未来より
拝啓
今は未来。タイムトラベルにもだいぶ慣れてきたところです。今回も無事に未来へのタイムトラベルが成功し、この時代の調査も済みました。いつも通り、未来の世界の様子を報告したいと思います。
正直この時代には驚きました。今回来たこの時代は医療技術の発達が進み、肉体の若返りの技術が開発され、人は老化することがなくなっているのです。人々は手術で肉体を若返らせ、いつまでも若い姿を保っています。また臓器も若返らせていて、老化を防いでいます。この世界では寿命で死ぬことが無くなっているのです。
老化を防ぐ技術は、この時代の1000年程前に発見されたそうです。当初は高額で富裕層のみが利用できていたようですが、次第に全人類が利用できるようになりました。数年に一度、老化を防ぐ手術を受けるようになっていて、この時代の人は皆20代に見えます。おじさん、おばさん、おじいさん、おばあさんがいないのです。老化しないのですから当然ですね。また10代以下の子どももほとんどいなかったのですが、理由を聞いて納得しました。
老化を防ぐ技術ができてすぐの頃、危惧されたのは人口の増加だったそうです。寿命で死ぬことがなくなったのですから、何もしなければ人口は増え続けてしまいます。対策として各国の政府は子どもを作った者には多額の罰金を課すことにしました。避妊対策にも力を入れて、人口増加を防いだとのことです。そのため、この時代には子どもがほとんどいないのです。
とはいっても病気や事故はあるため人口が減ることはあるみたいです。全ての病気を治すことはまだできていないようです。また事故も無くなっていませんでした。そして人口が減った分のみ子どもを生むことが許される制度があるそうです。
どの夫婦が子を産めるかは、国によって違うようです。抽選の国もあれば、多額のお金を払うことで子を産む権利を貰える国もあるということでした。
そんな中、一つの独特な国がありました。この国の人々は老化を防ぐ手術を受けないのです。手術を受けないのですから、この国の人々は年をとりますし、寿命によって死にます。我々の時代と同じです。
そのため、この国では子を産むことは禁じられていません。他の国では皆20代の若い容姿を保っていましたが、この国では小さな子から老人まで存在しています。
老化を防ぐ手術を受けさせてもらえないわけではありません。この国の人は自らの意思で長い命ではなく、寿命を迎えることを選んでいます。
他の国からこの国へ来ることもあれば、逆にこの国から他の国へ出ていくこともあります。生き方は自分たちで選べるのです。
なぜ老いを克服できるのに、その道を選ばなかったのか私は興味を持ちました。
そこでこの国の人に話を聞いてきました。
ある男性の話
この男性はこの国の生まれではなく、他の国で生きてきました。見た目は20代半ばといったところですが、若返りの手術を受け続けているため、年齢は500歳を超えています。彼がこの国に来たのは親の死の影響がありました。彼の両親はどちらも病気で亡くなりました。両親が亡くなったのはどちらも100年近く前のことなので、悲しみは薄れているそうです。ただ、彼はそこから死について考えるようになりました。この時代は寿命で死ぬことがないので、普段死について考えることがなかったのです。
彼はこれまで大きな不幸に見舞われることなく、幸せな人生を送ってきました。しかしながら、それが故に、これまで彼は数百年の間、なんとなく人生を過ごしてきました。この時代では寿命で死ぬことはないですが、病気で死ぬ可能性はあります。彼はもし自分が死を迎えた時に、自分は生を全うしたと思えるだろうかと考えました。
老いることなく何百年も同じような暮らしをするよりも、老いて年をとっていく方が、自分が人間という生物であることを実感して生きられるのではないかと思うようになりました。そして親から命を授かった様に、自分も子に命を紡いでいきたいと願望を持ちました。
彼はこの国への移住を考えましたが、気がかりだったのは友人との別れでした。500年生きている彼には、何百年間も共にしてきた友人がいます。何百年来の友人と離れることには抵抗がありました。この国に来ようか来まいかと長い年月をかけて考えましたが、最終的に彼はこの国に来る決断をしました。
ある女性の話
この女性はこの国で産まれ、ずっとこの国で育ってきました。この時代、他の国では子どもはほとんどいません。そのためこの国以外では、同年代の友達ができることはほとんどありません。しかし、この国では子どももたくさんいるので、彼女には同年代の友達がたくさんいます。彼女は同年代の友達と一緒に年をとってきました。そしてこれからも一緒に年をとっていくでしょう。この時代において、これはこの国以外ではできない体験です。彼女はこの国に生まれたことを幸運だと考えています。
このことから彼女に他の国に行くという考えはありませんでした。ただ、彼女の友人の中には、他の国に行った人もいるそうです。いろんなことをやりたいし、ずっと生きていたいという思いは誰にもあるものです。彼女はその友人の生き方も尊重しています。誰の生き方にも間違いはなく、皆正解だと彼女は考えています。
以上がこの国の人から聞いた話です。この国の人々は自分の意思で、生き方を選んでいます。他の国からこの国へ来るのも、この国から他の国に行くのも自由です。老化をせずに半永久的に暮らしていくこともできますし、我々の時代と同じように年をとることもできます。
もしあなたがこの時代にきたら、あなたはどちらを選びますか?
また次の時代から連絡します。
敬具
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