第31話 鋼のスライムといえば?

闇の中からスライムが現れた!

しかも・・・それは?!


「あっ?!魔物だわ!しかもっ、はぐれメタルよ!」


ミレニアの絶叫がリュートの声を途切らせた。


「はぐれ?メタルだって?!」


モフモフの髪から観えるのは、ぐにょぐにょの金属製物質。

魔物の中で最下層のレベルであるスライムなのだが、確かに鋼色をしてた。


「そうよリュート!アイツを倒せればミコの経験値が物凄く跳ね上がるわ!

 なにせ鋼の翔龍なんだから!

 主を持たないはぐれ者の翔龍が、魔物と化した状態でうろついているのよ!」


ミレニアが嬉々としてリュートに言った。

冒険物語ロールプレイングに良くある話だと、リュートも思った。

話を中断させた魔物の出現に、少々毒気を抜かれたリュートではあったが・・・


「よしっ!そんならアイツを倒してやるぜ!

 ミレニア直ぐにミコを戻せよ、じゃあないと翔龍ドラゴニスに成れないからな!」


「おっけぇーっ!任せたわよ!」


女神は自らが闘う事は出来ない。

闘ってしまえば女神から墜ちてしまうから。


ミレニアはミコの身体に戻り、入れ替わる・・・少女の姿へと。


「ん?あれ?!リュート、またミレニアさんに乗っ取られていたの?」


何があったのか解っていないミコが、ボケたような声でリュートに訊くと。


「今は話している暇はねぇから、さっそく戦闘に突入だ!」


目覚めた瞬間に戦闘に入れと言われて、流石のミコも眼を廻す。


「えっ?ええっ?!戦闘って、どいつとなの?」


慌てるミコに狐状態のリュートが指し示すのは、どろどろのスライム。


「うえっ?!スライムじゃんか!あんなのと闘うの?」


はっきり言って翔龍騎が闘う相手じゃないと思ったミコが嫌がったが。


「よく見ろミコ、奴は翔龍騎の端くれ・・・いいや。

 スライム状態のはぐれメタルって奴なんだそうだ!」


リュートがミレニアが言った敵の正体を明かす。


「はぐれ?メタルって・・・よくある経験値稼ぎの?」


「そのまんま・・・その名を言っちゃ駄目なんだって」


経験値稼ぎの定番が現れた・・・そのまんまの名前で。

戦闘バトルに突入するや否や、相手が逃げ出す事も良くある話で・・・


「あっ?!逃げ出したぞ!」


2人がグズグズしている間に、肝心の相手が逃げ出したのだ。


「ミコ!早く龍を召喚するんだ。逃げられちまうぞ?!」


「えっ?!あのっ、どうしてもやっつけなくっちゃいけないの?」


闘う理由を教えられていないミコが戸惑っていると、


「ええぃっ!じれったいわね!いいから戦闘に突入しなさいっ!」


我慢できなくなったミレニアがしゃしゃり出てくる。


「にゃぁっ?!ミレニアさんまで?わかったよぉっ、闘うから乗っ取らないで!」


思考が寸断されてしまうミコが眼を廻しながらも召喚術を放つ。


「リュート!取り敢えずGO!」


翔龍ドラゴニスへとチェンジさせて、リュートに追わせてみる。


「もし、手強かったら僕も成るから!

 危ないと感じたら戻って来てよ、変身するからね!」


全力で闘うのも辞さないと、ミコが命じるのだが。


「大丈夫さ、こんな奴にミコが全力で闘う必要なんてないさ!」


鋼の翔龍ドラゴニスとチェンジしたリュートがスライムを追いかけながら答えた。

スライム状の翔龍に挑みかかるリュートの方が、圧倒的に強そうなのだが。


「こら待て!意外と逃げ足が速いな」


スライムのくせにジュルジュルと逃げ回り、

ともすれば逃げられそうになるリュートがやっとの事で捉えらえると。


「こいつでも喰らえっ!」


振り上げた鍵爪をスライムに撃ち込んだ。


・・・のだが。


 ((ツルッ))


鋼のスライムがあっさりと避けたのだ。


「なっ?!なんだとぉっ?!」


リュートの攻撃を避けたはぐれメタルが、逆にリュートへ攻撃を掛けた。

グニョグニョと思われた粘液が伸びると、リュートの胸元を突き上げた。


((グシャッ))


