第19話、異世界特攻隊。

『いやっふぅ──!』


『サイコーだぜえ!』


『イクイクイクイク逝くぅ──っっっ!』


『ナニ、この、絶頂感⁉』


『フリーフォールやバンジージャンプなんて、目じゃないぜ!』


『何せ、ホンマモンの、臨死体験だからな!』


『何遍やっても、やめられないぜえ!』


『うちらの残機はもう、無限よ♡』


『バンザーイ!』


『大日本帝国、バンザーイ!』


『能なし帝国海軍、バンザーイ!』


童貞チェリーブロッサム、サイコー!』


『おいおい、桜花チェリーブロッサムだ、桜花チェリーブロッサム!』


『そもそも、「チェリーブロッサム」なんて、敵性語だろうが?』


『いやでも、米軍では、BAKAバカ爆弾ボムって呼んでるらしいぜ?』


『バカって、言い得て妙だなw』


『──よし、敵輪形陣外郭部の、駆逐艦及び巡洋艦の、対空砲火範囲を突破!』


『一番乗りだぜ!』


『くっ、負けねえぞ⁉』




『『『うおりゃあああああああああああああ!!!』』』




 ──そして、帝国海軍の新兵器であるところの、ロケット推進型特攻機『桜花』が多数群れなして、米軍機動部隊の艦船団目掛けて突っ込んでいったところで、映像が途切れた。




「……ほう、よくぞそのフィルムを、手に入れることができましたね?」


 決定的な『証拠』を突き付けられたというのに、少しも悪びれることもなく、いつもながらの泰然とした態度を崩すことのない、聖レーン転生教団の純白の法衣をまとった女性司祭シスター


 年の頃は十五、六歳ほどか、緩やかなウエーブのかかったセミロングのブロンドヘアに縁取られた端整な小顔は、いまだ幼い愛らしさを感じさせるものの、ほっそりと均整の取れた肢体の白磁の肌は、すでに女らしいつやめかしさを見せつけていた。


 そして、いかにも純真無垢なる煌めきを放っている、サファイアのごとき青の瞳。


 驚くことに、こんな可憐なシスターが、実は教団でも指折りの『召喚師』で、これまで勇者や大賢者等を含む、数えきれないほどの転生者を召喚していたのだ。


 ……何せその腕前のほどは、私自身、文字通り『嫌と言うほど』目にしているからな。


「──密告タレコミがあったのですよ、聖レーン転生教団が、第二次世界大戦末期の大日本帝国において、『転生法』に違反している行為をしているってね」

「まあ、密告ですか? わざわざ教団秘蔵の映像を違法に入手してまで、騒ぎ立てる輩がいるなんて、転生局転生法整備課の皆様も、ご苦労なされていますねえ」

 ──っ。

 そんなこと、だと?

「……いやに余裕がありますね? これほど明確なる、『転生法』違反をなされているというのに」

「へえ、『転生法』違反って、具体的には、どの条文でしょう」

「あくまでも白を切られるおつもりですか? いいでしょう、第105条です。条文の具体的な内容としては、『どのような組織あるいは個人であろうとも、現代日本からの異世界転生システムを利用して、異世界人の個人的自殺や組織的自爆テロ、更には戦争等において国家規模で行われる、旧日本軍が太平洋戦争当時実施した、『神風特攻』に類する航空機や潜水艦等による『特別攻撃』の類いを実行することは、異世界の人心や社会システムに多大なる悪影響を及ぼすものとして、全面的に禁止する』となっております」

「我々教団が行った、今回の『実験』が、それに当たると?」

「そりゃあそうでしょう! まさに条文に例示されていた、太平洋戦争末期の日本に、悪質極まる現代日本のゲーマーたちを転生させて、特攻隊員たちの身と心を乗っ取り、本人の意思にかかわらず、帝国海軍新開発のロケット推進型特攻機『桜花』に搭乗させて、米海軍機動部隊に対して特攻──事実上の自爆テロをやらせるなんて! 一体この『実験』のために、どれだけ罪のない当時の日本の若者が、海の藻屑となったと思っているのです⁉」


 相手のどこまでものらりくらりとした態度に堪忍袋の緒が切れて、激情に駆られるままに怒鳴りつけてはみたものの、

 ──結局、『狂信者』の少女にとっては、『蛙の面に小便』でしかなった。




「知りませんよ、そんなこと。『神風特攻隊』を立案したのも、死なせるべき『特攻隊員』を選別したのも、あくまでも帝国海軍上層部ではありませんか? 彼らは最初から身内同士で、殺し殺されているだけで、その命のやりとりについては、我々教団は一切関与しておりません。──あえて言うのなら、特攻機を適正に『死地』に赴かせるための、転生者という『自動操縦装置』を都合してあげただけです」




