第35話 奥義とは?

相手が二人となっても、闇の翔龍騎ドラゴンライダーは動じなかった。


最初に倒すべき相手を変更しただけの事、手強いと感じられる方から攻撃するべきと判断を下したのだった。



ヒートロッドが伸び、白銀の男に突き当たる瞬間。


「そんなヘナチョコ棒で突けるとでも思うの?甘いわね!」


左手の鍵爪が一閃すると、ロッドが跳ね上げられて。


「今度はアタシの番ね!これでも喰らいなさい!」


続けざまに右手の鍵爪が振り下ろされた。

距離は手が届くまでは近くない・・・というのに?


サエの鍵爪から3本の光の刃が飛び征く。

さながら矢の如く。

ロッドを羽根避けられた黒鉄のジャキには、3本の刃を避ける事は出来なかった。

モロに光の刃を喰らい、突き刺さった刃がジャキにダメージを与えた。


「ぐぅおぉっ?!貴様ぁっ!」


怒るジャキに勝ち誇るサエ。


「言ったでしょう?今度はアタシの番だって。

 アンタみたいな闇の翔龍騎ドラゴンライダーには、負ける訳にはいかないから!」


女の子喋りの翔龍騎ドラゴンライダーに断じられて、黒鉄のジャキが唸りをあげる。


「貴様の様な男女に負ける事など断じてない!

 我が術に平伏させてやる!」


ロッドを戻したジャキが唸りと共に身体を丸める。

闇のオーラがジャキを包み込むと、黒鉄の翔龍ドラグナーが形を変え始めた。

今迄の姿とは全く違う、異質な姿へと。


「おやまぁ、とうとう本性を現したようね?」


膨れ上がる魔物の姿へと変わって行くジャキに、少しも驚かないサエが呟く。

傍らで様子を観ていたミコには、とんでもなく悍ましいく観えているのだが。


「サっ、サエさんっ?!

 あれは?ジャキはどうなったの?翔龍ドラグナーが変化してるんだけど?!」


闇のオーラに包まれたジャキの姿は、もう異質な魔物の姿へと変わっていた。


「ああ、ミコは観た事がないんだよね?

 あれは闇に染まった翔龍ドラグナーが本性を現した姿なんだ。

 こいつはどうやら爬虫類の属性があったみたいね?」


動じる事も無く、サエが教えてくる。

黒鉄のジャキの姿は膨れ上がり強固な装甲を持つ、鰐の様な姿へと変わっていた。


「ジャキと名乗った翔龍騎ドラゴンライダーは、もう居ない。

 ここに居るのは闇の力を持つ魔王の手先。

 ミコが探し求めている本当の魔王の配下で、倒すべき者!」


ミコを観るサエの眼が、何故だか優し気に観えた。

翔龍騎ドラゴンライダーとなったサエの瞳は、男の娘の時とはまるっきり別人にも観えた。


「サ・・・エさん?」


戸惑うミコに、リュートは苛つく。


「ミコ!この際だ!

 サエと共同戦線を組んででも、奴を倒すぞ!」


リュートの声にミコが我に返る。

ボケっとサエに気を取られている場合では無いのだと。


「そうだね!奴を倒して秘宝とやらを見つけないと。

 それに、奴の口を割らす事もやらなきゃいけないんだよな!」


いろんなことが次から次へと起こったから、気が廻らなかったミコだったが。


「サエさんの言った通りなら。

 アイツは魔王の事を知っているんだもんね?

 倒し去る前に訊かなきゃいけないんだよね、魔王がどこに居るのかを!」


やっと闘う意味が納得できたようだ。


「そう!その通りなんだ、ミコ。

 奴から情報を得るには、勝たなきゃいけない!」


向こうから魔王の配下を名乗って来たのだから。

配下の者なら主人たる魔王がどこに居るのか、知らない筈が無いと思った。


「うん!魔王がどこに居るのかが解れば、そこに向かえば良いんだもんね!」


この世界から帰還する唯一つの方法。

そのヒントが目の前に居る。

ジャキに話させるには、闘って勝たねばいけない。


「ミコ・・・アンタが魔王を求めるのなら、アタシだってそうなんだ。

 魔王を滅ぼして、勇者になって・・・王になるのがアタシの夢。

 その足掛かりが目の前に居る・・・この闇の翔龍騎ドラゴンライダーなんだ!」


鍵爪を構えるサエが振り返って、


「さぁ!アンタ達の力を見せてみなさいよ!