スライムだというのに、白金の翔龍を突き飛ばすだけの威力があったようで。


「ぐはっ?!」


一撃を受けたリュートがすっ飛んでしまった。


「そっか、まがいなりにも翔龍だったんだ。

 スライム化しているにせよ、アイツは間違いなく翔龍なんだ」


リュートの闘いを傍観していたミコが手をポンと撃つ。


「くっそ!やりやがったな!」


吹き飛ばされたリュートが牙を剥いて怒るが。


「リュート!奴を倒すにはやっぱり全力で掛からないと!」


ミコの声がリュートを停める。


「リュート、トランスフォーメーションするよ!」


ミコの右手が突き出される。

下僕しもべとなっているリュートには、主人の命令を拒む事は出来ない。


「しゃーねぇなぁ、ミコに任せるか」


金色の腕輪から魔法陣が現れ出ると、リュートの鋼鉄フルメタルの身体が分解されて・・・

変身するミコの身体に備えられていく。


それぞれのパーツとなり、少女から女の子となったミコの防御装備に替わり着けられていく。

魔法陣が消えると、ミコは翔龍騎ドラゴンライダーへと変身し終わっていた。


「いくよ!相手は鋼の身体を持つ魔物。

 翔龍ドラゴニス状態には換わりがないんだから!」


右手の先に光が集い始める。


「「ミコ、一撃でケリをつける気なのかよ?」」


同化したリュートがミコの考えを悟って訊くと。


「勿論!逃げられても困るからね?

 それに・・・リュートに攻撃を掛けたんだから。許せないよ!」


先に攻撃したのはリュートの方だったのだが、敢えてリュートは不問に帰した。


「僕の下僕しもべに攻撃したんだから!」


下僕しもべかよ・・・そう突っ込んでみたかったのだが。


「「そんじゃ、ミコのお手並み拝見っといくか」」


力を求めてくるミコに託したリュートが。


「「一撃で!この一発で倒してやろうぜ!」」


右手の光から現れたモニターへ、ミコが入力するのは・・・


「戦闘、直接攻撃・・・全力全開。

  << エクセリア・モード >>白金プラチナ龍拳ドラゴンバスター!」


必殺の拳技けんぎ


翔龍騎ドラゴンライダーミコの全力技が発動される。

一撃でレッドアイをも打ち破った技で、はぐれメタルを倒すべく。


「いくよ!シュートォツ!!」


屈んだミコが足元へと力を籠め、力を足元へと解放させる。

ライダージャンプで飛び上がり、瞬時に敵へと飛び掛かった。


龍拳ドラゴンバスターっ!」


右手に現れた光の刃をスライムに撃ち付ける。

ブヨブヨの身体なのに、しっかりとした手ごたえが感じられて・・・


「ブレイクっ!」


叩きつけた拳から、魔力を放った。


 ((ドボッ))


鋼のスライムが弾ける。

拳がスライム状の翔龍に快心の一撃を叩きつけた。


 ((グシャッ))


弾け飛ぶスライム。

ダメージはスライムの身体を粉々に砕き、後には紅き魔法石が転がっているだけだった。


「「やったな!ミコ。善くやった!」」


同化しているリュートが褒め称えると。


「そんな・・・まぁね」


ニコリと微笑んだミコが龍に解除を求めると。

魔法陣がミコの身体を元に戻し、翔龍ドラゴニス状態のリュートとに別れさせた。


「これで善かったのリュート?

 僕には闘った理由が知らされていないんだけど?」


イキナリの戦闘に、ミコが訳を訊きたがったが。


「ああ、それね。

 経験値が跳ね上がるんだそうなんだけど。何か変わった事があるか?」


翔龍状態のままで、リュートが訊くのだが。


「え?!そうだったの。

 う~んっ、そうだねぇ・・・変わらないけど?」


魔力が格段に向上した様子も無かったので、ミコが首を振って何も変わらないというと。


「そうなのか?また糞女神に騙されちまったのかなぁ?」


残念がるリュートが紅い魔法石を観て。


「まぁ、それならそれで。

 ミコ、そのでっかい魔法石を喰わせてくれよ?」


転がる紅い魔法石は、レッドアイを倒した時と同じくらい大きかった。


「うん、そうだね。魔法力を使っちゃったもんね・・・」


転がる魔法石をひょいっと掴んだミコが、リュートの背にある宝玉添加口に放り込んだ。


「うおっ?!こいつは・・・すげぇぜ?!」


魔法力を補給する為の添加口から入れられた途端に、リュートが叫んだ。


「凄いって?何が凄いのさ?」


声に反応したミコが聞き咎めると。


「ああ、何だか知んねぇけど。力が倍増したような気がするんだ」


補給だけに留まらなかったという事なのか?

