暗殺者のゲーム

弐刀堕楽

ミッション ブリーフィング

 俺は一軒の平屋の前に立っている。

 やらなければならないことは分かっていた。


 今回のターゲットは、この建物内にひそんでいる金髪の豚野郎だ。こいつは最近、俺たちの組織を裏切った。

 ブツの仕入れを値切り、それを通常よりも高い価格で売りさばいている。ボスの許可なしで、だ。余分な利益は当然ちょろまかして私腹を肥やす――とまあ、ここまではよくいる裏切り者の一人でしかなかったのだが……。

 ところが、ヤツの顧客の大半が貧乏人のジャンキーだったもんで、それが事態をややこしくしてしまった。


 想像してほしい。文無もんなしのヤク中から無理に金を巻き上げたら、いったい何が起こるのかを――答えは明白だった。恐喝、空き巣、強盗、殺人……。ジャンキーどもは手段を問わずに金をかき集めてまわった。

 その結果、街の治安はいちじるしく悪化した。警察や政治家どもはカンカンになって怒った。まとわりつくハイエナを黙らせるのに余計な金がかかってしょうがない、とボスがなげいている始末だ。


 そこでまんして――俺様の登場ってわけだ。


 俺の仕事は何を隠そう、組織の暗殺者だ。ボスは俺に命令を下した。「あの薄汚い豚野郎をいますぐ料理してやれ」――俺はその言葉を聞くと同時に、そく、愛車をかっ飛ばしてヤツの邸宅ていたくへと向かった。


 そして今、俺は一軒の平屋の前に立っている。

 やらなければならないことは分かっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る