 アタシが納得できるような力なら、これからも協力してあげるわ!」


白金の翔龍騎ドラゴンライダーミコに、全力で闘えと言ってきた。


「勿論!僕の全力全開をみせてあげるから!」


踏みしめた足元に力を貯めるミコ。

ミコがどんな攻撃力を持つ者なのかを求めるサエの眼が、噴き出してきた金色の光を認めた。


「リュート、僕の最大攻撃力ってパンチだけじゃないよね?

 キックの力って、どれくらいなのかな?」


空手を知るリュートにはミコの求めた答えが解った。

蹴る力には腕の力をも超えるパワーがある・・・そう。


「足で蹴るだけじゃぁ駄目だぞ?!

 最大攻撃力を引き出すには、飛び上がって落下の力をも使わねぇと。

 それに、敵へ最大のダメージを与えるには急所を狙わないといけないんだ」


跳び蹴りの極意。

リュートには大技過ぎるとも考えるのだが、そうでもしないと倒せるとは思えない。

ミコの求めて来た力の使い方は、決して間違った選択とも言えない。

唯、武術の素人であるミコに、大技が決められるかが鍵だった。


「アンタ達、何か面白い技を決めたいんだ?

 それならアタシに一枚噛まさせて?観てみたくなったから」


共闘するサエが横からしゃしゃり出て、


「それじゃぁ、アタシが奴の気を捕えておくわ。

 爬虫類の弱点である眉間の間に撃ち込んでみなさいよ?」


鰐の様な体つきのジャキに、サエが両手の鍵爪で刃を放つ。

硬い装甲の身体に突き立つが、ダメージはそうそう与えられてはいないようだった。


「奴の装甲は半端じゃない・・・か。

 アンタ達の力で撃ち抜けれるか、拝見させて貰うからね?」


ジャキの気を逸らす為に、サエがミコ達から離れて立ち向かって行った。

近寄る自分に攻撃の手を向けさせる為に。


「サエさんっ?!・・・解ったよ!見せてあげるから!」


走り去ったサエに頷いたミコが、リュートに頼むのは。


「リュート、一撃で奴を倒せれるかが鍵なんだ!

 僕に力を貸してっ!僕と一緒に翔龍騎ドラゴンライダーキックを決めてやろうよ!」


「オーケェーっ!いつでも来いよ!」


足元に力を籠めるミコ。

リュートに因って魔法力が溜められ、それが魔法陣を描かせた。

金色の魔法陣から光が舞い上がり、翔龍騎ドラゴンライダーミコの身体を包み込む。


あおの瞳に映るのは、サエと闘うジャキの眉間。


「ミコ!いつでも良いぜ?」


リュートにかけられても、ミコは動かない。


「まだ・・・まだだよ。もう少し・・・もう間も無く・・・」


サエがジャキのヒートロッドを避け続けている。

硬い装甲に阻まれたサエの刃が虚しく空を切る。


「おいミコ?まだかよ・・・アイツ・・・ヤベェぞ?」


サエがジャキの攻撃を受け避けきれず地を転ぶ。

ミコの瞳に映るジャキの眼が、白銀の翔龍騎ドラゴンライダーに据えられた時。


「今だ!リュートっ跳んで!」


叫ぶミコがジャンプし、更に高く駆け上る為に求めて来た。


「おうっ!いくぜいくぜ!いくぜぇっ!!」


翔龍騎ドラゴンライダーミコの姿が地上から消える。

跳び上がったというよりは、飛んだと言った方が良いだろう。

空を切るミコの身体から光が溢れ、伸ばした足先には魔法陣が描かれていた。


「目標は額の間!眉間だからっ!」


ミコの狙うのは闇の翔龍騎ドラゴンライダージャキにとっても弱点。

そして、どんな敵でもひとたまりも無い蹴り技が炸裂する。


「これでも喰らえっ!」


ミコの雄叫びが闇を裂いた・・・

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