3-3-6 ファーストコンタクト その3



 霊的な白濁色の獅子ライオンに跨り、廊下を駆け抜ける。

 すると、その先で得体の知れぬ霧が噴出し始めた。それが、唯の【霧】でない事は一目瞭然であるが、今更止まれるものでもない。[Filthフィルス・wræcca]は、先頭を行く獅子ライオンの指揮者、[しらかげ・wilde]に向かって声を張り上げた。


『怯むな! このまま突っ込む!』

『分かっています!』


 Filthフィルスの声に呼応して、しらかげは己の責務を果たさんと叫ぶ。


たけ式神しきがみよ、来たれ!」


 荒れ狂う風と共に、霊的な白濁色の獅子ライオンが新たに三頭、しらかげの周囲の空間から滲み出た。彼の恩寵――[獅子ライオン]。


組分グループC! 参ノ型!」


 追加詠唱に従い、新たな[獅子ライオン]三頭は直線的な動きで【霧】の中に突っ込んでゆく。そして、三頭の姿がすっぽりと覆われた所で、「爆!」――更なる詠唱――これによって三頭の[獅子ライオン]は爆発四散した。例によって、道中で拾い上げていた瓦礫やら人体部品パーツを撒き散らしながら。

 爆発は、全ての【霧】を払い除けるまでには至らなかったが、[獅子ライオン]なき後には「活路」と称して差し支えない空白が切り拓かれていた。


『よくやった!』


 手放しのねぎらいを掛けつ掛けられつつ、彼等は真正面から突っ込んだ。

 四藏匡人――!

 女二人とリガヤ・ババイランに守られるようにして此方を睨み付けてくる四藏めがけ、しらかげは新たに[獅子ライオン]を現出せんとした。


たけ式神しきがみよ――!」

『絶対の不可侵を此処に――!』

『醜き獣、鑓先やりさき平伏ひれふし――!』


 それと同時に、Filthフィルス몽염夢魘もそれぞれの役割に沿った魔術を恣行しこうしようとした。だが、そのどれもが志半ばで途絶させられる。

 その異変に、最初に気付いたのはFilthフィルスだった。

 奴は――何処に行った? 몽염夢魘の齎した情報によると、能力者ジェネレイター三人、纏骸者二人。リガヤの隣に居て然るべき纏骸者――イサの姿が忽然と消えていた。


『――後ろかッ!』


 ふと、背後に感じた気配へと振り返るFilthフィルス。しかし、気付いた時にはもう遅い。既に、彼が干渉してどうこうできる段階は過ぎ去っていた。

 ――ガンッ!

 隊列最後尾を務むる몽염夢魘の後頭部に強い衝撃が走り抜ける。抵抗する間もなく、彼女の意識は遥か遠くへと旅立った。

 遅れて、しらかげもそれに気付く。


「峰打ちダ」

『くっ、몽염夢魘……!』

『遅かったか……!』


 脱落した몽염夢魘の側に立つイサは、側面から回り込んできていた【霧】を背負っている。これで退路は断たれた。もう、前へ進むしかない。

 未練を振り切り、しらかげは喉を引き裂かんばかりに声を吐き散らす。


たけ式神しきがみよ、来たれ! 組分グループC! ――伍ノ型!」


 再び喚び出された[獅子ライオン]三頭が、今度は弧を描くように跳躍ジャンプした。天井すれすれ、不意を突かれたリガヤに見送られながら四藏ら三人の前に着地する。

 否応なく警戒して身構え、[獅子ライオン]三頭の出方を窺う四藏ら三人だが、その後手に回った対応を嘲笑うかの如く[獅子ライオン]三頭はピタリと停止した。

 前に一頭、後ろに二頭の三角系の陣形。

 相前後して、Filthフィルスもまた魔術を恣行しこうする。


『絶対の不可侵を此処に誓わん!』


 第五階梯だいごかいてい [隔膜WEALL]――物理的な壁を作り出す[牆壁しょうへき]とは異なり、概念的な[隔膜かくまく]を作り出す魔術。指定した第三次元宇宙空間の座標を恒常的に第二次元宇宙のものに書き換え続ける事で、ありとあらゆる干渉を防ぐ(第二次元宇宙に押し付ける)。その性質上、燃費は悪いが、[牆壁しょうへき]のように防いだ攻撃によって魔力素マナを削られ、意図せずなくなってしまうという心配がない。

