首輪つきのレディ
紅葡萄
プロローグ
私の大切なものを述べましょう。
臙脂色の傘。骨の数が多くて気に入っている。勿体なくて雨天時には差せないから、専ら日傘になっていた。
大量の書物。狭い書斎の中、ツンと鼻につく紙の香り。何故か時々お腹が痛くなる。
真っ赤な紅茶。透明な茶器と、葉が舞うジャンピング。砂時計をひっくり返して、今か今かと色づくのを待つ時間。
蓄音機。針だけしょっちゅう新しいものに交換しているけれど、いい加減音の鳴りが悪い。年代物なのは見て取れるけれど、購入した本人すら何年前の代物か知らないらしい。
金糸雀。交配、繁殖をして、今はなんと五代目。私が最初に触れたのは三代目だった。四代目はちょっと寿命が短かったみたい。毎日素敵な歌声を聞かせてくれる。
小さな借家。平屋の一軒家。周りに同じ形の建物がずらり。部屋数は三つ。リビングダイニング、寝室、書斎。
私を呼ぶ声。レディ、レディ、としゃがれ声。まあでも、最後に聞いたのは、結構前だったような気がする。
今宵、別れを告げる。すべての大切なものたちへ。
さようなら、――ああ、さようなら。
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