第42話 旅立つ先に待つ者とは?!
旅人の宿<オイスター>・・・
いつもながらむさ苦しい呑兵衛共がひとしきり騒いでいる中で。
「ほぅ?それが秘宝って奴なのねぇ?」
「秘宝っていうのかどうか。
・・・まぁ、戦利品には違いないけどねぇ」
食事の傍ら、タストンに苦笑いしながら教えるのはサエの方。
ふむ・・・と、頷き品定めするタストンが。
「その剣、売る気はない?」
ミコに向かって訊ねる。
静かに首を振り、断りを入れると。
「スワンの剣は売らない。いつの日にかあるべき場所に返さなきゃいけないから」
白き魔法の剣を下げたミコが意味有り気に教えた。
「あるべき場所?あのラルの遺跡に返しに行くっていうの?」
言葉の意味が解る筈もない
にっこり微笑んだミコがもう一度首を振った。
「ミコには・・・なにか知らないけど解っているんじゃないの?
黒い魔剣だったのが、白き魔法剣になった理由も・・・
どうしてすんなり手に出来たのかも・・・ねぇ?」
魔剣を手に出来た時の状況を報告したサエが、タストンが求めても手ばそうとしない訳を告げる。
街に返って来たミコとサエは、いの一番に<オイスター>に入った。
丸一日もかかって手に出来たのは魔剣ぐらいだったのだが。
目の前に現れた二人が、たったの一日で成長を遂げている事に驚いた様だった。
勿論タストンには、二人に何が起きたのかは知る由も無かったのだから。
「クエストに成功したのは分ったけどねぇ。
秘宝って剣だったなんて・・・知らなかったわぁ」
白い剣から眼を放さず、二人というよりもミコに対して。
「魔剣を手にした
秘宝には目的を遂げさせることの出来る力があるんじゃなかったかしらね?」
何処から仕入れて来たというのか。
タストンは魔剣について情報を得ているようだったが。
「ミコの願いって、魔王を倒す事だったんでしょ?
魔剣の出典は何処からだと思うの・・・かしら?」
赤毛のタストンが指で髪を弄びながら問いかけてくる。
「うん、僕達が元の世界へ帰る為なら。
そうしなきゃ帰れないと思っていたんだ・・・今もそう思っているんだけど」
「けど?・・・けど、なによ?」
フォークを停めたサエが聞き咎める。
ちょっと困ったような表情を浮かべたミコが、二人に向かって溢すのは。
「けど・・・ね。
もしかしたら、魔王を滅ぼさずに帰れないのかなって。
魔王の元に行けたらだけど、説得して倒さずに済んだら。
魔王を辞めて貰えれば・・・済む事なんじゃないのかなって?」
サエとタストンが眼を丸くしてミコを見詰める。
魔王を説得する・・・だって?
倒さずに辞めさせる・・・だってぇ?
「ぷっ!」
「うひやぁーっ、マジで言ったのミコ?!」
真面目な顔で言ったミコに、信じられないモノを見る目になって二人が嗤う。
「そうだよ?何かおかしい事を言った?」
笑い合う二人に対して真顔で訊き返すミコに、更に笑い声を大きくして。
「マジか?!ミコ、頭おかしくなったんじゃないの?」
サエが腹を抱えて聞き返す。
「あらまぁ、成長したのは身体で、オツムの方は退化したの?」
ミコは一向に真顔のままで、
「僕は正常だよ!魔王だって話せばきっと分かり合えるんだよ!」
辛辣な言葉を吐く2人に反抗してくると。
「だって、僕にはスワンの剣があるんだから。
願いを遂げさせてくれる魔法の剣があるんだから!」
腰の剣に手を置いて、二人に向かって言い返した。
剣を手にした者の願いを遂げさせるという魔王の剣。
ミコの腰に下げられた剣にはどれだけの力があるというのか。
それに・・・ミコが急にこんな事を言いだした訳とは・・・
「ミコ、一体何があったのよ?