怪訝な顔をしたミコがリュートを見上げる。


「そう?なら・・・良かったね?」


微笑んだミコの顔を観ていたリュートが、声の変化に気が付く。

微笑むミコの顔が少しだけ女の子っぽく感じられ、声も・・・


「え・・・なにぃっ?!」


声が変わった気がしたリュートが、口元から首元を観ていて気付いた。


<まさか・・・成長したのかよ?女の子に・・・>


平板だった胸が、少しだけ盛り上がっている様に感じて。


「どうしたの?何かおかしいのかな?」


じっと観られていたから、ミコの方が戸惑いながら訊いて来た。


「あ・・・い、いや。何もねぇよ。何も・・・」


正直に成長したとも言えず、誤魔化す様に明後日の方を観たリュートに。


「ホント?!何かじっと観ていたから・・・さ」


<ううむ。確かに成長したようなのだが。

 これは一体何とした事なのか・・・後でミレニアに訊かねば>


屈託のない笑顔の幼馴染にドキリとする男子だんし


「それじゃぁさ、モフモフに戻ろうよリュート!」


答えを返さないリュートに、先手を打ってくるミコ。


「あ・・・そ、そうだな。そうしてくれ・・・」


眼を合わそうとしないリュートに小首を傾げるミコ。


「?変なリュートだなぁ、何かあったんだろ?」


ニヘラっと上目使いに訊くミコを横目で観たリュートの眼には。


<確かに・・・4年程前のミーにそっくりだ・・・な>


ついさっきまでは、10歳前後の平板娘だったと思っていたのに。

翔龍ドラゴニス状態の視線で見下ろすと、今までにないモノが観える。


<谷間だ・・・谷間がある?!

 ミコは気が付いていないのかよ?!>


少女から女の子に成長したというのか・・・

まぁ、それでも幾許かの違いでしかないのだが。

リュートは思わず凝視してしまいながらも、戸惑いを隠せず。


「はいっ、元へ戻ったね。それじゃあ、探索に掛かろうよ?」


モフモフ状態に戻されても、ぼやっと考え込んでいたが。


((ひょいっ))


ミコに掴まれて、いつものように肩に載せられた時・・・


「どわわっ?!」


やっと声をあげて驚いたのだった。

眼の先にあるモノに目を奪われて。


「間違いねぇ・・・成長したんだなぁ、身体が!」


ピンクのサラシには、薄い谷間が垣間見れた。


「?何を言ってるんだよリュート?成長したって、魔法力・・・じゃなくて?!」


気が付かれてしまったようだ・・・


「うむぅ・・・これは一体どうした訳なのか?」


凝視する幼馴染の視線の先に、自分も眼を向けると。


「へっ?!なんだよ・・・なにが?!」


二人の視線の先にあるモノは?


「〇?△□ィいいいいいいいいいっ?!」


ミコの絶叫がダンジョンに轟いた。


「そう・・・成長したんだなミコ。お兄さんは嬉しいぞぉ?!」


モフモフの狐モドキがうんうん頷く。


「あわわっ?!どうなってるのぉっ?!」


慌てるミコに、リュートがいらぬ事を言ってしまう。


「このままレベルが上がったら、いずれはミーの身体になるんじゃね?」


「△〇□??!」


肩に乗ったリュートの言葉で、錯乱したミコが。


「美呼姉になっちゃうの?!そしたらリュートは美呼姉と・・・わぁっ?!」


翔龍騎ドラゴンライダーになる事は、つまりは・・・


「うむむ・・・ミーと同化する・・・合体するんだよなぁ」


「〇?□△?!」


錯乱したミコがリュートを掴むと。


「ぜ、ぜっぇーたぁいぃーっ許さねぇーっ!

 姉さんの身体になっちゃったら変身しないから!」


((ボゴッ))


いや、あのねミコ君。

もう最初から美呼姉さんの身体だから・・・・ちっちゃいけど。


ツッコミが入ろうと入らまいと。

錯乱したミコはリュートに魔法で出したハンマーを叩き込む。



「「・・・錯乱するってーのは、怖いねぇ・・・リュート、哀れ・・・」」


ミコの身体の中で、女神ミレニアが冷や汗を掻いて呟くのだった。



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