3-3-6 ファーストコンタクト その3
霊的な白濁色の
すると、その先で得体の知れぬ霧が噴出し始めた。それが、唯の【霧】でない事は一目瞭然であるが、今更止まれるものでもない。[
『怯むな! このまま突っ込む!』
『分かっています!』
「
荒れ狂う風と共に、霊的な白濁色の
「
追加詠唱に従い、新たな[
爆発は、全ての【霧】を払い除けるまでには至らなかったが、[
『よくやった!』
手放しの
四藏匡人――!
女二人とリガヤ・ババイランに守られるようにして此方を睨み付けてくる四藏めがけ、
「
『絶対の不可侵を此処に――!』
『醜き獣、
それと同時に、
その異変に、最初に気付いたのは
奴は――何処に行った?
『――後ろかッ!』
ふと、背後に感じた気配へと振り返る
――ガンッ!
隊列最後尾を務むる
遅れて、
「峰打ちダ」
『くっ、
『遅かったか……!』
脱落した
未練を振り切り、
「
再び喚び出された[
否応なく警戒して身構え、[
前に一頭、後ろに二頭の三角系の陣形。
相前後して、
『絶対の不可侵を此処に誓わん!』
しかし、予めその位置――相対座標――を指定しておくには、
『
そして、
こういった状況を想定して、仕掛けは打ってある。
「転!」
端的な追加詠唱が術式の記述によりて奇跡を喚起する。
廊下を塞ぐように、
『さて……』
「これで、分断には成功した訳だ」
自分でも驚くほどに冷静な心情で、
「建設的な話をしよう。君たちと僕たちが歩むべき輝かしい未来の話を」
*
「話だと……?」
「そうさ」
彼我の距離、概算四メートル。このままでは俺の能力は届かないか。出来れば前に出ることなく決着を付けたいが……そうもいかない。
「匡人様、やっぱり私の能力が効いていません」
見れば分かる。役立たずめ。そう言いたいのをグッと堪えて、戦闘能力のない艶島を俺の後ろに下がらせた。どういう訳だか、あいつ等には艶島の能力が効いていないらしい。
「なにか変な感覚です。私の干渉力が遮られているような……!」
「そう! 事実、遮っているんだよ。『自己催眠』によって。精神に干渉されると危ないからね」
目の前に仁王立つ敵は、パチンと右手の指を鳴らした。
「まずは自己紹介から始めようか。僕は現代魔術聯盟に所属する[
敵の主導する流れに乗ってやる必要性はない。
殺してやる。そう決意して
「これで君は何も出来ないよね。他の二人も精神干渉の能力だから、これで完全に無力化した訳だ。だから……さ。良いじゃないか、少し話すぐらいは。他に出来ることもないだろう?」
こいつ知ってやがるな、俺たちの能力を。座標を知らなければ目視が必要という弱点を……全部、知ってやがる。こうなっては《読心》も《洗脳》も《掴み》も無用の長物だ。
十二林と艶島が不安そうに俺を見てくる。言いたいことは分かる。「どうすればいいですか」ってか? そんなもん、俺が知りたいぜ。
しかし、リーダーってのはどんな時も不安な素振りを見せてはいけないものだ。特に有事の際、そういう態度は容易く下へ伝播する。俺は、まかせておけ、という風に無策のまま頷いてみせた。
そんな俺達の様子を見てか、顔も見えなくなった敵が再び話しかけてくる。
「さて、続きを話させてもらう。今日は例の件の返事を聞きにきた」
「例の件ですって……? 一体、何の事を言って……」
クローン二人はピンときていない様子だが、俺には分かる。こいつはあのクソガキが言っていた『使いの者』で、『勧誘』の返事を聞きに来たという事なのだろう。
くそっ、予想していた以上に早い接触じゃないか……!
話は見えた。が、理解に苦しむ状況に変わりはない。まさか、態々そんな事の為にこの人工島を襲撃をしたというのか? 返事を聞くぐらい、他に幾らでもやりようはあるだろう。……何か、別の目的があるのか?
すると、そんな俺の思考ごしに奴は笑った。
「別に僕は長考されても困りゃしないけどね。後ろで戦っているお仲間の方はどうかな?」
「何だと……?」
「早くしないと死んじゃうかもね」
背後で戦っているだろう灰崎さんと螺湾さんを思う。さっき見えた範囲では、けして旗色が良いようには見えなかった。長引けば、死ぬかもしれない。
「……二人を、人質に取るというのか」
そこまでして俺が欲しいのか? こんな取るに足らない人間のどこに執着する理由がある。
「まァ~、そう取ってもらって構わないよ。僕らは返事を聞いたらすぐに帰るさ、これは約束する」
約束だと……? そんなモン信用できるかよ、一人だけのうのうと安全圏に居るような奴の軽々しい言葉を……! 仮に敵対関係じゃなくとも信用できないね。
――しかし、そんな事を言っていても始まらないのも事実だ。クローンの二人が付いて行けない話なのだから、俺が一人でなんとかしなくては……。「返事とは何か」と頻りに聞いてくる後ろの二人を手で制しつつ、頭を捻って必死に方策を考える。
早くしないと、皆の命が危ないというのに……くっ、こんな時に限って頭が回らない……! そもそも、交渉事なんて得意でもない! くそ、こんな事を考えている時間も無駄だろう!