 しかし、予めその位置――相対座標――を指定しておくには、戦場いくさばというものは余りに流動的。それ故、[隔膜かくまく]の起点には、流動しようが対応できるだけの柔軟性に富んだものを用意した。


組分グループC!』


 しらかげの恩寵――[獅子ライオン]だ。

 Filthフィルスが残った中級魔力素マナ結晶を握り潰すと、陣後方で肩を並べていた二頭の[獅子ライオン]が溶け始める。

 そして、しらかげもまた動く。このままでは生成された[隔膜かくまく]に遮られ、その前にリガヤに阻まれる。

 こういった状況を想定して、仕掛けは打ってある。Filthフィルスが指定したのは組分グループCの後ろ二頭。という事はまだ一頭、前方で佇む[獅子ライオン]が残っている。


「転!」


 端的な追加詠唱が術式の記述によりて奇跡を喚起する。

 廊下を塞ぐように、黒洞々こくとうとうたる[隔膜かくまく]が生成されると同時、しらかげは己と[獅子ライオン]の位置情報を置換し、四藏ら三人の前に忽然と立っていた。


『さて……』

「これで、分断には成功した訳だ」


 しらかげの青褪めた瞳は、四藏ら三人の視線を真っ向から受け止め、また見つめ返していた。その中には当然、艶島九蟠の傾国の紫眼が混じっている。だが、しらかげの内に一切の情欲なし。

 自分でも驚くほどに冷静な心情で、しらかげはこう切り出した。


「建設的な話をしよう。君たちと僕たちが歩むべき輝かしい未来の話を」



    *



「話だと……?」

「そうさ」


 彼我の距離、概算四メートル。このままでは俺の能力は届かないか。出来れば前に出ることなく決着を付けたいが……そうもいかない。


「匡人様、やっぱり私の能力が効いていません」


 見れば分かる。役立たずめ。そう言いたいのをグッと堪えて、戦闘能力のない艶島を俺の後ろに下がらせた。どういう訳だか、あいつ等には艶島の能力が効いていないらしい。


「なにか変な感覚です。私の干渉力が遮られているような……!」

「そう! 事実、遮っているんだよ。『自己催眠』によって。精神に干渉されると危ないからね」


 目の前に仁王立つ敵は、パチンと右手の指を鳴らした。

 神意恣行しんいしこう――そう悟った瞬間、俺たちの背後に謎の[黒い何か]が現れた。それは、視界だけでなく音までも遮る性質を持つようで、まるでその向こうで灰崎さんたちが行っているであろう戦闘を隠すような意図があるように俺には思えた。


「まずは自己紹介から始めようか。僕は現代魔術聯盟に所属する[しらかげ・wilde]だ。今日は――」


 敵の主導する流れに乗ってやる必要性はない。

 殺してやる。そう決意してしらかげと名乗った男へ向けて踏み出すも、案の定というべきか、俺の能力に対しても既に備えは万全の様子。焦った素振りすら引き出せず、奴の左手の指が「パチン」と鳴らされると、俺の背後のものと同じ[黒い何か]が新たに目の前にも出現した。今度のそれは音を通すらしく、その向こうからしらかげの余裕ぶった声音が響いてきた。


「これで君は何も出来ないよね。他の二人も精神干渉の能力だから、これで完全に無力化した訳だ。だから……さ。良いじゃないか、少し話すぐらいは。他に出来ることもないだろう?」


