中編 勇者は深夜に王女クレアを招き入れる

斧の勇者が元の世界へ戻って更に半年の時が経過していた。

町で作られた剣と槍の勇者のハーレムの娘達は全員妊娠し、初期に孕んだ者は子を誕生させていた。

それでも勇者を父親として束縛を行なおうとする者は居らず城からの手厚い保障でハーレムの女達は二人目の子供を授かろうと考えている者も居た。

そんなある日、週に1回の休息日の前日の夜の事であった。


「お疲れさん、来週は北の大陸の魔物退治に出る予定だから明日しっかり装備を整えておけよ」

「ははっまぁ俺達が揃っていれば問題は無いと思うけどな、んじゃおやすみ」


槍の勇者と剣の勇者。

遠距離から槍で攻撃を行い、近付いた魔物を剣の勇者が倒すという連係プレイで快進撃を続けていた二人はこの半年で幾つかの大陸を制圧していた。

町を出て様々な土地へ出向く為に休息日にしか帰って来れなくなっており、若々しい二人は一週間溜まった性欲を明日はハーレムの面々で発散する為に早めに就寝する事にしていた。

部屋に戻った剣の勇者は体を清めて布団に入ろうとした時であった。


トントントン・・・


「剣の勇者様、クレアでございます。まで起きてらっしゃいますか?」

「クレア王女?!い、今開けます!」


寝る為に下着姿になっていた剣の勇者は慌てて服を着て部屋の入り口を開ける。

そこには薄いネグリジェに身を包んだクレア王女が立っていた。

その美しい姿は普段の王族の衣装とは打って変わり普段見れない色っぽさが滲み出ていた。

この世界に来て1年が経過しようとしているがクレア王女の美しさは初めて会ったあの日から全く変わっていなかったのだ。


「どうしたんですかこんな夜更けに?」

「すみません、実はお話したい事があるのですが・・・中に入っても?」

「ど、どうぞどうぞ」


本来であれば王女を夜に自室に招き入れる、それが意味する事をまず考える剣の勇者であるがクレアの魅力に魅了されていた。

招き入れたのはいいが部屋にはベットと簡単な机と椅子が在るだけで、どうしたものかと考えた剣の勇者の胸板にクレアはその身を預けてきた。


「ど、どうしたんです・・・か?」

「実は、私は勇者様にお伝えしなければならない事があるのです・・・」


クレアの手が剣の勇者の肌着の下へ潜り込む。

ゾクリと彼女が要求しているのを悟って剣の勇者は体を後ろに下げる。


「あっ・・・」


クレアが寂しそうな表情で身を引いた剣の勇者を見詰める。

その目が純粋に剣の勇者を求めているのを物語っているが、剣の勇者はゴクリと生唾を飲み込んで真剣な顔で尋ねる。


「一体どういうつもりですか?」

「そうですね、まずはこの世界に1人の勇者様をお呼びした理由からお話しなければなりませんね・・・」


王女クレアから話された内容に剣の勇者は耳を疑った。

だがそれが本当なのだとしたら自分こそがその勇者なのだと信じ込み、剣の勇者はクレアの手を取ってベットにその身を委ねる。

自らの体を求める女性は合意があれば好きにしても構わない、そう告げられていたのは町娘に限った話では無いのだ。

剣の勇者は自分こそが求められた勇者なのだと示す為にクレアに覆いかぶさるのであった。






町の出店で食べ慣れた串に刺さった肉を朝食代わりに口にする槍の勇者は強い日差しに目を細めながら剣の勇者を待っていた。


「寝坊したのか?まぁ昨日まで安心して寝ていられる時間あまり無かったからな」


昨日遂に南の大陸で魔物の幹部と思われる者を倒したのを思い出しながら肉を噛み締める。

人の住んでいない離れた大陸で戦いに明け暮れて食事といえば魔物の肉か野生の果物しか無いのは当然、こうしてしっかりと人間の舌に合った味付けがされている肉の美味しさを満喫していた槍の勇者。


「ん?」


その目を見開いて気付いたのはこっちへ向かってゆっくりと歩く剣の勇者の姿であった。

昨日までの生き生きした顔付きではなく何かに消沈したような表情を浮かべる彼に槍の勇者は困惑した。

普段からポジティブが服を着て歩いている様な剣の勇者なだけにその異様さが浮き上がっていたのだ。

そして、思い出されるのは半年前の斧の勇者が帰った日の事であった。


「よっよぅ、遅かったな」

「あぁ・・・悪い、寝坊してしまった」

「まぁ気にするな、今日は休息日だからな。喰うか?」

「いや、ちょっと食欲が無くてな・・・」


この世界に来て勇者として世界の加護を得ている勇者は病気や呪いを一切受け付けない体になっていた。

毒であっても自然治癒で回復するチートな肉体なので食欲が無いとするならば精神的な物であろうと槍の勇者は気付いた。


「なぁ、もしかしてお前・・・」

「すまない、けど安心してくれ。お前を置いて先に帰るつもりはないからな」


そう言って無理にでも笑顔を見せようとする剣の勇者であるがその表情は優れていなかった。

槍の勇者も本人がそれ以上言いたくないのであれば無理に聞き出そうとは考えず、予定通り物資の買出しをメインに行なった。

剣の勇者が消沈していた事もあり槍の勇者も今日は女性を抱くのは控え土産と少しばかりの金銭を手渡しただけで城へと帰還していた。

だが槍の勇者は思春期真っ只中、若い性欲を何処かで発散しようと考えて城のメイドを誘おうとしていた時であった。


「なぁ、お前がそうなのか?」

「へっ?いや何言ってるんだ?」

「あとはお前しかいないみたいだからな」


剣の勇者が口にする言葉が全く理解できない槍の勇者はモヤモヤしたまま城のメイドに声を掛ける。

昨日までであれば剣の勇者も同じ様に行動をしていたであろうが今日はそれを静観するだけに留まっていた。

槍の勇者も剣の勇者のそんな姿に萎えて途中から口説くのを止めて明日からの打ち合わせを行なう事にしていた。

そして、その夜槍の勇者の部屋にクレア王女がネグリジェ姿で訪れるのであった。


「クレア王女様?どうしたんですか?!」

「槍の勇者様、大事なお話があります。どうか・・・魔王を倒してください!」

「魔王を・・・倒す?」


焦った様子であるクレア王女の言葉に首を傾げながら槍の勇者は考える。

この世界の魔王は30年前に鉄壁の戦乙女によって倒されたと聞いていたのだ。

クレア王女の言葉に疑問を抱きながら真剣な顔に心を許し自室にクレア王女を招きいれるのであった・・・

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