何か、何か……全てを丸く収める都合の良い一手はないのか……!?
「――様! ――と様! 匡人様!」
バチン! 大声の方へ反射的に振り向いた俺の顔に鋭い張り手が飛んでくる。突然の出来事の連続に驚いて俺が何も言えないでいると、艶島は自分の手を抑えながら言った。
「恐れながら、今の匡人様は視野狭窄に陥っていると思われます! あの時のお言葉を思い出してください! 『一人より二人、二人より三人』! 私たちにそう言ってくれたのは匡人様じゃないですか! どうして私たち仲間を頼ってくれないのですか、何も話してくれないのですか!」
「つ、艶島……」
考え込む俺の耳には、彼女の声は全く聞こえていなかった。確かに、視野が狭くなっていたかもしれない。反省せねば。
深呼吸だ。今だけは戦闘時のような瞬発する思考は必要ない。もっと、冷静で落ち着いた論理だけがあればいい……。
大きく息を吸って、吐き、幾らか熱の引いた頭でもう一度艶島を見る。今にも、泣き出しそうな顔だ。
「……そうだ、そうだったね」
俺たちは仲間なんだ。そうなるように動いたのは他ならぬ俺。その仲間にこんな顔をさせるなんて……。俺には責任がある。彼女の思いに、報いなければならない。
「聞いてくれるかい? 実は前に艶島と話した直後の事なんだ、向こうからこの話を持ちかけられたのは。それで、話すタイミングが無くてね。悪く思わないでくれ」
「匡人様、じゃあ……」
「話すよ」
そう言うと、艶島の顔は晴れた。
これでいいんだ……。確かな満足感を抱きつつ、俺は『使いの者』の方を振り向いた。
「別に仲間内で相談するぐらいは良いだろう?」
「……ああ、構わないよ。たぶん」
最後の自信なさげな「たぶん」は気になるが、一応は確認も取れたので、俺は心置きなく二人を側に呼び寄せた。
*
「低イ、低スギル……ソンナ低イ目線デハ何モ見イダセナイ。世界ヲ救ウ事ナド出来ハシナイ……!」
『くっ……!』
頭上から襲い来る[
何故、私の受け持った地区にだけこんな化物が居るんだ……! ふとした瞬間、脳裏に過る余計な思考。少し遊んで仕事したフリをして帰るつもりが……このままでは……ほんとにこんな所で死にかねない……っ!
大きく飛び退く。が、[
――くそっ、私だってこの程度で深手を負うようなタマじゃない。まして、生命を絶たれる事も……
追い詰められた精神が妄執を生む。事実はともかくそう思い込み、強く恨みを募らせた
程なく、
なんじゃ……? 突然、気色悪い……。当初、それが『提案』だという事を理解できず、当惑する事しきりの厨川だったが、次に
一瞬、生まれる空白の自由時間。
「――ハッ、良か良か! 乗ったァ!」
確かにレヴィの戦力はこの場に於いては頭一つ抜けている。迷うことはなかった。
厨川は、防御に使っていた【
攻撃は防がれた。だが、同時に[
目算通り!
『良いねぇ! 仲間は良いもんだよ! 一人よか二人! これからは喜びも悲しみも二等分、持ちつ持たれつ手を取り合って生きてゆこうじゃないか! ぎゃははは!』
余裕が戻ったお陰か、既に言葉は中国語に戻っていた。念の為、厨川が乗って来なかった時の事を考えて前だけでなく背後にも広げていた[
『聞きしに勝れや
叩いた地面が盛り上がり、瞬く間に[
「レヴィ少尉!」
砲弾の行方を追って、半ば反射的に宙空を見上げた護衛二名。しかし、その瞬間には、砲弾が宙空にあった何かに着弾し、もうもうと煙を上げていた。
『
更にその着弾から間髪入れず、
それぞれ魔術師と纏骸者である
『さて――肝心のお前はどうだ!?』
煙が晴れるまで待つ事はしない。そんな悠長な真似が出来るほどの余裕はない。
『
差し向けた両掌から、[火]の
頼む……! これで死んでくれ……!
だが、そうしている内に嫌でも気付かされる。打ち込んでも打ち込んでも、変わらず白煙の中に浮く何かに[
『――ぐ、駄目か……!』
このままでは徒に
一縷の望みをかけて、
彼と……どうにか、コミュニケーションが取りたい……! 彼の警戒心を払って全面的に協力が出来れば、どれだけ楽か……!
厨川の母語が日本語であろう事はなんとなく検討が付いていたが、それと話せるかどうかは全くの別問題である。
とその時、不意に事を傍観していた厨川が動いた。武装たる【鎖】を己の内に戻し、懐から取り出した何かに掛かり切りとなる。
『何だ? 何を……』
彼の手元で忙しなく動いているのは、どこにでもあるような何の変哲もないボールペン。そして、メモ帳……
『そうか!
間もなく返された紙面上に提示されるは「撤退」の二文字。これは「一旦、身を引こう」という意だと
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