 こいつ知ってやがるな、俺たちの能力を。座標を知らなければ目視が必要という弱点を……全部、知ってやがる。こうなっては《読心》も《洗脳》も《掴み》も無用の長物だ。

 十二林と艶島が不安そうに俺を見てくる。言いたいことは分かる。「どうすればいいですか」ってか? そんなもん、俺が知りたいぜ。

 しかし、リーダーってのはどんな時も不安な素振りを見せてはいけないものだ。特に有事の際、そういう態度は容易く下へ伝播する。俺は、まかせておけ、という風に無策のまま頷いてみせた。

 そんな俺達の様子を見てか、顔も見えなくなった敵が再び話しかけてくる。


「さて、続きを話させてもらう。今日は例の件の返事を聞きにきた」

「例の件ですって……? 一体、何の事を言って……」


 クローン二人はピンときていない様子だが、俺には分かる。こいつはあのクソガキが言っていた『使いの者』で、『勧誘』の返事を聞きに来たという事なのだろう。

 くそっ、予想していた以上に早い接触じゃないか……!

 話は見えた。が、理解に苦しむ状況に変わりはない。まさか、態々そんな事の為にこの人工島を襲撃をしたというのか? 返事を聞くぐらい、他に幾らでもやりようはあるだろう。……何か、別の目的があるのか?

 すると、そんな俺の思考ごしに奴は笑った。


「別に僕は長考されても困りゃしないけどね。後ろで戦っているお仲間の方はどうかな?」

「何だと……?」

「早くしないと死んじゃうかもね」


 背後で戦っているだろう灰崎さんと螺湾さんを思う。さっき見えた範囲では、けして旗色が良いようには見えなかった。長引けば、死ぬかもしれない。


「……二人を、人質に取るというのか」


 そこまでして俺が欲しいのか? こんな取るに足らない人間のどこに執着する理由がある。


「まァ~、そう取ってもらって構わないよ。僕らは返事を聞いたらすぐに帰るさ、これは約束する」


 約束だと……? そんなモン信用できるかよ、一人だけのうのうと安全圏に居るような奴の軽々しい言葉を……! 仮に敵対関係じゃなくとも信用できないね。

 ――しかし、そんな事を言っていても始まらないのも事実だ。クローンの二人が付いて行けない話なのだから、俺が一人でなんとかしなくては……。「返事とは何か」と頻りに聞いてくる後ろの二人を手で制しつつ、頭を捻って必死に方策を考える。

 早くしないと、皆の命が危ないというのに……くっ、こんな時に限って頭が回らない……! そもそも、交渉事なんて得意でもない! くそ、こんな事を考えている時間も無駄だろう!

 何か、何か……全てを丸く収める都合の良い一手はないのか……!?


「――様! ――と様! 匡人様!」


 バチン! 大声の方へ反射的に振り向いた俺の顔に鋭い張り手が飛んでくる。突然の出来事の連続に驚いて俺が何も言えないでいると、艶島は自分の手を抑えながら言った。


「恐れながら、今の匡人様は視野狭窄に陥っていると思われます! あの時のお言葉を思い出してください! 『一人より二人、二人より三人』! 私たちにそう言ってくれたのは匡人様じゃないですか! どうして私たちを頼ってくれないのですか、何も話してくれないのですか!」

