつむいている。
ヤガミ姫もはじめての恋なのだ。
「よくわからないけどいいよ」
オオナムチは、事態が飲み込めていなかった。
しかし、器がでかいので、二年後のことなど、まったく気にしていなかった。
この二ヶ月は、廃人となったムルの
ムルもようやく元気を取り戻してきている。
「俺様のおかげでヤガミ姫と結ばれたってことを忘れるなよ!」
ムルは、いつの日かイナバ国王になったオオナムチから、金と女と権力を
そして、ヤガミ姫への貢物は、オオナムチへの貸しであると言い張って損益をチャラにし、それによって
ナオヤはすっかりイナバ国王のお気に入りになって
こうしてなんとかイズモ国に帰れる準備が整ったのだった。
◆
その頃、イズモ国オウ町にあるイズモ国庁では、オオナムチを議題にした会議が開かれていた。
イズモ国、
スサノオ大王とサルダヒコ元帥は不在であり、スサノオ大王の御子神であるイソタケル皇子や山神オオヤマツミなど欠席はあるが、
会議は
「なぜ貧弱な文官どもと、顔を突き合わせて話さねばならぬのだ!?」
スサノオ大王とクシナダ姫の子であるヤシマジヌミ将軍は、嫌悪感をむき出しにして、文官の列を睨みつけた。
「
オオトシ神の言葉に、武官たちがいきり立つが、古き海神ワダツミ大神が立ち上がった。
「皆、落ち着かれよ」
ワダツミ大神は、祖神イザナギとイザナミの御子神であり、その神威は並居る神々の中でも別格である。
そのワダツミ大神が、静かに語り始めた。
「そのオオナムチと申す神は、イズモ国にまつろわぬ神であり、イナバ国のヤガミ姫を
イナバ国でのオオナムチたちの騒動は、イズモ国への
そして、神々はその対応を話し合っている。
ヤシマジヌミ将軍が椅子を蹴飛ばして、立ち上がった。
「ワダツミ大神よ。そのとおりだ。今討っておかねば
スサノオ大王の血を色濃く引いたヤシマジヌミ将軍は、好戦的なことで有名であり、文官たちとは犬猿の仲である。
オオナムチ討伐隊を組み、オオナムチを討つべきだと力説している強硬派だ。
「しかし、我ら
オオトシ神が答えると、文官たちが大きく
文官たちは、まずは、オオナムチをイズモ国に
しばらく目を閉じて考えていたワダツミ大神が立ち上がった。
「それではこうしようではないか。イナバ国へ
長い会議の末のワダツミ大神の
こうして、イナバ国のオオナムチに向けて、イズモ国の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます