六花の誘い ~通りゃんせ~

トチイ 青

第1話 始まり~

 おなかすいたよぉ~・・・・・・・・


 ぐすん ぐすん


 もう うごけない。


 ぼくは、このまま しんでしまうのかなぁ?


 しんだら、くるしくない?

 パパは、かなしんでくれる?

 なんでパパはいないの?

 パパはどこ?

 あいたいよ・・・パパたすけて・


 伸ばした手は、宙をつかむ。 


 そして、泣く力もなくなった頃、どこからともなく聞こえてきた。





 ♪ 通りゃんせ~ 通りゃんせ


   ここはどこの ほそみちじゃ~


   天神様の  ほそみちじゃ~ ♪




 ーーーーーここは、とある街の端にある稲荷神社ーーーーー

 



 鬱そうとした山間に、鮮やかな赤い色の鳥居が99個並んでいる。そしてその先に、こじんまりとしたお社がある。旧いせいか、お社は少しというか大分というか・・・・・・・。まあぶっちゃけるとくたびれていてぼろい。

 しかし、手入れはしっかりされているので、それなりに味わいがあって、観る者を魅了し、ざわつく精神を清め、落ち着かせてくれる。

 そんな不思議なお社は、『古事記』の時代から有ったかも知れないという噂がある位、遥か昔からその場所に有った。




 ところで、知っているか分からないが、全てのお社に、神様がいる訳ではない。


 でも、このお社には、ちゃ~んと神様がいらっしゃるのです 。


 


 

 そこに住んでいるのは、穢れなき雪のように美しい狐の神様。


 見た目だけでなく、なんと言っても1番美しいのはその心!!


 慈悲深く、気高い精神が、凜とした雰囲気を纏い、いっそうに美しさを際立てる!


 畏れ多くもその名は、『白雪』様。



 


 


 そんな『白雪様』には、こんな逸話がある。




 『不幸な、7つになる前の子がいると、哀れに思って連れて行く』



 

 ーーーそれは、よくある神隠しーーー



 子どもが行方不明になる時、お社の99個の鳥居がぽ~と光、唄が聞こえるらしいのも、神隠しを本物付けているといわれている。実際、1年に数回目撃されており、調べたらいないんですよ! 子どもが! 鳥居には、光る仕掛けもないし、もちろん唄が流れるような物もなし。


 だから、この街の住民は、当たり前の用に受け止めていて、どちらかと言うと「可哀想な児を救ってくださりありがとうございます」ってな感じ。








 ♪ いきは よいよい  かえりは こわい


   こわいながらも


   通りゃんせ~ 通りゃんせ       ♪









 パパ・・・・ ママ・・・・

 

 りこんってなに?


 みんなで いっしょに すんでいた 


 いえに かえりたい・・・・


 パパ・・・・ さむい・・・・


 どこ? 






 ♪ 通りゃんせ~ 通りゃんせ ♪



 どこからともなく、唄が聞こえる。そして、目の前の空間がぐにゅりと歪む・・・・。




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