短編小説『女子高生は旅に出る』

川住河住

第1話

 クリスマスのちょっと前。両親が離婚した。

 私にとって今回のことは特に驚くことでもなかった。

 家の中での二人の様子を見ていたら、別れるのは時間の問題だと思っていたから。

 それに二人の仲の悪さは近所でも評判だった。近所の主婦たちの最近の話題の中心はうちの両親のことだった。学校帰り、彼女たちが話をしている横を通り過ぎようとする時、途端に声を潜める者は少なくない。


 私はアルコール中毒の父親よりも少しだけ経済力のある母親に引き取られた。

 ばいばい、アル中親父。

 私と母は住み慣れた家を出た。風が強く雪が降りしきる街を行くあてもなく歩き続ける。コートがなければ凍死してもおかしくない

 母に手を引かれて歩いていた私は、数分前の彼女の姿を思い出していた。父親に離婚届に判を押すよう命じていたときの母は、いつもと別人のようだった。それはまるで仁侠映画にんきょうえいがに出てくる女性のように荒々しく美しいと感じた。けれど今では、どこか抜けているいつもの母に戻っていた。きっと私を守るために気丈に振る舞っていたのだ。

 私たちは小さなボロアパートに移り住んだ。狭い部屋に二人で過ごすことは辛くなかった。酒に酔っ払って殴ってくるアル中親父はいないのだから。大好きな母と一緒にいられる。それだけでうれしかった。

 二人で買い物に行き、狭いキッチンで一緒にうどんを作って食べた。売れないお笑い芸人のようにもやしばかりを食べることもあった。

 そして母は私を高校へ行かせるため、いくつものパートを掛け持ちして一生懸命働いてくれた。


 そして運良くまじめな会社員の男性と出会い再婚した。

 母のウェディングドレスはよく似合っていた。

 リビングに飾ってある結婚式の写真がそれを物語っている。

 そんな幸運の星の下に生まれた母親の娘であるはずの私は全然ダメ。

 どうやら私は、不幸の星の下に生まれた父親に似ているらしい。

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