 ──‼

 な、何て、無責任な⁉

 ……しかし、言っていることは、確かに間違ってはいない。

 条文では、『特攻や自爆テロの絶対禁止』を謳っているだけで、彼女の言うように『自爆テロまがいの特攻』を行っているのは、帝国海軍自身なのであり、別に教団のほうは、それを主導したり裏から仕組んでいるわけでも無いのだ。

「我々教団は、今回の実験の成果に基づいて、各異世界において、今回と同じような『特攻活動』を行っていく方針ですが、何も我々がゼロから特攻なぞという、馬鹿げた自殺行為を促進するつもりはありません。あくまでも最初から特攻をする意思のある国家等の組織において、最初から特攻隊員として死ぬことが決まっていた方に対して、現代日本からゲーマー等を転生させて、特攻の円滑なる実施を助勢アシストしていくだけの話です」

「……あんたら教団は、異世界において、戦争や特攻なんかをはびこらせたいのか?」

「まさか、そんな。我々は『武器商人』ではないんですから。武器商人が儲かるためには、戦争自体がないと困るので、場合によっては自ら各勢力に働きかけて、戦争を起こすこともあるでしょう。──しかし、我々教団は違います。何度も申しておりますように、我々聖レーン転生教団の大義は、現代日本からの異世界転生そのものの促進であり、そのためにも、異世界自体を現代日本人の方にとって、より魅力あるものへとつくり上げていくことこそが必要なのであり、そしてその最も理想的な姿の一つとして、『異世界そのものゲーム化』を挙げることができます」

「はあ? 異世界の、ゲーム化だと⁉」

「転生者のお手本やバイブルとなっている、現代日本におけるWeb小説のほとんどが、ゲーム脳の作家によって作成されていて、当然作品内の異世界もゲームそのものの世界観で描かれているために、大多数の転生者が、実際の異世界が『ゲーム的』であることを求めております。今回の『異世界転生というシステム』を利用した、『特攻』もその一つで、転生者としては、異世界においてWeb小説そのままに、自分自身は何度も『死に戻り』をしながら、異世界人を『ゲームのコマ』そのままに使い潰していけるのですから、Web小説の主人公とゲームのプレイヤーを同時に体験できるので、この上ない満足感を得ることができるわけなのですよ」

「そ、そんなくだらない、Web小説やゲームの悪影響を受けた、狂った転生者どものために、異世界人たちの命が無駄に消費されていくなんて、ふざけるんじゃない! そんなことこそ『転生法』で、断固として禁じていかねばならないだろうが⁉」

「だからいくら転生局と言っても、そのような『転生法』の過大解釈は、越権行為だと申しておるではないですか?」

「何が越権だ? 異世界の各勢力の上層部はともかく、実際に『特攻隊員』や『ゲームのコマ』として使い潰されている異世界人たち自身は、別に死にたくて死んでいるわけじゃないだろうが⁉」

 そのように私が、ある意味大日本帝国海軍の最大の犠牲者である、実際の神風特攻隊員たちの無念の気持ちを心から代弁したところ、それでも目の前の年端もいかない女性司祭シスターは、冷然たる態度を揺るがすことなく、あっさりと宣った。


「いいえ、死地へと赴いたのはあくまでも、特攻隊員や異世界人たち自身の意思によるものです。そうでなければ、自ら死ぬことなぞ、選んだりから」


「な、何だと?」




「実はですねえ、異世界転生なんて、あくまでも『催眠術』みたいなものに過ぎず、実際に現代日本からゲーマー等の魂が転移してきて、異世界人の身体を乗っ取って、好き放題しているわけではなく、異世界人本人が私のような召喚師によって催眠状態にされたり、あるいは自分自身の思い込みの強さにより、『自分は現代日本からの転生者なんだ』という妄想状態になっているだけなのです。よって、催眠術等と同様に、自分の生命に関わるような事態に際しては、本人に『別に死んでも構わない』という意思が無い場合は、妄想状態から覚醒するはずなのであり、そうでないのならば、自ら『現代日本からの転生者』として死んでしまうことすら、容認していると見なせるのですよ」

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