「つ、艶島……」


 考え込む俺の耳には、彼女の声は全く聞こえていなかった。確かに、視野が狭くなっていたかもしれない。反省せねば。

 深呼吸だ。今だけは戦闘時のような瞬発する思考は必要ない。もっと、冷静で落ち着いた論理だけがあればいい……。

 大きく息を吸って、吐き、幾らか熱の引いた頭でもう一度艶島を見る。今にも、泣き出しそうな顔だ。


「……そうだ、そうだったね」


 俺たちはなんだ。そうなるように動いたのは他ならぬ俺。その仲間にこんな顔をさせるなんて……。俺には責任がある。彼女の思いに、報いなければならない。


「聞いてくれるかい? 実は前に艶島と話した直後の事なんだ、向こうからこの話を持ちかけられたのは。それで、話すタイミングが無くてね。悪く思わないでくれ」

「匡人様、じゃあ……」

「話すよ」


 そう言うと、艶島の顔は晴れた。

 これでいいんだ……。確かな満足感を抱きつつ、俺は『使いの者』の方を振り向いた。


「別に仲間内で相談するぐらいは良いだろう?」

「……ああ、構わないよ。たぶん」


 最後の自信なさげな「たぶん」は気になるが、一応は確認も取れたので、俺は心置きなく二人を側に呼び寄せた。



    *



「低イ、低スギル……ソンナ低イ目線デハ何モ見イダセナイ。世界ヲ救ウ事ナド出来ハシナイ……!」

『くっ……!』


 頭上から襲い来る[]の雨と、正面からバラ撒かれる9mmパラベラム弾を踊るように躱し、また[流影陣りゅうえいじん]で受け流しながら、[祝融zhùróng・lieg]は後ろ足に纏わりつく濃密な敗北の気配を感じ取っていた。

 何故、私の受け持った地区にだけこんな化物が居るんだ……! ふとした瞬間、脳裏に過る余計な思考。少し遊んで仕事したフリをして帰るつもりが……このままでは……ほんとにこんな所で死にかねない……っ!

 機体性能マシンスペックが違いすぎた。レヴィが用いているのは、さっき祝融zhùróngが使ったのと同じ[魔術]、単なる第一階梯 [FLAN]。だというのにも関わらず、このザマだ。

 祝融zhùróngとて中級魔力素マナ結晶を支給されている為、一度こっきりならこのを再現できるかもしれない。しかし、それで勝敗が決しなかった場合、その後の戦闘は無理だ。完全なるガス欠状態に陥り、何もできなくなってしまうだろう。

 大きく飛び退く。が、[]はすぐに狙いを修正して追いかけてくる。キリがない。

 ――くそっ、私だってこの程度で深手を負うようなタマじゃない。まして、生命を絶たれる事も……魔力素マナの無駄遣いだ! 奴も分かっているだろうに……自分はそれが出来る身なのだと見せつけてやがるんだ……!

 追い詰められた精神が妄執を生む。事実はともかくそう思い込み、強く恨みを募らせた祝融zhùróngは、この手加減が止まぬ内にと厨川半心軒くりやがわ はんしんけんに働きかける。もはや、形振りかまってはいられない。

 程なく、礬土アルミナの【鎖】を廻転させる事で攻撃を凌いでいた厨川の方も、祝融zhùróngから送られてくる熱視線に気が付いた。互いの視線が交わると、祝融zhùróngは続けてウィンクを送りつけた。

 なんじゃ……? 突然、気色悪い……。当初、それが『提案』だという事を理解できず、当惑する事しきりの厨川だったが、次に祝融zhùróngが取った行動を見てようやく理解した。

 祝融zhùróngは前に歩み出、厨川を庇うように堂々と背にし、[流影陣りゅうえいじん]を殊更に大きく広げたのだ。

 一瞬、生まれる空白の自由時間。

 おいの盾に……? まさか、おはん、一時的な協力関係を結ぼうとでも言うんか……!?


「――ハッ、良か良か! 乗ったァ!」


 確かにレヴィの戦力はこの場に於いては頭一つ抜けている。迷うことはなかった。

 厨川は、防御に使っていた【おもり】の廻転をそのまま攻撃へ転用、片方の【おもり】を空に浮かぶレヴィへ向けて投げつけた。【おもり】は[]の雨を潜り抜け、押し退け、レヴィの目前にまで迫って――[牆壁しょうへき]に弾かれた。

 攻撃は防がれた。だが、同時に[]の攻撃も一時的に止んだ。『二つ以上の[魔術]を並行して恣行しこうできない』という弱点が今、如実に曝け出されていた。[魔術]は、一つずつ順番にでないと処理できないのだ。

