四番目の解・急

5-2-1 四番目の解・急



 四番目の解・急



「えーでは、皆々様、まずは右手を御覧ください」


 俺が壇上からそう呼びかけると、拡張領域内に集結した約一万人もの軍勢が一斉に右を向く。


「こちらに御座おわしますのは現代魔術聯盟の方々です。本来であれば魔術師だけでも良かったところを、銃で武装した非能力者の兵まで連れてきてくださいました。その数なんと千! 急ごしらえにしては中々の頭数です。皆、拍手ー」


 一人一人の拍手は散発的だったが、それが一万人も揃うと凄まじい大音量と化す。俺の鼓膜が破れなてしまわないうちに、程々の所で拍手を収めた。


「はい。それでは続きまして左手を御覧ください。我ら蕃神信仰の仇敵――近衛の方々です。けれども、今回ばかりは味方ですので……まあ、仲良しこよしとまで馴れ合う必要はありませんが、要らぬ揉め事は起こさぬように。起こしたら殺します。分かりましたか? ……仲良く、万事ばんじ仲良く。はい、拍手」


 中々の音量だが、さっきよりは勢いの衰えた拍手。やはり、なんの気兼ねもなく、狂ったように万雷の拍手を、とはいかないか。対立構造はよほど彼等の心深くに根ざしているようだ。

 ……ま、大丈夫だろう。

 旧・蕃神信仰の信者と、近衛の持ち場は離れさせるつもりだし、拡張領域内での共同生活に於いて発生するであろう小さな諍い程度ならば簡単に収集がつく。双方共に反感がエスカレートしないようにだけは気を使わなければならないが。

 俺は、再び拍手を収めて口を開く。


「彼等、近衛にいて、一つだけ言っておくことがあります。我々蕃神信仰の技術によって、近衛の方々も《異能》を身に着けられますし、現代魔術聯盟の協力で[魔術]を身に着けられる訳ですが、基本的に近衛は【骸】だけを用いて戦います。ですが、これはけしてという事をあらかじめ断っておきたいのです。生兵法は大怪我のもと。使い慣れた【武器】で工夫をこらす方が、却って活躍が見込めるとの判断です。――OK?」


 一応聞くと、信者共はまあまあな勢いで首を縦に振った。リアクションがあるとやりやすいから良いんだけど、そうしてると赤べこみたいね、君ら。


「そして、中心に居るのが蕃神信仰の信者、と。まあ、拍手は要らないでしょう。――さて、ではここで、我々『砕天大同盟さいてんだいどうめい』のこれからに就いて話しましょう」


 砕天大同盟さいてんだいどうめいとは、その名が示す通りに『天』――天海祈&空を覆う別地球――を殺害どうにかするという目的のもとに結成された、新・蕃神信仰、現代魔術聯盟、近衛の三勢力による大同盟である。

 俺は、学がない奴ばかりの信者たちにも分かりやすく、背後に用意した大スクリーンにアフリカ大陸の地図を投影しながら、今後の方針を述べてゆく。


 現在のアフリカ大陸の勢力図。

(https://img1.mitemin.net/c9/9j/h43mctkh1zk5xvw7p1xitycbazl_756_3pc_3p7_kvsv.png)


「現在、蕃神信仰の勢力圏は縮小傾向にあります。しかし、これは計画通り。んで、最終的には――ここ!」


 俺は、北西アフリカ――特にモーリタニア、マリといったスーダン地域――を示した。


「ここで決着を付けます。現在、MCG機関では『籠の鳥作戦』なるものが動き出しています。新興勢力の現代魔術聯盟へ集中すべく、目先の弱った蕃神信仰を手っ取り早く潰してしまおうという訳です。勿論、この作戦を起案したのは俺たちの手の者。これによりMCG機関の動きを操作し、天海祈の本体を戦場へ引きずり出す! 作戦名を――『不朽の自由作戦』(Operation Enduring Freedom:OEF)!」


 本体さえ捉えられれば、その時点で勝利のようなものだ。なんたって、こっちには『秘密兵器』がある。きっと、天海祈だってイチコロだ。

 けど、もし『秘密兵器』を使っても、死力を尽くしても、天海祈が死んでくれなかったら……ま、その時はその時!

 俺は大手を振って宣言した。


「今作戦の完遂を以て、我々の悲願たる『四番目の解』は最終段階へと移行する……! 皆、存分に舞い狂え!」


 歓声は、旧・蕃神信仰の信者からしか上がらなかった。

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