あれだけ魔王を倒すって喚いていたのに。
帰る為には魔王を滅ぼさなきゃいけないって言ってたのに?」
追及されたミコが、我に返ったように座り込むと。
「い、いや・・・別に。
僕は唯・・・倒さなくても帰れないかなって・・・思って」
歯切れの悪い返事を返すだけだった。
<・・・ミコには何かが聞こえたようだ。魔剣を手にした時に。
それからだ、態度が変わって来たのは。
何かがミコを変えようとしているんだ、ミコにしか知らない何かの所為で>
モフモフの狐モドキ状態のリュートが、ミコの足元で考えていた。
魔剣を手にした時、ミコの様子が一変した。
それは傍から見ても判った・・・だが。
何があったのか、何が告げられたというのか。
ミコは黙ったまま教えようとはしていない。
幼馴染の自分にさえも教えられない事なのか・・・
「なぁミコ。魔王って奴と話し合う前に・・・だ。
その魔王って奴がどこに居るのかを探さなきゃならねぇんだぞ?」
今迄黙って3人の会話を聞いていたリュートが口を挟んで来る。
「そ、そうだったよね?それが先決だよね?!」
流れを変えるリュートの言葉に、思い出したかのようにミコが頷く。
「そりゃそうよねぇ、相手がいないのに話す事なんて出来っこないものねぇ」
タストンも振られた話に同調する。
「魔王ねぇ・・・闘うよりも見つけ出す方が難しいって。
まるで砂漠で宝石を探すようなモンよねぇ・・・」
サエがもっともらしい事を言うが。
「サエ、喩えが見当違いに向かってるわよ?」
「魔王を探し出すのなら、エクセリアの情報をかき集めなきゃ。
ギルドにあるそれらしいことをクリアしていけば、その内見つけられるわよ?」
含み笑いを入れながら、ギルドマスターでもある自分を指差し。
「今日も新しいクエスト依頼が舞い込んだのよねぇ。
チャレンジしてみる気はないかしら・・・ねぇ?」
裏の仕事を世話すると言い出して来る。
「タストンさんって、宿屋というより商売人だよなぁ?!」
苦笑いするサエが、ミコの方に目を向けて。
「こう言ってるけど?我らがマスターが。
どんなクエストかは知らないけど・・・受けてみる?」
つい今しがたまでへたばっていたサエとは思えない言葉が投げかけられ。
「次のクエストでも成長するのかなぁ・・・」
自分よりもミコの身体を観て、ニヤリと笑って来る。
サエが言うまでも無く、魔法力がUPすれば。
すなわち身体が成長する事になるだろう、一段と女の子らしく。
「美呼姉の身体になって行くんだ・・・多分。
それの意味がどういう事なのか・・・知らなきゃいけないのかも」
サエの冗談を聞き流して、ミコはそっと胸に手を当てる。
<きっと・・・その内出逢う事にもなるんじゃないのかな?
この魔剣から聞こえたのが姉さんの声なら・・・
魔王の剣から聞こえて来たのが持ち主の声だとすれば・・・>
気が付いていたのか。
ミコの考えた通りならば、魔剣から聞こえて来た姉は?
