リストラ神さまは青春がしたい!

ユユ

プロローグ

《余聞》 しがない占い師と宛名のない手紙 その1

 これはたぶん貴方にとって、遠い遠い昔のお話。


 のちに太平洋と呼ばれる場所に、大陸と呼べるほどの大きい島がありました。


 その名も『オルラ』


 豊かな自然に恵まれ、他の国に比べて著しく文明が進んでいたこの地をご存知ですか?


ーー否、聞いたこともないでしょう。

 無理もありません。なぜならこのオルラ、俗にいうところの『失われた大陸』だからです。


 かの有名なアトランティスやムー大陸とは大きく違うのはふたつ。

 まずは、あなた方の時代にいたるまで発見の記録がひとつもないということ。


 そして今後も発見される可能性が百パーセントないということです。


「もしかしたらアトランティスのように深海に沈んでいるのかもしれないし、絶対に見つからない確証はないじゃないか」


 なんて声が聞こえてきそうですね。


 残念ながらあるんですよ。絶対に見つからない確証が。

 オルラは運命の日に完全消滅しました。


――人も。

――動物も。

――建物も。


 存在した痕跡すべてが大地とともに消え去ってしまった。ゆえに、どれだけ探しても見つからないというわけです。


 誰も知らないはずのオルラのことを、どうして私が詳しく知っているのか?


 その理由は、私自身がオルラの住人だからに他なりません。

 過去を振り返って話しているのではなく、『未来予知』という特殊な能力を使って、これから起こることについて述べているのです。


 巷では“すべてを知るもの”だなんて大層な名で呼ばれたりしていますが……。自分ではしがない占い師だと思っております。


 どうやらあなた方の時代では、占い師はあまり信用されていないのですね。残念です。


 でも信じてください。


 こうして崩壊前のオルラにいながら、はるか未来で語りつがれている『伝説の大陸』を知っていることこそ、未来が見えているという立派な証拠となるでしょう。

 だってほら、アトランティスやムーなんて、この時代の人間が知るはずありませんからね。


 ちなみに、私がオルラ消滅の事実を知ったのはついさっきです。


 そりゃもうショックでしたよ。こうして誰に向けているか分からない手紙を書いてしまうほどには動揺いたしました。


 でもだいぶ落ち着いてきましたし、重大な仕事があるので、いったん筆を置くことにします。


 そう。

 これから神様たちに、オルラが消滅することを伝えに行かなければならないのですよ。


……はあ、気が重いなぁ。


 まったく、人間である私がどうして神様に未来のことを教えなければならないのでしょうね? 

 未来予知くらい自分たちでしろよって感じです。


 でもまあ、仕方がないことなのでしょう。

 何せ我々の神様は、あなた方が知っている神と違って全能ではないのですから。







 ただいま戻りました。


 行ってきましたよ、深い森の奥に住む十一人の神様のもとへ。

 いつも通り退屈そうにしている彼らにオルラ消滅の事実を伝えたのですが。


 いやはや。まさかあのような決断をされるとは思いもしませんでした。


 ショボ……いえ、ちょっとばかり頼りない神様たちにオルラを救うことはできない。だから彼らも運命の時を静かに待つしかない、と、そこまでは予想していたことです。

 私も詫びてくる神様たちに「ですよねー」と、冷静に返すことができました。


 驚いたのは、彼らが『オルラの民が絶滅したあとにどうするか』を議論しはじめたことです。


 てっきり滅びゆくオルラと運命を共にすると思っていたのに……え、違うのですか?


 何でも神様たちは“境界線なき泉”という不思議な水源を使って、時代や場所を好きに移動できるようですよ。


 そのため我々人間のように死ぬ必要がないということでした。


 さしもの私も時空移動が可能な泉の存在など知らなかったので、「マジかよ、そんなすごいアイテム持っているとか、ウチの神様もやるじゃねぇか」と素直に感心したものです。


 で、神様の会議をおとなしく見守っていたわけですが。


 最終的に、

『オルラの民が絶滅するのを見送ったあと、それぞれが好きな場所で人間として暮らす』


 ということで話がまとまりました。


 意味不明が過ぎます。我らが神よ。

 それぞれが好きな場所に行くとか、ちょっと自由すぎじゃありません?

 というか、なぜ人間として暮らす必要があるのでしょう。

 神様の考えることは、やはり人間の私には理解できないようです。


 どっと疲れを感じながら帰宅し、寝る支度を終えたものの、どうにも寝付けなくて今机に向かって手紙の続きを書いているのが今の状況です。


 さて。夜も深まってまいりました。

 いいかげん眠らなくてはなりませんね。

 あと何日残されているか分からない人生、寝ぼけて過ごすなどもったいないですから。

 気が向いたらまた筆をとります。


 それではおやすみなさい。どうかよい夢を――。

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