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星だけ瞬く或る夜、こんなことを考えてしまった。
「烏は夜も生きているのだろうか」と。
朝ぼらけには歩道のゴミ袋を漁り、昼時になると電線の上でやかましくがなり立てる彼らは、夜を迎えると共に忽然と姿を消してしまう。何故だ? 夜の帳を保護色に、悠々と羽を広げて飛び回る烏はいても可笑しくないはずだが、そんな話は生きてきた上ではほんの一回も聞いたことがない。
彼らは夜になると消えてしまうのか? 若しくは私の影法師のように、姿は暗闇に溶け込んではいるが、確かに「そこにいる」のだろうか......?
私は部屋の遮光カーテンを引き開け、窓に目を遣った。ガラスの向こうの景色は、どの星座とも知らない星々が点々と瞬き、後は何者も映さぬ漆黒のみが延々と、地平の向こうまで広がっていた。全てが深い眠りについているような静けさだった。
私は窓ガラスを引き、前のめりになる形で上半身を窓から乗り出した。じっっと瞳孔を光らせる。闇夜に紛れて飛び回る烏を探すのだ。獲物に銃口を向ける狩人のような鋭さで、闇の一点一点を次々に注視する。不審な烏の影形を見つけようものなら、すぐさまひっ捕らえんばかりだった。時々、星にも目を向けた。もしも烏が私の視線の先を通ったのなら、星の明滅のリズムが不自然に途切れるはずだから、である。そして、その途切れは夜烏の発見の大きな手掛かりとなるのだ。
外は肌寒かった。夜という空模様のせいでもあったが、幾分、風が私の体を苦しめていた。何者も目覚めぬこの闇の中でただ一つ、悪戯な夜風だけが、その見えない身体を纏わりつかせ、私の体を必要以上に凍えさせていた。
もうどの位経ったのだろう。十分、二十分、三十分、一時間と過ぎても、烏の影は見当たらない。気が遠くなりそうだった。夜は時間に比例して闇の深さを増し、夜風は依然冷たく、烏はより見つけにくくなっていった。
結局、悠々自適に羽を伸ばしている烏どころか、子烏の一匹すら見つけられなかった。
私は諦めて窓を閉めカーテンを引き、夜の寒さに打ち震えながら布団に潜り込んだ。そして、次のような結論で締めくくり、早々と眠ることにしたのだった。
「成程、烏という生物はやはり賢いようだ。それと同時に、私の推論は外れたことになる。つまり、烏という生物は昼行性であり、昼に餌を求め、運動をし、夜が近づけばいつの間にか寝床へ帰って熟睡するという、健康的な人間となんら変わらない生活体系を営んでいるのだ。夜遊びをするような烏はバカカラスという共通認知の下で彼らは暮らしているのだ。実に聡い生物じゃないか。うむ」
~ ~ ~ ~ ~
地平線から朝日が昇り始める。それと同時に、どこからともなくやってきた烏が
がなり声を響かせ、太陽の方角へと飛んでいった。
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