 目算通り! 祝融zhùróngは己の作り出した隙を見逃さなかった。


『良いねぇ! 仲間は良いもんだよ! 一人よか二人! これからは喜びも悲しみも二等分、持ちつ持たれつ手を取り合って生きてゆこうじゃないか! ぎゃははは!』


 余裕が戻ったお陰か、既に言葉は中国語に戻っていた。念の為、厨川が乗って来なかった時の事を考えて前だけでなく背後にも広げていた[流影陣りゅうえいじん]を両掌から切り離し、自由フリーとなった両手を再び打ち鳴らしつつ、右足で地面を叩いた。


『聞きしに勝れやげい砲熕ほうこう!』


 第四階梯だいよんかいてい [石火箭SPERE]――大筒おおづつと鉄球、黒色火薬の形成を基本設定デフォルトする魔術。対空用、それも爆撃機を想定して用意していたものだが、対人用として使えぬ訳ではない。

 叩いた地面が盛り上がり、瞬く間に[石火箭いしびや]の一式を形成するや、僅かな微調整を経て即、発射! けたたましい炸裂音を残し、火薬の残りカスが燻る白煙を引き摺りながら、直径30cmもの球形砲弾がレヴィへ向かって飛び上がる。


「レヴィ少尉!」


 砲弾の行方を追って、半ば反射的に宙空を見上げた護衛二名。しかし、その瞬間には、砲弾が宙空にあった何かに着弾し、もうもうと煙を上げていた。


解放ALIESAN!』


 更にその着弾から間髪入れず、祝融zhùróngが段階を進める。それは、宛ら打ち上げ花火の華々しき仕掛けの様に――砲弾内部の小砲弾が遍く全方位に降り注いだ。これぞ、彼女の恩寵EST――[火]の効能!

 それぞれ魔術師と纏骸者である祝融zhùróngと厨川はともかく、何ら特殊な能力を持たない護衛二名にはひとたまりもない。精々手を翳すぐらいで、それ以上は抗いようもなく、降り注ぐ小砲弾が身体に食い込む苦痛に藻掻きつつ倒れた。同時に彼等の唯一の武器である銃も破壊された。これで、ほぼ無力化したといっても良いだろう。


『さて――肝心のお前はどうだ!?』


 煙が晴れるまで待つ事はしない。そんな悠長な真似が出来るほどの余裕はない。


燎原りょうげんを駆けるふたつ矢よ!』


 差し向けた両掌から、[火]の恩寵ESTを乗せた[]を二本放つ。更に『連射EACA』と追加詠唱し、[火]の起爆と発射を矢継ぎ早に繰り返す。

 頼む……! これで死んでくれ……!

 だが、そうしている内に嫌でも気付かされる。打ち込んでも打ち込んでも、変わらず白煙の中に浮くに[]が着弾し続けていること、存在し続けていること。


『――ぐ、駄目か……!』


 このままでは徒に魔力素マナを消耗するだけだ。こちらと向こうでは継戦能力に差がありすぎる。

 一縷の望みをかけて、祝融zhùróngは背後の厨川を一瞥した。厨川は片方の【おもり】だけを加速させながら――もう片方は地面にだらりと垂らしている――レヴィと祝融zhùróngの両者に注意を払っている。

 彼と……どうにか、コミュニケーションが取りたい……! 彼の警戒心を払って全面的に協力が出来れば、どれだけ楽か……!

 厨川の母語が日本語であろう事はなんとなく検討が付いていたが、それと話せるかどうかは全くの別問題である。

 とその時、不意に事を傍観していた厨川が動いた。武装たる【鎖】を己の内に戻し、懐から取り出した何かに掛かり切りとなる。


『何だ? 何を……』


 彼の手元で忙しなく動いているのは、どこにでもあるような何の変哲もないボールペン。そして、メモ帳……祝融zhùróngは少し遅れて彼の意図を察した。


『そうか! 笔谈ひつだん……! その手があったか!』


 間もなく返された紙面上に提示されるは「撤退」の二文字。これは「一旦、身を引こう」という意だと祝融zhùróngは受け取った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る