<美呼姉が、このエクセリアに居るというのなら。
魔剣が魔王のモノだったのならば、持ち主は魔王・・・
美呼姉の声が知らせたのは・・・魔王が誰なのかという事>
ミコの心は荒波の如く打ち砕かれようとしていた。
知ってしまった、まだ信じられなかったのだが。
解ってしまったのだ、彼女があの魔法書に求めてしまった事を。
唯、美呼姉の声が聞こえたというだけなのに。
空耳じゃなく、確かに訊いてきたのだから。
自分の名を、そしてリュートの名を。
いつか・・・いつの日にか。
自分達と姉が向かい合う日が来ること。
それが意味しているのは・・・闘わねばならないという事を指しているから。
きっと・・・最期には。
「なぁ、ミコよ。
俺達は帰る事が出来るんだよな?」
新たなクエストに向かう途中で、肩に載った狐モドキが訊ねる。
「うん、帰れるよ。必ず・・・諦めさえしなきゃぁ!」
断言するミコに、リュートは頷き。
「そうだよな!早く帰らなきゃ・・・モフモフのまんまは嫌だかんなぁ!」
空を見上げるリュートが飛び降りると、
「いつまでも俺はミコを護ってやるから、帰ったとしても。
高校生に戻れたとしても・・・男に戻っても。
それが俺の答え・・・さ!」
不意にリュートの姿が制服姿の男の子に観えた。
モフモフの狐モドキなんかじゃなく、恋心を抱いている
「あ・・・うん。うんっ!」
気が付けば。
狐モドキが頷いていた。
<リュート・・・やっぱり。聞いていたんだね?>
嬉しくなった・・・ほんの少し。
想いは果たされた・・・でも。
願いは新たに産まれていた。
<リュート、僕はこの世界から帰れない。
姉さんが居るのなら、連れ戻さなきゃいけないから。
魔王だなんて信じていないから・・・だからっ!
幼馴染の僕と一緒に冒険しようよ。
愛を手に出来るまで、願いを遂げれるまで!
魔王を倒しても帰らないからっ!
幼馴染を護る君と一緒じゃないと! >
いつの日にか・・・・そう
「行こうぜミコ!俺達を待ってる奴の元へ!」
「うんっ!ぜぇ~ったいぃっ、遂げて、果たしてみせるからね!
いつか必ずっ、僕達の世界へ帰ってやるんだからっ!」
指差す先に何があるのか。
ミコ達を待ち受けているのは、どんな物語なのか?
今は唯、目の前の
__________
黒い霧が立ち込める。
闇の様な空間で、何かの生き物が哭いていた。
「こらこら、静かにしたら?」
娘の声が哭く者を嗜める。
茶色い髪を掻き揚げた娘らしい姿をした者が座っていた。
「にゃぁ~っ!」
その娘の足元で、青黒い獣が蹲る。
首輪を填められた猫の様な獣が・・・
「ふふふっ、面白くなったわ。
まさか本当に思い通りの展開になってるなんて・・・」
手元にある機械に指を添えた娘が細く笑む。
「あなたの力だというの?
私の想い通りにしようとしていると言うの?」
猫の様な獣に話しかける娘。
身に着けているのは、まるで
赤黒いバリアージャケットに身を包む姿は、あたかも闇の住人のよう・・・
「それにしても、まさか・・・あの子がねぇ。
昔の私の身体になってるなんて・・・傑作だわ!」
目の前に映し出されたモニターに映るのは?
「
あなたは魔王を滅ぼす為に召喚された。
倒せる筈もないのに、返り討ちになるというのに。
細く笑む娘がモニターに向かって嘲る。
「にゃっ?にゃにゃぁ~っ?!」
にゃ語を話す猫の様な獣は、娘に向かって何かを訊いた。
「そう。あの子は私の手で・・・潰え去る。
エクセリアからも、現実世界で・・・でもよ?!」
娘が掻き揚げた茶毛から、瞳が観える。
紅く澱んでいる、真っ赤な瞳が。
「にゃぁ~っ?」
再び獣が訊き直した。
「ええ、勿論よ。
あなたの事には感謝してるわ・・・リュート」
獣に向かって感謝を告げる娘に、獣が頷く。
「この
私の願いを聴き遂げようとしてくれたリュート・・・
魔王に成らんとする女神だったあなたに因ってね、リュート?!」
辺りに魔物が控える中を、娘が嗤う。
闇の中で・・・光の届かない暗闇の中で。
「あーっはっはっはっ!来るがいいわミコ!
あなたはこの私の手で始末してあげる。
姉だった因縁を魔王自らが断ち切ってあげるわ!」
呪いの声をあげる魔王たる者。
その名は・・・ミコ
第1篇 龍と女神と幼馴染と End
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